【ボクシング】山中慎介が再認識した井上尚弥の「1発の強さ」敗れた中谷潤人が手に入れたものは何か?

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【ボクシング】山中慎介が再認識した井上尚弥の「1発の強さ」敗れた中谷潤人が手に入れたものは何か?

5月25日(月) 9:50

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山中慎介5.2「THE DAY」インタビュー中編

(前編:井上尚弥vs.中谷潤人で「なかなか見ない光景」と指摘したことは?両者の高度な駆け引きの正体>>)

井上尚弥(大橋)と中谷潤人(M.T)によるWBA・WBC・WBO・IBF世界スーパーバンタム級4団体統一タイトルマッチは、前半は井上が主導権を握ったものの、中盤の8~10ラウンドは中谷がペースを引き寄せた。しかし11ラウンド、井上の右アッパーが中谷の顔面を直撃した瞬間、勝負の流れは決定的に傾いた。元WBC世界バンタム級王者・山中慎介に、この一戦の後半戦から中谷が手にしたもの、そして今後の井上に立ちはだかる「フェザー級の壁」を語ってもらった。

試合中も含めて笑顔を見せる場面が多かった中谷潤人(左)と井上尚弥photo by 山口フィニート裕朗/アフロ

試合中も含めて笑顔を見せる場面が多かった中谷潤人(左)と井上尚弥photo by 山口フィニート裕朗/アフロ





【勝利を引き寄せた井上の右アッパー】ーー前半は井上選手のペースで進みましたが、8、9、10ラウンドは中谷選手がペースを引き寄せました。井上選手は試合後のインタビューで「ポイントを譲っても大丈夫」というニュアンスを語っています。山中さんはあの言葉をどう受け止めましたか?

「井上も中谷も、人一倍負けん気が強いですからね(笑)。お互いのコメントがどこまでが本心かは測りかねるのもあります。井上は、少し疲れがあったようにも見えました。前半あれだけステップイン、アウトを大きく繰り返したので、いつもの試合以上にスタミナの消費があったはず。中谷の距離感と体格が、井上をそうさせたんだと思います」

ーー中谷選手の体格、スピード、パワーの進化も印象的でした。

「昨年末のセバスチャン・エルナンデス(メキシコ)戦から、わずかな期間でかなり強くなりましたね。足の太さ、身体の厚みも増していました。今回、中谷はスーパーバンタム級にかなりアジャストしているように感じました。この階級でさらに強くなれると思いますし、『まだまだ上の階級もいけるな』と思わせる体つきでしたね」

ーー8~10ラウンドで中谷選手がいい流れを作りましたが、11ラウンドの右アッパーで井上選手が引き戻しました。

「あの一発で、完全に井上に流れが戻りました。パンチ力がある井上だから、あのタイミングで決定的な一発が打てる。やっぱりすごいですよ」

ーーあの右アッパーで、中谷選手は左眼窩底骨折を負いました。

「目立った腫れではなかったですけど、折れていましたね。我慢強い中谷があそこまで痛がっていたところを見ると、相当ダメージがあったんでしょう」

ーー中谷選手自身も会見で『井上選手の姿が二重に見えた』『ダブルビジョン』と表現していました。本人もすぐに、眼窩底骨折とわかったそうです。

「井上もドネアとの初戦で同じケガをしていますから、相手の状態をすぐに察したんでしょう。ダウンまで持っていくかな、と思わせるぐらいの猛攻でした。決定的なダメージを与えた右アッパーも含めて、井上の"勝負強さ"と言っていい部分だと思います。中谷ペースになった8~10ラウンドから一気に流れを引き戻す一発を持っている。全体的なボクシングのうまさもありますけど、1発の強さも再認識しました」

【中谷が初黒星と引き換えに得たもの】ーー試合後の、ふたりの表情はいかがでしたか?

「中谷は相当に悔しそうに見えましたね。攻めに出るタイミングも含めて、『もっとやれた』という気持ちがあったんじゃないですか」

ーー解説の長谷川穂積さんは『敗れたけれど、評価はまったく下げていない。むしろ可能性の高さを感じた』とおっしゃっていました。

「興行としてみれば、一番いい終わり方ですよね。勝った井上はもちろん、敗れた中谷の評価は上がった。試合前は、『どちらかに黒星がつくのはもったいないな』という空気感もあったと思うんですよ。でも、試合が終わってみれば、中谷に黒星ついて残念という感じはまったくない。もちろん、対戦相手があの井上だから、というのもありますけど」

ーーパーフェクトレコードよりも、別の何かを得たということでしょうか。

「そう思わせるのが、すごいんですよね。負けなしのパーフェクトレコードはもちろん大事ですけど、それを上回るものを中谷は手に入れたと思います。『再戦したらわからない』と思う人も少なくないんじゃないでしょうか。そう思わせる試合内容でしたし、中谷の可能性を示した試合でした」

ーーリマッチの可能性についてどう考えますか?

「それはないと思いますよ。井上は引退の時期も示唆していて残りの試合数も限られているでしょうから、新たな戦いを目指すのではないでしょうか」

【井上がフェザー級に上げた時は誰が相手になる?】ーー気になる井上選手のフェザー級転向ですが、本人は『僕の体はフェザー級の体ではない』『(挑戦するのは)本当にフェザー級で戦える体が作れた時』と語っています。

「どのタイミングで上げるかですが......今のフェザー級に、井上のネームバリューや格に見合う相手が見当たらないという問題もあります。名前を挙げるとすれば、エスピノサ(ラファエル・エスピノサ/メキシコ/WBOフェザー級王者)くらいですかね。フィゲロア(ブランドン・フィゲロア/米国/WBA世界フェザー級王者)もいますけど、彼は(スティーブン・)フルトンに2度負けていますし、ほかの王者たちを考えても、ワクワク感を考えるとちょっと物足りないですよね」

※フェザー級王者

WBA:ブランドン・フィゲロア(米国)

WBC:ブルース・キャリントン(米国)

IBF:アンジェロ・レオ(米国)

WBO:ラファエル・エスピノサ(メキシコ)

ーーエスピノサ選手は身長185cmと、かなり長身の選手ですね

「あの身長で、フェザー級で闘っているのがおかしいくらいですね(笑)。ライト級、ウェルター級のサイズ感ですよ」

ーー身長165cmの井上選手とは20cm差になります。

「エスピノサ相手だと、井上といえども普段のステップインじゃ届かないでしょう。中に入る時にもっと下(脚力)を使わないといけませんから、今回の中谷戦よりもスタミナをロスすると思うんです。ですからフェザー級では、マッチメイクがすごく大事になりますよね」

【33歳という年齢、引退へのカウントダウン】ーー井上選手は現在33歳。引退についてコメントすることも増えてきました。

「ボクサーとして一番動けるピークの終盤に差し掛かっているのは間違いないですね。軽量級の場合、多くの選手は35歳前後でピークアウトしてきます。これはどんな名チャンピオンでも逆らえないところ。僕自身も、引退したのは35歳の時でしたから」

ーー山中さんご自身も、現役晩年には少し感覚のズレを感じたことがあった、と伺っています。

「自覚はありましたね。ただ、『認めたくない』という意地もあるし、『練習では動けているから大丈夫だ』と思い込もうとするんですけど、『あれ?いつもならこのパンチは避けられているのにな』とか、『いつもならこの踏み込みで、相手にパンチが届いているな』という、本当に微妙なズレが生じてくるんですよ。数センチ、コンマ何秒の世界なんですけどね」

ーーその数センチが、トップレベルでは命取りになると。

「そうですね。それまでは届いていた踏み込みで届かないわけですから、近い距離で闘うようになる。そうすると相手のパンチももらうようになる。そんな感じで少しずつズレていく。ピークアウトを迎えるタイミングと、階級を上げるタイミングが重なるとリスクは増します。井上に関しても、それは例外ではないのではないでしょうか。本人も大橋(秀行)会長も、フェザー級に上げるタイミングは慎重に見極めて決めるでしょう」

ーー一方で、ジェシー"バム"ロドリゲス(米国/WBA・WBC・WBO3団体統一世界スーパーフライ級王者)との対戦の話も浮上しています。

「バムは強いですが、井上と戦うにはサイズが足りないのは否めません。今年6月にWBA世界バンタム級休養王者のアントニオ・バルガス(米国)と3階級制覇を懸けて対戦することが発表されていますが、仮にそれをクリアしても、井上のいるスーパーバンタム級はもうひとつ上の階級ですからね。仮に決まったとしても、勝負論はあまり感じないです。井上が普通に勝つでしょう」

ーー井上選手は少し休むとの意向ですから、その間にどんな動きがあるのか注目ですね。

「井上がどの階級で、どの場所で、誰とやるか。そういった動きが続くでしょうね。今回の中谷戦で、井上はまた違う引き出しを見せましたし、その先がどうなるか、まだまだ目が離せません」

■後編:井岡一翔を破った井上拓真を「完璧」と評価も「倒しきる展開も見たい」那須川天心との再戦など今後は?>>

(文中敬称略)

【プロフィール】

■山中慎介(やまなか・しんすけ)

1982年滋賀県生まれ。元WBC世界バンタム級チャンピオンの辰吉丈一郎氏が巻いていたベルトに憧れ、南京都高校(現・京都廣学館高校)でボクシングを始める。専修大学卒業後、2006年プロデビュー。2010年第65代日本バンタム級、2011年第29代WBC世界バンタム級の王座を獲得。「神の左」と称されるフィニッシュブローの左ストレートを武器に、日本歴代2位の12度の防衛を果たし、2018年に引退。現在、ボクシング解説者、アスリートタレントとして各種メディアで活躍。プロ戦績:31戦27勝(19KO)2敗2分。

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