ペップ・グアルディオラ監督がついに、マンチェスター・シティの監督の座を離れることになった。
彼はシティで指揮を執った10年間で、20ものタイトルを手にした──プレミアリーグを6度、リーグカップを5度、FAカップを3度、コミュニティーシールドを3度、チャンピオンズリーグ、クラブ・ワールドカップ、UEFAスーパーカップを1度ずつ。
2017-18シーズンにはイングランド1部リーグ史上唯一の勝ち点100を記録し、翌2018-19シーズンにはイングランド史上初の国内4冠を遂げている。また2020-21シーズンからのリーグ4連覇もイングランド1部リーグ史上初めてのもので、シティの宿願だったチャンピオンズリーグ(CL)を制した2022-23シーズンには3冠──CL、プレミアリーグ、FAカップ──も達成した。
マンチェスター・シティでの最後の試合を終え、ファンに向けて手を上げるペップ・グアルディオラ監督photo by Robbie Jay Barratt - AMA/Getty Images
ただし、グアルディオラ監督の功績はトロフィーの数だけで測ることはできない。
この10年で、イングランドのフットボールの風景はすっかり変わった。かつて"キック&ラッシュ"と呼ばれたイングランド伝統のプレースタイル──最終ラインからロングボールを前線に放る戦術──は、プロのトップレベルはもちろん、育成年代やアマチュアのピッチでもほとんど見られなくなり、GKからショートパスを繋ぐ手法が普通になった。
そして世界最高と謳われるプレミアリーグのトレンドは、世界中のフットボールチームに影響を与える。おそらくいかなる国のどんなレベルでも、リズムよくショートパスをつないでいく"ティキ・タカ"が、主流になっているはずだ。
だが振り返れば、すべてが最初から順風満帆だったわけではない。初年度の2016-17シーズンはイングランドの水に慣れるまでに時間を要し、12月の前季王者レスター・シティ戦では78%のポゼッションを記録しながら、鋭利なカウンターアタックに襲われ、ジェイミー・ヴァーディーのハットトリックを含め、2-4の手痛い敗北を喫した。
「イングランドではタックルのことばかり訊かれるが、私はタックルのトレーニングはしない」と試合後にグアルディオラ監督は話した。「私が築きたいのは、よいフットボールを展開し、多くのチャンスを創り、たくさんの得点を奪うチームだ。タックルを教えようなんて思ったこともない」
【宿敵クロップとの間には友情も】この時、さすがにグアルディオラ監督でも、イングランドのスタイルに合わせていくことになるかとも思われたが、結果的に、逆にイングランドがこのカタルーニャ出身の類稀な戦術家の思想に染まっていった。3年目には首位を独走したまま、最後に勝ち点100に到達して優勝。19ポイント差の2位に入ったマンチェスター・ユナイテッドを率いていたジョゼ・モウリーニョ監督は、のちにこう発言している。
「(2017-18シーズンのプレミアリーグで)マンチェスター・ユナイテッドを2位で終わらせることができたのは、自分のキャリアで最高の仕事のひとつだと捉えている」
ライバルにも恵まれた。元レアル・マドリーのモウリーニョとはスペイン時代から不仲だと言われていたが、プレミアリーグで一時期、2強時代を共につくった元リバプールのユルゲン・クロップ監督とは、互いを認め合うよき宿敵関係にあった。
2017-18シーズンから7年間、2019-20シーズンのリバプールだけがシティの優勝を阻むことができた。また翌2020-21シーズンには、シティとリバプールは勝ち点98と97のハイレベルな競り合いを演じている。プレミアリーグのトップで長年にわたってライバル関係にあった点では、1990年代から2000年代のユナイテッドのアレックス・ファーガソン監督とアーセナルのアーセン・ベンゲル監督とも似ているが、グアルディオラとクロップの間にある友情はなかった。クロップは最近、グアルディオラ監督がシティを離れることを表明すると、自身の持つマジョルカ島の豪華な別荘に彼を招待したという。
「ユルゲンは私に多くのものを与えてくれた。彼と争った日々が懐かしいよ」と昨年、グアルディオラ監督はこぼした。「あの頃は、(クロップという)極めて優秀な指導者が作るリバプールに勝つために、自分も最大限の努力をし、大きく成長できた」
その言葉通り、グアルディオラは成長、いや進歩を止めなかった。サイドバックが中盤に入る動きはもちろん、センターバックも中盤に上がるようになり、偽の9番から本格派のストライカーの有効活用まで、改良を重ねた。それらは実に多くの同業者が模倣するようになり、最近ではイングランド代表がウェンブリーで日本に0-1で敗れた試合で、トーマス・トゥヘル監督が採用している(まったく機能しなかったが)。
【考えすぎて、突飛な選択をしたことも】イングランドにそれほど大きな影響を与えたグアルディオラだが、イングランドのリーグ史上最高の監督に推す声は、意外と大きくない。彼が史上最高の監督と認めるファーガソンや、食事やリカバリーなどに変革を起こしたベンゲルとは異なり、グアルディオラは自らの力で一時代を築いたわけではない。特にファーガソンは自身が育てた多くの選手を超一流にし、彼らをチームの中心に据えたが、グアルディオラ監督にはアブダビの王朝がすべてを供給した。無限の資源があったからこそ、マンチェスターに水色の王朝が築かれたと考え、グアルディオラをベストと見做さない人は少なからずいるのだ。
いずれにせよ、グアルディオラというフットボールに取り憑かれた異能は、頭の先からつま先まで24時間365日、この競技に完全に没頭し、努力し続けた。それだけは間違いない。選手に多くを要求するぶん、自らにも重圧を課す。考えすぎて突飛な選択をし、うまくいかなかったこともある──ダイヤモンド型の中盤の4-4-2で、アンカーにロドリではなくイルカイ・ギュンドアンを起用し、チェルシーに0-1で敗れた2021年CL決勝など。ただし、そうした失敗のすべてを自らの血肉とし、その2年後に欧州の頂点に立っている。向上心と負けず嫌いは、勝負に身を置く者に必要なものだが、彼ほど苛烈にそれらを備えている人はそうはいない。
最後の2シーズン(それはクロップがリバプールの監督を退任したあとの2年間だ)、グアルディオラ監督は国内カップしか獲得できなかった。クロップが「この仕事をずっとやり続けることは不可能だ」と言ったように、グアルディオラも「本当に、私は疲れてしまったんだ」と吐露した。これが限界だったのだろう。そして彼の影響力が薄れている時期でもある。
それでもグアルディオラが残したレガシーはイングランドに生き続ける。今季のプレミアリーグを制したアーセナルのミケル・アルテタも、シティの次期監督と目されるエンゾ・マレスカも、過去にシティでグアルディオラの参謀を務めていた。これからもイングランドでは、より戦術的で、よりポゼッションを重視し、よりテクニカルなフットボールが、繰り広げられていくに違いない。
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