5月27日(水) 17:00
日本民俗学の父、柳田國男は「常民」という言葉を作り、彼らこそがこの国を支えてきたとした。消え去ったように見えた「常民」。だが、彼らは生き延びていた。いや、再発見されたのだ。スズキナオのこの本の中で!——高橋源一郎(小説家)
ただ座って飲んでるだけで、知らない人から話しかけられるひと、というのがいる。スズキさんがそんなひとだ。ちょうどよい温度の風呂のようなひと。その場に溶け込むくせに、意外に人の領域に入り込んでくる。正直、羨ましい。とにかく、これめっちゃいいので、みんなに読んでほしい。これが生活史だ。——岸 政彦(社会学者)
検索してわかった気になっていたけど、この世はこんなにいろいろだってことを教えてくれる。——林 雄司(『デイリーポータルZ』編集長)
「天声人語」他、新聞各紙書評で激賞された記念碑的デビュー作に新作を加えた待望の増補新版!「まえがき」公開!
大阪に暮らして5年ほどになる(2019年当時)。それまではずっと東京に住んでいた。東京で育ち、大人になって会社勤めをしていた。それが、30代も半ばになろうかというタイミングで大阪に引っ越すことを思い立ち、会社を辞めてライター業を始めることにしたのだった。
毎月、安定した収入があった会社員時代とは打って変わって、肩書を「ライター」とした名刺を作ってみたところで、仕事はほとんどない。お金がなく、時間だけは持て余すほどある、という日々が始まった。
食文化も人々のノリも東京とは違う大阪は、当初、私には厳しい場所に見えた。それでも、少しずつ知り合いが増え、好きな場所もあちこちに見付かり、今ではだいぶ落ち着いていられるようになった。一方で、実家があり、気の合う飲み仲間のいる東京へも頻繁に通っている。
本書に収めた文章は、大阪と東京を片道2000円台という低価格で結ぶ深夜バスに乗って行ったり来たりしながら、たまにそれ以外の土地にも出かけ、いくつかのWEB媒体に執筆したものが中心だ。どの文章も、お金がなく、暇だけはあるような日々をどう楽しもうかと考えた末に生まれたようなものばかり。のんびりした時間が流れる店を訪ね、そこにいる人々にお話を伺ったものも多い。全編を通して派手なものはなく、書き手のせいで随所にしみったれた雰囲気が漂い、気恥ずかしくもある。
しかし、考え方次第で、なんでもない日々を少しぐらいは楽しいものにすることができるという思いは確信に近い。年に1回か2回、ドーンと海外へ旅行するのももちろん最高だけど、遅い時間に起きた日曜日でも、「今まで通り過ぎるだけだったあの店に行ってみよう」とか、何かテーマを設けて散策してみたら案外いい一日になったりする、そんなイメージだ。思うようにならず、息苦しさを感じることもある毎日の中で「まあ、まだまだ楽しいことはあるよな」と少しでも前向きな気持ちになってもらえたら嬉しい。
本書で取材したお店のなかには、残念ながらすでに閉業してしまったところが多くある。かつて存在した場所の記録として読んでいただければ幸いである。
<この記事をOHTABOOKSTANDで読む>