ひろゆき、土壌学者・藤井一至とひも解く"土の秘密"⑥「火星でジャガイモなどを育てることはできるんですか?」【この件について】

「火星でもコケを生やせば、思ったより早く土に近づくんじゃないかと考えています」と語る藤井一至氏

ひろゆき、土壌学者・藤井一至とひも解く"土の秘密"⑥「火星でジャガイモなどを育てることはできるんですか?」【この件について】

5月26日(火) 8:00

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「火星でもコケを生やせば、思ったより早く土に近づくんじゃないかと考えています」と語る藤井一至氏

「火星でもコケを生やせば、思ったより早く土に近づくんじゃないかと考えています」と語る藤井一至氏





ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。土壌学者の藤井一至先生との6 回目です。人類が火星に移住した場合、大事なのは食料。そこで「農作物を作ることができるのか?」と藤井先生に聞いてみました。すると、なんだか夢のある話が聞けました!

***

ひろゆき(以下、ひろ) イーロン・マスクが火星移住を目指していますよね。人類が宇宙で暮らす未来が本当に来るかもしれない。そうなったとき、一番の問題は食料だと思うんです。まず、火星の地面にジャガイモを植えるところから始まるんですかね?

藤井一至(以下、藤井) まさに映画『オデッセイ』(2016年公開)の世界ですね。確かに、ジャガイモは有力です。根菜は面積当たりの収穫量が多いし、ジャガイモは寒さにも強い。

ひろ 『オデッセイ』の世界は、割とリアリティあるんですね。

藤井 ただ、いきなり火星の地面にジャガイモを植えるのは難しいです。今は国際宇宙ステーションなどの植物工場で、ジャガイモやトマトを育てる技術がかなり進んでいます。でも生産量は限られます。その次に出てくるのが、「現地で普通の農業に近い形で育てられないか」という発想です。

ひろ でも、火星には土がないですよね。

藤井 はい。月や火星の表面にあるのは、「レゴリス」と呼ばれる岩石が細かく砕けた砂の堆積物です。それを〝土っぽい状態〟に変えなきゃいけない。その第一歩として作りたいのが粘土です。地球で岩を粘土に変えようとすると、塩酸や硫酸をかけるのが手っ取り早いんですけど、さすがに宇宙船に危険で重い物を積んでいくわけにはいきません。

ひろ 確かに(笑)。

藤井 代わりに期待されているのがコケです。コケは岩から栄養分を引き出すために自分で酸を出します。その酸で岩を少しずつ風化させて粘土を生産します。危険な薬品を大量に持ち込むより、ずっと現実的です。

ひろ でも、火星には地球みたいな大気がないから、宇宙線の影響をまともに受けますよね。コケって、そんな環境でも耐えられるんですか?

藤井 そこが大前提ですよね。実際、僕がお世話になっているコケの専門家は、宇宙線にも耐えられるタフなコケをすでに見つけています。

ひろ そのコケって、酸素がなくても生きられるんですか?

藤井 いや、酸素は必要です。まずは火星に人が住めるドームを造って、中を地球に近い空気環境にすることが必要です。そのための酸素や水は別の専門家がなんとかしてくれる前提の話です(笑)。

ひろ でも、その条件がそろったとして、コケが岩を溶かして粘土に変えるのって、何万年もかかるんじゃないんですか?

藤井 案外、そうでもないんですよ。僕は「1cmの土ができるのに100年とか1000年かかる」と言っていますが、それは「北海道で2万年前の火山灰の上に2mの土ができている」という観察から逆算した平均値に過ぎないんです。

ひろ なるほど。平均すると遅く見えるけど、立ち上がりはもっと早いかもしれないわけですね。



藤井 はい。それに関係する面白い話があって、僕の先輩が1979年に、岩石の粉末を女性用ストッキングに詰めて土に埋めたんです。どれくらいで土っぽく変わるのかを見るために。残念ながら、その先輩は翌年に亡くなられたのですが、几帳面な方で埋めた場所の地図を残してくれていた。

ひろ 結局どうなったんですか?

藤井 僕が40年後に掘り出したら、かなりしっかり土っぽいものになっていました。だから、火星のレゴリスでも、コケを生やせば思ったより早く土に近づくんじゃないかと考えています。しかも完璧に地球と同じ土を作らなくてもジャガイモは育ちます。植物がちゃんと死んで、それを分解する最低限の微生物がいて、栄養分が循環するシステムさえ構築できたらいいので。

ひろ その微生物って、最低何種類いればいいんですか?

藤井 NASA(米航空宇宙局)が月や火星の砂に似た模擬土を販売しているんです。それにコケを生やして土に変わるのに何種類の微生物が必要かを調べているんですけど、たぶん5〜10種類いればシステムができるんじゃないかと思っています。

ひろ でも、コケで一から岩を分解させるより、最初から地球の土を大量に持っていって、そこに火星の砂をどんどん混ぜて増やしたほうが早かったりしません?

藤井 それはかなり有力なやり方で、僕は「ぬか漬け型」と呼んでいます。ぬか漬けは乳酸菌だけ入れてもできず、ぬか床があるから発酵するのと同じで、微生物も土という居場所ごと持っていくほうが定着しやすい。もしコンテナひとつ分でも土を持っていけるなら、火星の砂に混ぜて土を増やせると思います。あとは、それを誰が運ぶのか。そこはイーロン・マスクさんに相談するしかない(笑)。

ひろ かなり大がかりですね。だったらコケよりも、火星の砂を太陽光で分解して酸素を出すような細菌を作るほうが早かったりしませんか?南極の氷の下みたいな酸素がほとんどない環境でも生きている細菌っていますよね。

藤井 発想としては面白いです。ただ、岩石の風化を劇的に進めるのは、細菌よりもカビやキノコ、あるいはコケなんですよ。

ひろ それはなぜですか?

藤井 彼らは自分で岩を溶かしてそこから栄養を取り出し、その分だけ体を大きくしたり、繁殖したりできる。つまり、岩を溶かすこと自体が生きるという欲望と直結しているんです。細菌でも地上で岩石を早く風化させるグループ(地衣類)はカビと共生しています。陸地で土ができるスピードを押し上げている原動力は光合成なんですよ。太陽光を使って大きくなりたいというのが生物の欲望なんです。

ひろ やっぱり欲望のある生き物を使ったほうが早いわけですね。ところで、微生物を宇宙に持ち込むことのリスクはないんですか?変な進化をして暴走するとか。

藤井 それは「宇宙の外来種問題」として議論されています。微生物は遺伝子のやりとりを頻繁にするので、予想外の性質を持った個体が生まれる可能性がある。しかも一度、宇宙に広がると厄介です。

ひろ 宇宙って、微生物を持ち込むだけでも慎重にならなきゃいけないんですね。

藤井 そうなんです。そして、もうひとつ大事なのが限られた資源をどう回すか。宇宙ではゴミや排泄物まで含めて全部循環させないと資源がすぐ尽きてしまいます。

ひろ でも、宇宙環境でそれができるなら、地球でできないはずがないじゃないですか。つまり、宇宙の過酷な環境で廃棄物を完全循環できる技術が確立されたら、地球の資源問題にもめちゃめちゃ応用できませんか?

藤井 まさにそうなんです!現在も貧しい国ほど化学肥料を買えず、有機農業をするにも資源が乏しい。でも、宇宙ステーションのような極限環境で確立された完全循環型の農業が地球に還元されれば、資源の乏しい場所でも食料を作れる可能性が出てくる。宇宙で土を作る研究は、実は地球の食料問題の答えを探す研究でもあるんです。

ひろ 火星移住の技術が、結局は地球を救うかもしれない。面白いですね。

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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA)

元『2ちゃんねる』管理人。中野信子氏との共著に『脳科学が教える日本社会で賢く生き残る方法』(集英社)など

■藤井一至(Kazumichi FUJII)

1981年生まれ。土壌学者。福島国際研究教育機構・土壌ホメオスタシス研究ユニット・ユニットリーダー。主な著書に『土地球最後のナゾ』(光文社新書)、『土と生命の46億年史』(講談社ブルーバックス)など



構成/加藤純平(ミドルマン)撮影/村上庄吾

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