SNSのアカウントが突然の凍結、理由不明なクレカの停止、ポンコツAIによる「信用審査」で住宅ローンが組めない......だけど、僕たちにできることはまったくありません!
スマホを中心にデジタルの網が生活を覆いつくす中、個人のデータすら自分で自由に管理できなくなった。
そのデータを好き勝手にしているのは日本の企業ではなくほぼアメリカの企業だ――。気づけば2度目の"敗戦"を喫していた日本は「デジタル主権」を失った。
それによって日本人の生活にどんな影響が及ぶのか?この問題を追究するルポライターの昼間たかし氏が解説する!
【運営母体は海外企業という壁】「デジタル主権」という言葉をご存じだろうか?
難しそうに聞こえるが、意味はシンプル。自分のデータや情報インフラを、自らの国の中で管理できているか。それだけだ。
実は今の日本は、それができていない。
もはや、生活の大部分がスマホで完結できるのは当たり前。Gメールなどでメールを読み、グーグルマップで道を調べ、アマゾンで買い物をする。ニュースや情報はSNSで知ることはできるし、娯楽はTikTokをはじめとした動画サイトで十分だ。
しかし、そんな日常生活を支えているサービスのほとんどは外国企業のもの。それゆえに、ひとたびトラブルに遭うと不便極まりない。
都内在住の会社員Aさん(30代男性)は、今年の正月にこんな体験をした。頼んでもいないアマゾンの荷物が玄関に置かれていた。誤配だと思いアプリを開いてカスタマーサービスをタップすると、選択肢が並ぶ。
「注文について」「配送について」「返品について」......自分の状況に当てはまるものがない。しばらく迷ってようやくオペレーターにつながると、返ってきたのはたどたどしい日本語だった。
「なんとか話が通じて解決はしたんですが、どっと疲れました。宅配業者に引き渡す手間まで取られたのに、わびのひと言もありませんでした」
こんなふうに不可解なネットサービスのトラブルは、近年後を絶たない。Xのアカウントが突然凍結される。ユーチューバーが突然YouTubeから収益化を剥奪されて引退することになった。季節営業のある飲食店が、オフシーズンに店を閉めたらグーグルマップで「閉業」と表記された。ウーバーで稼いでいたら突然グーグルアカウントが止まる......。
実はこれらすべてが「日本にはデジタル主権がない」ことによるものだ。最近、経済紙などで見かけるようになったデジタル主権がテーマの記事は、たいてい行政のサーバー設置を国内企業に任せよう、日本独自のAIを開発しようなどと、とにかく海外依存を減らそうという話ばかりであるが問題はそこではない。
前述したように日本国内で提供されるデジタル関連のサービスはほとんどが外国企業、特にアメリカ企業が所有しているものだ。そして、これらのサービスで発生するトラブルが、日本の法律と慣習でスムーズに処理できなくなっており、それが年々深刻化しているのだ。
【セキュリティ強化の落とし穴】日本で「デジタル主権を失っているもの」といえば、クレジットカード関連が最たる例と言えるかもしれない。
今年、筆者はこんなトラブルに遭遇した。なぜか、ヨドバシカメラの通販で買い物をするたびにクレジットカードの決済が何日も処理されないという事態が頻発するようになったのだ。しびれを切らして当該カードのサポートセンターに電話すると、オペレーターはこう言う。
「多くのお客さまからも同様のクレームをいただいており、解決を急いでいるところです」
つまり、まだ解決策はないということ?と聞いたら「そうなんです」とあっさり。
そうして示された〝次善の策〟は「一度キャンセルして、別のカードでもう一度ご注文ください。在庫が十分にある商品なので、問題ありません」だった。
昨年あたりからクレジットカードのトラブルに見舞われる人は増えているようだ。限度額も超えていないし、支払いも遅れていないのに、なぜか突然使えなくなる、特定の店やサイトだけではじかれる......といった具合だ。
政府系金融機関のある職員は、このトラブルの理由についてこう答えた。
「原因のひとつは本人認証サービスの『EMV3-Dセキュア』ですね。ネットで買い物するときに途中で番号入力を求められる、あれです。
これは2025年から義務化されたセキュリティ強化の仕組みなんですが、この数年、世界中の金融機関が同様のセキュリティ強化を行なった結果、正常な取引まではじかれるケースが増えてしまっているんです。
日本で主要なクレジットカードとして利用されているVISAやマスターカードの運営母体は、どちらもアメリカの企業です。
カードで支払うと『しばらくお待ちください』の間に、決済代行会社や複数の金融機関をデータが行き来きしますが、その経路の一部は海外企業が担っていることも珍しくありません。だから、どこかの段階ではじかれても、どこが判断したのかが見えない構造になっているんです」
【日本法人があっても】『BeReal.(ビーリアル)』というアプリがある。スマホの前後のカメラで自分自身と自分が今いる所を同時に撮影し、その2枚の写真を投稿、〝ありのままの日常〟を友人たちと共有するというSNSだ。
若者を中心に普及したが、うっかり写してはいけないものが写り込んでしまうトラブルが日本で続発している。
しかし、運営企業に画像を消してもらおうと思ってもすぐには難しい。運営企業の連絡先が公開されていないからだ。サイトを見ると法律はアメリカ・カリフォルニア州法に準拠、本社はフランス・パリにあると書いてある。
住所以外の公開情報は、メールアドレスがひとつだけ。そのメールに送っても「返事がまったく来なかった」という声がネット上にあふれている。
ちなみにBeReal.の日本法人は存在しない。ならば、日本法人を持つアマゾンやグーグルはまだマシかといえば、そんなことはない。例えばグーグルの日本本社は渋谷駅前にあるが、仮にグーグルアカウントを凍結されたとして会社に直談判に出かけたらどうなるか?
「日本のオフィスにいるのは主に営業やマーケティング、広報だけで、権限を持つエンジニアなんて皆無なのはわかりますよね?多少申し訳ない顔はするかもしれませんが、『オンラインのヘルプセンターからお問い合わせください』としか答えられないと思います」(外資系テック企業社員)
【パランティアとAIのポンコツ査定】最も懸念されるのは、日本社会のあらゆるシステムが外国企業に握られることだ。
これは絵空事ではない。
近年DX(デジタルトランスフォーメーション)化を推進する省庁や地方自治体では、AIの導入を積極的に進めている。日本総合研究所の調査によれば、2024年末時点で都道府県を含む全自治体のAI導入率は59.2%となっていて、その活用方法は多岐にわたる。
議事録の作成や手書き文書のデータ化、住民からの問い合わせ対応。さらには、税金未納者への催告に利用する自治体も出てきている。ほかにも、保育園の入所選考のAIは国内企業が開発したものが普及しているが、これも盤石とは言い難い。
「行政が用いているクラウドのほとんどはアマゾンやグーグルなど海外企業のもの。だから、今後導入されるAIについても高性能で連携も良好なアメリカ企業のものが採用されるケースが増えるでしょう。すでに、問い合わせ対応や審査補助にはチャットGPTなどの利用が拡大しています」(地方自治体IT担当者)
しかし、チャットGPTが福祉の審査で間違った判断をしても、外国企業のシステムゆえに、それが誤判定かどうかを検証するのは困難で、なぜそうなったのかの調査も難しいだろう。
もし、この審査補助システムを民間企業が採用すれば、間違ったAIの査定を基に、例えば「システムがそう判断したから、あなたは住宅ローンを組めません」なんて言い渡されることも起こりかねないのだ。
ところが日本ではアメリカのAI企業への警戒心がとにかく薄い。今年3月、高市早苗首相が首相官邸で米パランティア社の会長、ピーター・ティール氏と会談したことがニュースになった。
今年3月、高市首相は米パランティア社の会長で、オンライン決済サービス「PayPal」の創業者でもあるピーター・ティール氏(左)と面会
ある国際安全保障の研究者はこう話す。
「パランティアは、AIを用いて優先すべき標的を選別する軍事システムや、行動データをAIが分析し犯罪を起こす可能性を予測できるというシステムを開発している企業です。ところが、2月のイラン攻撃では学校などへの誤爆が多数発生。
犯罪予測のほうは、ドイツの一部地域で導入されたのですが、犯罪者を担当した弁護士の友人まですべて〝犯罪予備軍〟と扱うガバガバな判定を繰り返し、裁判所から違憲判決を出されて締め出されました」
そんな企業に近づくことのリスクを、高市首相は自覚していたのだろうか?
【都民のデジタル主権はグーグルへと......】だが、ヨーロッパでは、こういった状況に抵抗しようとする国も増えている。
「EU(欧州連合)は25年4月、米アップルに約800億円の罰金の支払いを命じました。アップルが自社のアプリストア以外からアプリをインストールさせず、開発者から高額の手数料を取り続けたからです。
同じように米メタ社には約320億円の罰金を科しました。インスタグラムなどのユーザーに『個人データを広告表示に使われたくなければ有料プランに入れ』と迫ったことが問題とされました。
EU各国が特に警戒しているのがSNSです。すでにSNSが世論を動かし、選挙に影響を与えている。放置すれば、国民の思考が外国企業のアルゴリズムに操作される。だから各国でSNSの年齢確認の強化、未成年の使用禁止を次々と打ち出しているんです」(欧州駐在記者)
2025年11月にドイツのベルリンで開催された「欧州デジタル主権サミット」の様子。ドイツとフランスが本サミットを主導した
イギリスでSNSの未成年の参加を禁止する制度設計に関わった、エセックス大学のローナ・ウッズ教授はこう語る。
「SNS企業はユーザーを怒らせれば怒らせるほど儲かる設計になっています。怒りは拡散する。拡散すれば広告収入が増える。だから彼らは問題のある投稿を消したくないんです。
つまり、問題は投稿ではなく、その投稿を世界中に広める『仕組み』そのものです。その仕組みを作った企業に責任を取らせる。それ以外に解決策はありません」
デジタル主権の喪失で奪われるのはカネだけではない。すべてを外国企業に左右され決済も、情報も、文化も、ぐちゃぐちゃにされる......そんな危機感が世界中に広がっている。
だが日本だけはその危機感がない。昨年9月、東京都はグーグルと連携協定を締結した。ここでは、都庁へのサイバー攻撃を一元的に対処する「サイバーセキュリティセンター」をグーグルが構築することや、都職員のデジタル技術の向上をグーグルが支援したり、防災やバリアフリーの地図サービスをグーグルのシステムに集約したりすることなどが定められた。
理想的なDXの推進に見えるが、これは、東京都の行政の骨格をグーグルが再構築するのに等しい。つまり、1400万人の都民の個人情報と生活データの管理を、アメリカの民間企業に丸投げしたということだ。
昨年9月に東京都はグーグルと連携協定を結んだ。写真は協定書を掲げる小池百合子都知事(右)とグーグルのクリス・ターナー副社長
グーグル本社の副社長(バイスプレジデント)のクリス・ターナー氏はこう語っていた。
「東京は人口が密集していて、電車は時間どおりに来て、道路はリアルタイムで管理されていて、しかも地震と台風がある。こんな都市は世界中どこにもありません。東京でうまくいけば、どこでもうまくいく」(今年4月開催のカンファレンス「スシテック東京2026」におけるセッションでの発言)
言葉を選びながらも、東京都そのものを、グーグルのビジネスを世界に売り込むためのサンプルとしていることは隠さない。一方、これに続いた東京都デジタルサービス局の高橋正和氏の発言はこうだ。
「東京都の役割は信頼できるデータを整備し、使いやすいプラットフォームを提供することです。それ以上でも以下でもありません」
ただうわべの便利さだけに踊らされて、すべてを海外に渡すことの危機感もない。それが今の日本の現実だ。
●昼間たかし(Takashi HIRUMA)
1975年生まれ、岡山県出身。「知られざる文化」と「市井の人々のリアル」を追い求め、全国を旅しながら取材を続けるルポライター。都市文化、歴史、サブカルチャー、そして近年は「デジタル主権」をテーマに独自視点の記事を各媒体に寄稿。著書に『1985-1991 東京バブルの正体』(マイクロマガジン社)、『コミックばかり読まないで』(イースト・プレス)など
写真/PIXTA共同通信社アフロ
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