2026年3月、SNS上にて、とある投稿が話題を呼びました。
それが「映画館で感動した映画を友人にすすめたら“イマイチ”だったと言われてしまった…という話」。実はそのご友人、おすすめされた映画を「スマホで鑑賞した」ようで、投稿主は“モヤモヤ”してしまったとのこと。
ここでシンプルな疑問が生まれます。映画はスクリーンで見ることが“最適解”だと言われていますが、では何故「スマホやタブレットで見る」と鑑賞体験に差が生まれてしまうのか――。
この疑問にSNS上で答えていたのが、Blu-ray&SNSプロデューサーの伊尾喜大祐さん。映画.comでは“スクリーンとスマホの鑑賞体験の差”について深掘りすべく、伊尾喜さんにお話を伺いました。
前編では「映像」に特化した内容をお届けします!
●映画館&スマホorタブレットでの鑑賞体験の違いを紐解くのは「重量感」「情報量」「没入環境」
――本日はよろしくお願いいたします!そもそもスクリーンで観ても、家のテレビやスマホ、タブレットで観ても、映画の“内容”は変わらないじゃないですか?でも、圧倒的に鑑賞後感に差が出てきますよね。これって何故なんでしょうか?
こちらこそ、よろしくお願いします。おっしゃる通りで、ここに多くの人がモヤモヤするのは不思議ではないと思うんです。家のテレビやスマホ、タブレットと映画館では、映画体験を構成する要素のほぼすべてが変わります。大きく分けると「重量感」「情報量」「没入環境」の3点です。
まず「重量感」。これが最も見落とされがちな差です。スクリーンが大きくなるほど、被写体の移動距離や動きの大きさが物理的に増します。たとえばゴジラが画面の端から端まで横切る場合、6インチ(15.24㎝)のスマホでその移動距離はわずか5cm。55インチのテレビで約91cm。では映画館はどうでしょう。グランドシネマサンシャインのIMAXスクリーンの横幅は約25m。ゴジラが横切れば、その巨体が視界を文字通り「通過」していきます。同じカットを観ているはずなのに、まるで別の体験になるのはこのためです。
――あ、なるほど!確かにスマホの画面で見ると、移動距離は“わずか”なのか……。
そうなんです、ホントに「ちょこっと」なんです(笑)。次に「情報量」。映画はそもそも、大スクリーンでの上映を前提に設計・撮影されています。なので映画のフレームの中には、登場人物だけでなく、セットの隅々にいたるまで、その1カットのために作り込まれた映像世界が詰まっているわけですね。6インチのスマホ画面では、制作者が計算し尽くしてレイアウトした細部の多くが潰れてしまって見えません。大画面のテレビになればようやく見えてくる印象です。映画館の大スクリーンになってはじめて、フレームの隅々まで、制作陣が意図した映像の全貌が目に飛び込んできます。
――確かに大スクリーンで鑑賞すると、細部に“気づき”があることが多いですね。
そして「没入環境」。リビングやプライベートルームは、日常の延長線上にある空間です。そこでは通知音が鳴り、誰かが通りかかり、視界の端に生活の気配があります。映画館の暗闇は違います。照明が落ちた瞬間、スクリーンと自分だけの世界が立ち上がります。映像だけでなく、四方を包む音にも身体ごと委ねられる―その体験は、どんな高性能なデバイスでも、自宅では再現できません。
●「この映画を見るならIMAX一択だ!」これって何故?キーは「スクリーンサイズの大きさ」
――これは納得です。自宅で鑑賞していると、環境音が気になって集中力が途切れることが多々ありまして……。やっぱり映画館での鑑賞が一番ってことなんですかね?あ、そうそう、これも気になっていたんですが、よく「IMAX一択」っていう言葉を見かけるんです。何故こういう感想がうまれるんでしょうか?
確かに、スクリーンサイズの大きさを望むならIMAX一択と言えますね。面白いのは、IMAXサイズの巨大なスクリーンに映画作品を投影しても、映像のアラが目立ったりしないこと。実はIMAX上映作品には、DMR(Digital Media Remastering)という技術が用いられています。通常のカメラで撮影された映像をIMAX上映用に最適化するプロセスで、引き伸ばしてもディテールが破綻しないように映像が整えられているわけです。現在IMAXで上映される多くの作品でこの処理が行われています。
さらに上のステージが「Filmed for IMAX」です。これはプリプロダクションの段階からIMAXと連携し、IMAX認証カメラで撮影、12chサラウンド音響、拡張アスペクト比での上映まで、IMAX体験のために制作された作品という証です。今年11月3日公開の「ゴジラ-0.0」は、日本映画として初めてこの認定を受けた作品です。全国のIMAXシアターでは1.90:1の拡張アスペクト比での上映が予定されています。さらにグランドシネマサンシャイン池袋と109シネマズ大阪エキスポシティの2館では、IMAXレーザー/GTテクノロジーによる1.43:1のフルサイズ上映も実現します。
そして5月22日には「スター・ウォーズ」シリーズ初の「Filmed for IMAX」作品である「スター・ウォーズマンダロリアン・アンド・グローグー」が公開されました。実はこの作品のIMAX予告には「Filmed for IMAX」ではなく「Forged for IMAX」という表記が。これは作中のベスカー・アーマーよろしく「IMAXのために鍛錬・鍛造された」というジョークなんですね。遊び心あるフレーズに、思わず「我らの道!」と叫びたくなったのは僕だけではないはずです。
●ドルビーシネマも忘れてはならない「息をのむ光と色彩」が味わえます
――そんな小ネタがあったんですね!ちなみに「ドルビーシネマでの鑑賞の方がいいんだよ、この作品は!」って熱弁されたことも多々ありまして。ドルビーシネマの魅力も教えてくれませんか?
この両者の違いがわかる方は「映画館通」ですよね!IMAXが「圧倒的スケール」の体験だとすれば、ドルビーシネマは「息をのむ光と色彩」の体験です。同じ作品をIMAXとドルビーシネマ両方で観ると、その違いがよくわかります。例えば「プロジェクト・ヘイル・メアリー」のタウ・セチ上空に漂うアストロファージ(※)のシーン。これを1.43:1 IMAXで観た時は、ホタルのようにキラキラと輝くアストロファージが視界いっぱいを埋め尽くす、圧倒的な没入感でした。
同じシーンをドルビーシネマで観ると、宇宙空間の漆黒がどっしりと深く沈み、そこに浮かび上がるアストロファージひとつひとつの輝きがより鮮明に際立ちます。また、広大な宇宙に一人取り残された主人公の孤独感も、映像とスクリーン外の「黒」が溶け合うことでさらに強調された印象でした。
この黒の深さと色彩の豊かさを実現しているのが、ドルビービジョンという映像技術です。2台の4Kレーザープロジェクターで映像を投射し、コントラスト比は従来の映画館の約500倍相当となる100万:1を実現。HDR表現も、明るさ情報をシーンごとに参照することで、制作者が意図した通りの光と色彩が再現されます。
音響はドルビーアトモス。天井を含む全方位にスピーカーが配置され、音が空間を自在に動き回ります。「プロジェクト・ヘイル・メアリー」のクライマックスではドルビーアトモス音響が劇場を揺るがす轟音を響かせ、映像と音響が一体となった圧倒的な体験でした。そしてドルビーシネマの本質は、この映像と音響が最初から一体として設計されている点にあります。映像の「黒」と音の「静寂」が共鳴することで、IMAXとはまた違う没入感が生まれます。
※編集部注アストロファージ=「プロジェクト・ヘイル・メアリー」に登場する“直径10ミクロン質量20ピコグラムで、黒い球状の単細胞生物”早川書房公式note「プロジェクト・ヘイル・メアリー」用語集(執筆:渡辺英樹氏)より引用
●究極の質問をぶつけてみた「映画館ではどの席に座るのがいいの?」
――IMAXか、ドルビーか……「どの作品を見ようかな」という点に加えて、「どういう環境で見ようかな」という楽しみも生まれそうですね。そしてすいません、ここで究極の質問をさせてください。映画館ではどの席に座るのが最適解ですか?
これはもう好みとしか言いようがないのですが(笑)。
――そこをなんとか!あくまで“参考例”でかまいませんので……。
映像面で言えば、スクリーンの高さの2~3倍の距離の席だと見やすいかなと思っています。ただ、例えばIMAXなどのスクリーンが大きなシアターになると、この距離感では最後列よりさらに後ろになる可能性もありますよね(笑)。なので、前列でかぶりつきで観るもよし、中央で視界いっぱいに広がるポジションで観るもよし、後列から劇場全体を俯瞰して観るもよし、そのあたりはお好みでという感じです。
音響的に言うと、スクリーンから客席全体の3分の2あたりの中央ポジションがスイートスポットかなと思います。ただこれも、現代の映画館ではセリフはセンタースピーカーから、効果音はそれぞれ映像にシンクロした位置のスピーカーから再生されるので、極端な位置でなければ定位が大きく崩れることは少ないはずです。
さらにドルビーアトモス対応シアターでは、音に位置情報が付与されており、どの劇場のスピーカー構成でも制作者が意図した通りの位置から音が鳴るよう設計されています。ですので、よほど極端な席でなければ視聴体験に大きな差が出ることもなくなっています。こちらについてもやはりお好みで、というところでしょうか。
●自宅での鑑賞もアップグレードしたいんよ!劇的に変わるアイテムを教えて!!!!
――変な質問をしてしまって申し訳ございません。が、めちゃくちゃ参考になりました!でも、映画を家で観るのも好きなんですよね……だからこそお聞きしたかったのが、家庭で映画を観る際「これがあると劇的に変わるよ!」といった商品ってあったりしますか?
映画館での体験を、少しでも自宅で再現したいというのは、映画好きの自然な欲求ですよね、僕も含めて(笑)。映像面ではやはり「大画面」でしょうか。大画面テレビも良いですがスペースの問題もあるかと思いますので、同等の価格帯でより大きな画面のプロジェクターにトライするのはありだと思います。4Kモデルはまだちょっとお高めですが、フルHDモデルはかなりコスパも良くなってきています。
その場合、要チェックなのは光源の明るさの表記。投射した際の画面全体の平均的な明るさを意味する「ANSIルーメン(またはISOルーメン)」と表記されたものを選んでください。この単位は、国内メーカーが遵守する正確な「実力値」を意味します。
これに対して格安タイプの商品には「10,000ルーメン超」のように記載されたものも少なくありません。ですがこれ、測定基準が非公開で数字の根拠が不明だったりします。極端な場合、中心一点の最大輝度を盛っただけなんてこともあるのでご注意ください。
――参考になります(メモメモ)。
スクリーンについても、最初は白壁を代わりにするのも大いにありです。ただプロジェクターの実力を引き出すには、表面の平滑性や色への影響も考えれば、やはりスクリーンの使用をお勧めしたいところ。1万円くらいから買えるものも多いのでチェックしてみてください。
音については、基本は「ちょい足し」からはじめるといいかもしれません。今使っている環境からいきなりジャンプアップするのはハードルが高いと思うのです。例えば、テレビやスマホのスピーカーで見ている人は、ヘッドホンやイヤホンで聞いてみる。耳のすぐそばで音が鳴るため、微細な環境音や、俳優の衣擦れの音、吐息のニュアンスといった「音のディテール」を拾い上げる能力には極めて長けています。
ここで感動したら、今度はサウンドバーを試してみてください。音の波が部屋の空間を実際に伝わって耳に届きます。テレビに貼り付いていた音は画面の枠を飛び出し、部屋の前方全体へと広がっていくと思います。最近では後方設置用の脱着サラウンドスピーカーを持つモデルもありますので調べてみてください。
――ちょっと待ってください。これってもしかして……。
はい、ここまで来たらもう「沼」同然です(笑)。さらに本格的な大画面とAVアンプ、複数のスピーカーを設置して、本格的なホームシアターへと展開していくのも楽しいですよ。
――くぅ~~~、お財布事情と相談させていただきます!
伊尾喜さんの解説はまだまだ続きます!後編では「音響」の観点から、映画館の魅力を解説。伊尾喜さんおすすめの映画館の紹介もあるのでお楽しみに!
【作品情報】
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