澄んだ空気をまとい会見に臨む本田真凜photo by Naozumi Tatematsu
5月22日、都内。本田真凜(24歳)は白のボウタイブラウスに紺のパンツスーツという出で立ちで、会見に臨んでいた。ひとつに束ねた長い髪を揺らし、背筋を凛と伸ばし、隣に座った宇野昌磨(28歳)に顔を向ける。その日、ふたりはアイスダンスのカップルを結成することを発表した。多くの報道陣が詰めかけ、カメラの砲列が敷かれ、その熱気で会場の気温が上がるようだった。
「(宇野)昌磨くんのスケートが本当に好き」
本田は気持ちを込めるように重ねて言った。彼女はアイスダンスの競技挑戦に踏み切った理由を丁寧に説明していたが、すべてはそこに帰結していた――。
「私自身、シングルの現役生活はやり切って終えた、と思っています。"ここをやり直したい"っていうのがないくらいに全力を出すことができたと思っていて」
本田はそう語りながら、宇野の誘いに応じてアイスダンスの競技者としてリスタートすることにしたという。それは2024年10月で、現役引退してからまだ1年も経っていなかった。
「昌磨くんに『オリンピックに出ようよ』と言われて、最初は何のことか、何の話だか、まったくわからなくて。『アイスダンスで目指そうよ』と真剣な表情で言ってくれたので、まさか、とは思いながら。自分の中では20年間も現役で過ごし、楽しいことはすべてスケートだったんですが、苦しいのもすべてスケートだったので......。
オリンピックを目指したいというのは夢のワクワクも怖さもありました。覚悟を持てるまで『時間が欲しい』って伝えて。引退して二度と競技に戻らないと思っていましたし、"昌磨くんの完璧なスケートキャリアに自分が入る覚悟を持たないといけない"と。あらためてアイスダンスの勉強をして、彼の想いを傷つけないように、自分たちがどうなりたいか、を考えて......それで一緒に滑ったとき、すごく大きな覚悟が決まって、『一緒に目指したい』と伝えました」
平たく言えば、本田は"自分が宇野の挑戦にふさわしい存在か"という疑問と対峙し、「食らいついていく」と決心を固めたことになる。彼女はもともと、氷上での表現力においては「天才」と言われ、実際に世界ジュニア選手権では金メダルを勝ち取ったこともある。そしてジャンプのないアイスダンス向きとも言われていた。
シングル現役時代には、2021年1月から5月までアイスダンス転向も視野に入れて練習していたことがあった。
「アイスダンスは一回やってみたいな、と思っていたので取り組むようになって、のめり込んでいました」
シングル引退直後のインタビュー、本田はそう明かしていたことがあった。
「いろんな方に『アイスダンスやらないの?』と言ってもらっていたのもあって、始めたんですけど......パートナーが必要な競技ですし、練習拠点の問題もあって。私は当時大学に入ったばかりで、(まだコロナ禍の余波が続き)ずっと海外へ行くのも難しい時期だったということもあります。パートナーを選ぶとなると、その兼ね合いは難しく、アイスダンスは解散したりするカップルもいるので......。そうした難しい面もある競技ですけど、だからこそ奥が深くて楽しいとも思いました」
本田にとって、そこで転向しなかったことが運命だったということか。時を経て、宇野という特別なパートナーに巡り会うことが、だ。
「現役引退後(仕事をする)には、スケート選手だった自分がいながら、スケート以外で認めてもらわないといけないって思ってやってきました。10年先まで計画を立て、歩んでいるところだったんですが......(宇野の誘いで)自分がしたいこと、やりたいこと、本心はなんなのか、って考えて。スケートで叶えたいことがあるんだって思いました。それを昌磨くんとだったら実現できるって」
本田は2030年五輪出場を心に誓い、「勝ちにいきたいです」と野心的に語っていた。すでに手ごたえがあるからこそ、言えるのだろう。宇野がプロデュースしたアイスショー『Ice Brave』では、アイスダンスのプログラム『Wild Side』を披露し、観客の度肝を抜いている。初公演、ツイズルの距離感だけでふたりの本気が伝わった。
「お互いが影になるように」
本田はその精神で、宇野と研鑽を積んできたという。
そして今年の『Ice Brave新横浜Special Edition』では、新曲『Four Seasons』も披露。距離感は近くなり、スピードも増し、トランジションも滑らかで、アイスダンスの完成度をさらに高めていた。今年4月、本場カナダ・モントリオールでも2週間を過ごし、トップ選手たちと寸暇を惜しむようにリンクに立ち続けたという。険しい道も待っているのだろうが、そこに挑むだけの準備はできた。
「こんなに難しいんだ!って思いながら練習をして。それを披露することができた時、みなさんの歓声を聞けると、"やってきてよかった"と思えて。アイスダンスの奥深さにどんどん惹かれてしまうんです!」
彼女は熱っぽく言う。ファンの歓声と拍手を触媒に、ふたりはひとつになって氷上で輝くのだ。
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