宇野昌磨がアイスダンス挑戦を決断した理由は「本田真凜は天才。そのすごさをみんなに伝えたくて」

立松尚積●撮影photo by Naozumi Tatematsu

宇野昌磨がアイスダンス挑戦を決断した理由は「本田真凜は天才。そのすごさをみんなに伝えたくて」

5月23日(土) 19:30

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5月22日、都内。会見場に現れた宇野昌磨(28歳)はやや表情が硬く、どこか緊張しているようだった。あるいは、熱意や真剣さを伝えるためだったか。その日、彼は競技復帰、それも世界王者にもなったシングルではなく、アイスダンスでの挑戦を発表していた。会見はYouTubeでも生配信されていた。

隣には、カップルを結成した本田真凜(24歳)が座っていた。

そして壇上のふたりは声をそろえて言った。

「(目標は)2030年のオリンピックに出場することです!」

壮大な目標を発表することで、決心を固めていた―――。

五輪出場という目標を宣言した宇野昌磨と本田真凜photo by Naozumi Tatematsu

五輪出場という目標を宣言した宇野昌磨と本田真凜photo by Naozumi Tatematsu





「オリンピックを目指してアイスダンスをやろう!」

2024年10月、シングルを引退していた宇野は、同年にシングルで引退した本田をそう誘ったという。宇野は当時の心中を明かしているが、それは半ばラブレターのようでもあった。

「見る人が見ればわかると思うんですが、僕はどれだけ(本田)真凜がすごいかを知っています。"何をさせてもすごい"表現力があって、すごく天才で。それを(アイスダンスをやることで)みんなに伝えたくて。真凜のよさを知ってもらいたい、というのが誘う決断に至った理由というか。そして1年半練習してきましたが、ふたりだからこそ難しいことはあっても楽しくて、辛い日々も楽しくなって。今は強い思いで目標を叶えたいと思います」

宇野は徹頭徹尾、パートナーを褒めちぎった。本心からの言葉だから、のろけでも愛嬌が伝わる。会見はすっかり彼のペースになった。他者に対して好意と尊重をぶつけられる大らかさだ。

「ぶっちゃけると、真凜のスケートのすばらしさは僕(がパートナー)でなくても伝わると思うんですよ。トップレベルの他のアイスダンサーと組んでも、数年ですばらしいアイスダンサーになるはず。でも、他の男の人と...それはな、と(笑)。隣は自分がいいなって」

壇上で、自らそう言って身をよじる姿に、憎めなさがさく裂していた。

そう言えば、アイスショー『Ice Brave』のインタビューで、宇野は本田と組んだアイスダンスについて質問したとき、膝を打つような反応を示していたことがあった。

――フラメンコの衣装をまとった本田真凜さんが、かつて宇野さんが滑ったスパニッシュギター曲の『天国への階段』を艶っぽく滑る姿は印象的でした。フィギュアスケートは本来、こうした美しさ、華やかさ、何より物語を伝えるのが本質なんじゃないかと思わせるほど......。

「マジでわかります!(本田)真凜は僕にないものを持っているというか、流れている音楽を自分なりに表現することができるんですよ。真凜の演技は、曲本来の物語を自分が登場人物になって演技しているよう。時には、それほどストーリーがない曲であっても、そのストーリーを垣間見せるというか。そこは自分に足りなくて、会得しないといけないものかなって思います」

手放しの絶賛だった。彼の中で、本田のスケーティングにはインスパイアされるものがあるのだろう。それをアイスダンスで作っていくため、「五輪を目指す」という道筋になった。

宇野自身は引退するまでアイスダンスに対し、憧れや興味はなかったという。シングルでの演技に全精力を注ぎ込んできたからだ。しかし今回はひとりではなく、本田とふたりで何かを作り上げたくなったという。それがアイスダンス競技挑戦という答えになった。

いきなり競技者に復帰し、ミラノ五輪を目指すほど甘くはない。それだけに入念に練習を重ねながら、アイスショー『Ice Brave』でもアイスダンスのプログラムを滑った。それが世間の高い評価を受けた。いきなり息の合ったツイズルを見せると、関係者からは「アイスダンサーで現役復帰しても面白い」という意見も聞こえていた。

その歓声や反応は、ふたりに力を与えたはずだ。

宇野は勝ち負け以上に、「楽しさ」を追い求めていくという。ふたりで何かを作り上げる過程を大事にし、それをファンに楽しんでもらえるか。競技者だが、表現者の域の発想だろうか。もっとも、かしこまった種類のものではなく「アイスダンスもふたりが小さい頃に始めたスケートの延長線上にある」という説明が腑に落ちる。ふたりは今も、無垢に滑ることを楽しんでいるのだ。

「僕自身、自分のシングル時代のスケートに納得していなくて......ジャンプは頑張ったし、世界トップレベルで、自分が自分じゃなくても、尊敬できるくらいですが......」

宇野はそう言って、朗らかな声でこう続けていた。

「ジャンプのクオリティというか、自分の技術力でよくあそこまでやれたなって思いますが、ジャンプ以外のところはまったく納得していなくて。自分が"もっとできるだろ"って思っているからこそ、納得していない。そのできなかった部分がアイスダンスに通じているからこそ挑戦しているんでしょうね。"まだまだできることがある"と思えるのは、すごくいいことだと思っています」

このインタビュー当時は競技復帰を秘密にしていたが、思いがこぼれ出ていた。天然さというか、飾らない彼らしい。

2026年4月には、ふたりはアイスダンスの聖地と言えるカナダ、モントリオールで2週間を過ごしている。世界のトップ10のほとんどがいるリンクに、ほとんど朝から晩まで立ち続けた。

「練習時間が長くて、筋肉痛になって、時差で寝られなかったんですが......ひとりじゃないから、すごく楽しくて。難しさはある一方、やりがい持ってできるので、うれしいというか。ふたりだと日々の練習も、こんなに捉え方が違うんだなって」

そう語る宇野の表情は、爛漫な明るさに満ちていた。

新シーズン、ふたりは全日本選手権につながる地方大会から参戦するという。

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