ドリブルで中へ切り込む長崎ヴェルカのSFスタンリー・ジョンソンに、琉球ゴールデンキングスのディフェンダー複数が引き寄せられると、SG/SF馬場雄大は気配を消したかのようにするりと場所を変えた。
※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。
その様子を見て取ったジョンソンは、逡巡することなく彼にパスを送る。慌てて馬場についていたディフェンダーのPG/SG小野寺祥太がブロックに向かうも、間に合わない。
馬場が放った3Pシュートは、きれいにネットを揺らした。
それにより、長崎は琉球に対して8点差をつけた。残り時間はまだ2分近くあったから、勝利を決定づけたとまではいかなかったが、長崎の側にグッと引き寄せられたのは確かだった。
馬場雄大は長崎の優勝が決まると感情を爆発させたphoto by B.LEAGUE
はたして、Bリーグの年間王者を決める「ファイナル」の最終・第3戦は、長崎が72-64で琉球を下してリーグ初優勝を成し遂げた。
この第3戦、馬場はファウルが立て込んでしまい、出場時間は24分弱。前2戦から約10分、減ってしまった。
「チームには迷惑をかけた」
試合後のコート上でのインタビューで、馬場はこのように話した。しかし、シリーズでの彼のプレーぶりを見ていたのならば、彼を責める者などいるはずもなかった。
ファイナル3試合での平均13.3得点は、チャンピオンシップMVPとなった韓国出身のSG/SFイ・ヒョンジュンの同18.3得点と比べれば、特筆すべきものではなかったかもしれない。それでも、馬場が放つ光は強かった。彼がコートに立てば輝きを放ち、チームに活力と心強さをもたらした。
「もうねー、ファウルがねー」
上記の「迷惑をかけた」という言葉の前には、インタビュアーの問いにおどけつつ、こう返した。優勝を決めた瞬間は、さすがの彼も興奮を抑えようともしなかったが、そこからわずか数分で馬場は角のない鷹揚な、いつもの彼に戻っていた。
【オールラウンダーの本領発揮】類(たぐい)まれな身体能力によるダンクなどの印象も強い。だが、馬場のプレーぶりは基本的に、派手さよりも滑らかさにあるように思える。
持ち味はスピード。しかし、コートを駆ける際の動きを観察すると、上体を大きく振り、太ももを大きく上げて走るわけではない。最小限の動力で最大限の推進力を生むさまは、古(いにしえ)の日本人の動きに通ずるところがありそうだ。
アルバルク東京所属時代にもファイナルを経験し、2018-19シーズンには大会MVPにもなっている。日本代表としてワールドカップやオリンピックにも出場するなど、経験値は豊かだ。
それでも、ファイナルで肩に力の入りすぎない自然体の馬場のプレーぶりが際立った。大舞台でも意気込みすぎず、自分のできる範囲で最大限を出しきることに注力できていた。
「ファイナルみたいな試合では、"正しいプレー"をした者が勝つと思っています」
馬場はシリーズの最中、こう述べ、言葉を続けた。
「長崎は若いチームなので、経験のある選手のひとりとして自分が先頭に立ってそういうプレーをすることによって、言葉で示さなくても安心と冷静さをもたらすことができるかなと思っています。プレー以上のところでチームに与える影響の大きさを考えています」
「正しくプレーする」とは「すべきことを着実にこなすこと」と解釈できようか。容易に見えて実はそうではないそのことが、馬場にはできる。
ファイナル初戦では味方に固さがあるなか淡々と3Pを決め、2戦目ではシュートタッチが悪くても、相手のエースへの強度の高いディフェンスからリズムを作った。そして3戦目では自身がオープンになるとすかさず中間距離のシュートを沈め続けた。
得意のダンクも何度か出たが、冷静かつ粛々とプレーを決め続けることで、すぐにノックダウンにつながるというよりも、ダメージを蓄積させるようなボディブローを琉球の腹に打ちつけていた印象だった。
オールラウンダーなのは間違いない。攻守の両面の多岐にわたる場面で力量を発揮できるから、何かひとつの調子が悪くとも、ほかの技量でそれを補うことができる。ファイナルでは3試合とも、彼の活躍の仕方が違っていたようにも思えた。
【マオールHCが馬場に思うこと】筑波大時代にはインカレを2度制覇。先述したとおり、馬場はアルバルクでBリーグ優勝を果たし、オーストラリアNBLのメルボルン・ユナイテッド所属時もリーグ優勝を飾っている。そして長崎で再び、頂点に立った。
何かひとつの能力が突出した選手ではないだけに、個人スタッツで上位にくることは少ない。だが、チームを勝たせる能力という点で馬場が日本で最高峰にあることは、こうした彼のキャリアが物語っている。
長崎のモーディ・マオールHC(ヘッドコーチ)は、馬場を常々高く評してきた。
30歳の日本人を「NBA級の選手」と語り、「利他的で集中力が高く、自信を持った選手がチームにいることは、コーチにとって"ズル"ができるようなもの」と比喩表現を交えつつ、最大限に称揚した。
「シーズンを通して私たちを見てくれていた人たちにはわかってもらえていると信じたい。馬場さんはこのリーグで最高の日本人選手だということを。彼が攻守で見せるプレーぶりは、このリーグにおいて最高級のもの。彼のいるチームが勝ってきたのは、彼がそうしたチームでプレーをしてきたからです」
優勝後の会見で馬場の発言が終わると、マオールHCは「私にも言わせてくれ」とマイクを持ってこう言った。あえてそうした行動に出たあたりに、馬場への評価の高さがうかがえた。
2021-22のリーグ参戦から5年以内にB1での優勝争いに加わる──。2020年に創設された長崎ヴェルカは、大きなビジョンを掲げて歩みを始めた。B1に昇格した2022-23シーズン、馬場はその目標を達成するために請われたかたちで加入した。
優勝争いをせねばという重圧を如実に感じていたわけではないと、馬場は語った。しかし一方で、昨シーズンまでの2年間はBリーグ全体の成長速度に適合できておらず、自身の取り組みが「甘かった」と自責を込めた。
ただ、だからといって、そうした時期が無駄だったとは考えない。それはある意味で、前向きな馬場らしい思考でもあった。
「優勝を達成するには、そういった光の当たらない時間も絶対に必要だったと思います。あの時間があったからこそ、今の自分たちがある。結果論ですけど、あの時間が僕たちを強くしてくれたと思いますし、すごく充実した時間でした」
【ギアが上がった優勝まで残り3分】球団社長兼GM(ゼネラルマネジャー)の伊藤拓摩氏が馬場と最初に出会ったのは、彼が大学1年生の時だったという。その後、アルバルク時代はアドバイザーと選手という関係で、Gリーグのテキサス・レジェンズ時代もコーチとして馬場のそばに身を置いてきた。間柄は言うまでもなく、長崎のほかの誰よりも密接なものだ。
今よりも鼻息の荒かった20代前半の馬場を、伊藤氏は「かわいらしい子」だったと振り返る。だからこそ、彼の選手として、また人間としての成長を喜んだ。
ファイナル第3戦の前、伊藤氏はチームのアシスタントコーチからある話を聞かされた。そのコーチいわく、2日前の第2戦目に勝利したあと、馬場がハドルのなかで仲間に向かって「次は長崎のために勝つよ」と伝えたのだという。
「その言い方やオーラがチームをすごくグッとまとめたのだと、そのアシスタントコーチは言っていたんです。リーダーとしても人間としても成長したと思います。このファイナルでもCS(チャンピオンシップ)でも、彼のリーダーシップはすばらしかったと感じています」
さきほど、ファイナルでの馬場の印象を「粛々とプレーする」と表現した。しかし第3戦、ファールトラブルでベンチに長く下がっていた馬場が試合残り6分半でコートに戻ってからのプレーは、その形容が当てはまらなかった。
残り3分。琉球のPG/SG岸本隆一からSF/PFヴィック・ローへのパスに反応した馬場は、それをカットしようと右腕を伸ばしながら飛び込んだ。跳んだ、と表現してもいい。「優勝」の二文字が否が応でも頭をかすめる時間帯──さすがの馬場もギアを上げた。
そうした最終局面でのプレーについて、馬場は「本当に勝ちたい思いが全面に出ていたなと、客観的に見て思いますし、自分に対しても『よくやったな』と言いたいです」と語った。
客観的に見て──という表現が、どこか馬場雄大らしい気がした。
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