優しい彼の実家で見た、信じがたい光景。その違和感……あなたなら見て見ぬ振りができますか?
今回は、そんな経験をした女性のエピソードをご紹介しましょう。
第一印象は「良いお父さん」だったのに
佐々木紀香さん(仮名・28歳)は、付き合って半年になる彼氏の隆さん(仮名・30歳)と、マンション更新のタイミングで同棲を考えるようになりました。
「結婚の話も出ていたので、同棲しながら準備を進めようかということになり、まずお互いの両親に報告の挨拶をしに行こうということになったんですよ」
最初に向かったのは、隆さんの実家でした。お母さんは手料理でもてなしてくれ、終始にこやか。家の中は穏やかで、これから家族になるかもしれない相手を歓迎しようという空気に包まれていたそう。
「隆のご両親とは、チラッとご挨拶したことはあったのですが、ちゃんと話すのは初めてでした」
隆さん自身が温厚で優しい性格だったこともあり、紀香さんは自然と「ご両親もきっと同じような人なのだろう」と感じていました。すると実際、お父さんも柔らかな笑顔で「気を遣わないでくつろいでね」と声をかけてくれ……その一言に、紀香さんは「やっぱり隆のお父さんも素敵な人なんだな」と静かに感動したそう。
「飼い猫のマリちゃんを私に紹介してくれたり、隆の学生時代のアルバムを見せてくれたりと、とても和やかで良い雰囲気だったんですよ」
お酒で空気が変わってしまう
ところがその空気は、一本のビールを境にはっきりと変わってしまいました。
「今日はおめでたいから、まだ明るいけどもういただこうかな」
そう言ってお父さんが飲み始めると、表情は笑顔のまま口調が徐々に荒れていきました。冗談とも本気ともつかない言葉が増え、笑って受け止めていいのか判断に迷うような発言が続いたといいます。
「さらに酔って目が据わったお父さんは、お母さんを指さすと『昔はよくこいつをぶん殴ったりしたもんだよ』と自慢げに話し出して……。え、嘘でしょ? さっきまでの朗らかなお父さんはどこに行ったの?って、頭が真っ白になりました」
過去の暴力を、あまりにも軽く当たり前のように語る姿。それ以上に紀香さんを凍りつかせたのは、その場にいた家族の反応でした。お母さんも隆さんも、真剣に止めることも強く否定することもなく、「まあまあ」と軽くたしなめるだけ。その態度は、まるで“いつものこと”を聞き流しているかのようでした。
「私も最初は苦笑いで話を聞き流していたのですが……」
衝撃の出来事を目の当たりに
決定的だったのは、その直後の出来事です。
「テーブルの上に乗ってきた猫のマリちゃんを『おい、邪魔なんだよ!』って、思いっきり平手打ちみたいな感じですっ飛ばして、壁に激突させたんです。それを見た瞬間、完全に引いてしまって……」
ほんの数分前まで、猫を可愛がり、穏やかに笑っていた同じ人物とは到底思えない行動。その衝動的で暴力的な振る舞いに、紀香さんは言葉を失いました。しかし、ここでも家族は大騒ぎすることなく、慣れた様子でその場をやり過ごしていたそう。
その光景は、紀香さんの心に深い疑念を残しました。「お父さんと隆さんは別の人間だと分かっている。けれど、もし隆の笑顔の奥に、お父さんと同じ暴力性が眠っていたら……?」。そう考えると、不安は消えるどころか、日を追うごとに大きくなっていきました。
拭えない違和感から、最終的に……
「急遽、私の両親に挨拶に行くのを止めて、今住んでいるマンションを更新するから、同棲の話はなかったことにしてほしいとお願いしました」
隆さんは悲しそうな表情を浮かべながらも、その申し出を受け入れてくれたそう。しかし、一度生まれてしまった価値観の溝は、簡単には埋まりませんでした。紀香さんの中で拭えない違和感は、やがて2人の関係にも影を落とし、最終的に別れという選択に至ったといいます。
「お父さんの穏やかさの裏に潜んでいた異常性と、それを問題として扱わない家族の空気が、とても怖く感じたんです。あの日の挨拶がなければ見えなかった現実に、今振り返ってもゾワッとするんですよね」と眉間にシワを寄せる紀香さんなのでした。
<文・イラスト/鈴木詩子>
【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop
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