あなたは、周囲を気にせず映え撮影に夢中な人に、ウンザリしてしまった経験はありませんか?
今回は、登山中にそんな2人組に遭遇してしまった女性のエピソードをご紹介しましょう。
映え優先? 山に響く大騒ぎ
ある休日の朝。北野晴海さん(仮名・34歳)は、久しぶりのソロ登山を楽しむため、人気の低山を訪れていました。
「空気も澄んでいて、今日は最高の登山日和だな〜って感じでしたね」
休日ということもあり、山には家族連れやソロ登山者など、それなりに人はいたそうですが、皆マナーよく譲り合いながら歩いていたそう。
ところが、登山口からしばらく進んだ頃。晴海さんは、後ろから妙に甲高い声が近づいてくるのに気づきました。
「現れたのは、20代前半のキラキラ登山女子2人組で……露出多めのオシャレ優先コーデに、強烈な香水の匂いを振りまきながら『ここ超映える〜! ちょっと待って、今の撮れてない! もう1回ジャンプして〜!』と、数メートルおきに立ち止まっては自撮り大会をしていたんですよ」
2人組は「待って、光やばくない?」「フィルターどれが盛れる?」「それ加工したら絶対バズるって!」など、映えの話ばかりしていたそう。
しかも、狭い登山道でも平気で道を塞ぎ「すみませーん、ちょっと待ってもらえます?」と、後ろの登山客を止めて撮影続行する始末。
「さらに1人は、コンパクトミラーを取り出して前髪チェック。もう1人はスプレータイプの日焼け止めをシューッと連発して。山の自然の香りが分からなくなるくらい、香水とスプレーの匂いがすごくて。周りの登山客はかなりウンザリしていました」
ついに起きたヒヤリとする事件
それでも2人はまったく気づかず、頂上近くの細い山道でもまた立ち止まり、自撮りを始めたそう。
「狭い道を完全に塞ぎ、後ろには登山客が列になっているのに『ちょっと待って! 今の盛れてない! もう1回いこ!』とお構いなしに、スマホを岩に立てかけてタイマー撮影を始めたその時……」
突然、山の上から強い風が吹き抜けました。
「そしたら立てかけていたスマホが倒れ、そのまま斜面をガタンッ! ゴロゴロゴロと転がり落ちていってしまったんですよ」
女性の1人が悲鳴をあげ「うそっ!待って!!」と反射的に斜面へ降りようとした瞬間、後ろにいた50代くらいの男性登山者が、鋭い声で「降りるな! 滑落するぞ!!」と制止したそう。
その声は、それまで穏やかだった山の空気を一瞬で緊張させるほど迫力がありました。
ベテラン登山者の厳しくも温かい言葉
「2人組がビクッとして固まっていると、さらに別のベテランっぽい登山者からも『山でスマホ追いかけて転落事故って珍しくないんですよ。遊び半分で危ない場所に入らないでください』と真顔で注意されていましたね」
さっきまでキャッキャとはしゃいでいた2人組は、顔面蒼白になりました。
しかも周囲の登山客たちも「だから道の真ん中で撮影していたら危ないんだよ」「ずっと迷惑だったしな……」とヒソヒソ。
「結局、スマホは木に引っかかっていたのを、慣れた登山者の男性が安全な場所から拾ってくれたものの、画面はバキバキでしたね」
さっきまでの勢いは完全になくなり、2人組はしょんぼりしてしまいました。
「すると男性は、怒るでもなく、少し笑って『山ってね、誰かに見せるためじゃなくて、自分が気持ちよくなるために来ると、もっと楽しいんですよ』と優しく語りかけていて」
2人がハッとしたように顔を上げると男性は、遠くの景色を見ながら「写真より、風の匂いとか、鳥の声とか。そういうの覚えて帰る日のほうが、案外いい思い出になるもんだよ」と続けたそう。
映えより心に残った景色
その瞬間、さっきまで騒がしかった2人組が、初めて静かに周囲を見渡しました。
「そしたら女性の1人が『本当だ……なんか、気持ちいいですね』と申し訳なさそうな顔になり、もう1人も照れくさそうに周りの人たちへ頭を下げたんですよね」
その後の2人は、自撮りをやめ、道を譲りながら静かに下山していったそう。
「彼女たちは悪い子なわけではなく、ちょっと浮かれ過ぎて周りが見えていなかっただけなのかな? と思いました。これをきっかけに山を好きになって、マナーを守ってまた登りに来てくれたらいいのになと思いました」と微笑む晴海さんなのでした。
<文・イラスト/鈴木詩子>
【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop
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