現役復帰しアイスダンスチーム「しょまりん」を結成することを発表した宇野昌磨と本田真凜photo by Naozumi Tatematsu
過去20年間、フィギュアスケートはメジャー化している。高橋大輔、浅田真央というふたりのレジェンドが新時代の扉を開いた後、人気選手がどんどん台頭していった。しかし、それは男女のシングルに限られていた。
かつてアイスダンスは集客が難しく、志す選手もほんの一部だった。人気がないから競争が生まれないのか、競争がないから人気が出ないのか。鶏が先か、卵が先か、有力選手は最初から手を出さないし、転向する選手も及び腰だった。なぜなら関心度は低い割に、よほどスケーティングに自信があっても心を挫かれるほど、世界の壁は高かったからだ。
しかし、昨今はシングルから転向するケースが増えるようになった。
ミラノ・コルティナ五輪、フィギュアスケート団体では吉田唄菜 & 森田真沙也のカップルが銀メダル獲得に貢献した。"うたまさ"の堂々とした演技は、坂本花織や鍵山優真を号泣させたほどだった。全日本選手権2連覇中の王者であり、度胸満点のカップルだ。
うたまさに続くのが、"いくこう"と言われる櫛田育良 & 島田高志郎だろう。
ふたりは1年目にして、2025年の全日本選手権では2位に入った成長株。櫛田はシングルの選手としても全日本ジュニア選手権で2度も表彰台に乗るなど将来が嘱望され、アイスダンスと二刀流で戦う。島田はシングルの全日本選手権で2位になった経歴があり、アイスショーなどでも表現力で高い評価を受ける。
また、"りかしん"と呼ばれる紀平梨花 & 西山真瑚も注目度は絶大だろう。
紀平はトリプルアクセルの申し子として、全日本選手権で2度、グランプリファイナルでは1度、優勝を飾っている。ケガでシングルのキャリアは苦しんだが、アイスダンスで再起を狙う。西山はアイスダンスでは紀平で4人目のパートナーで経験は申し分ない。
そうしたアイスダンス活況の流れを生み出したのが、村元哉中&高橋大輔の"かなだい"と言える。村元はもともと第一人者だったが、高橋が二度目のシングル引退後に転向すると、かなだいブームを作り出した。高橋のファンが精力的に会場に訪れると、その盛り上がりが次第に波及していった。かなだいが驚くほどの進化を遂げ、世界TOP10に迫り、アイスダンスの楽しさを体現したのも大きいだろう。
日本のアイスダンスは「かなだい前後」に分かれるほど、人気面で変わった。
ツイズルで動きを調和させられるか、リフトは安定してゴージャスか、ダンススピンは絡み合う美しさや速さがあるか。楽しむ基準ができた(とはいえ、今もアイスダンスとペアの違いも分からない一般的な意見は少なくないが)。減点競技だけに完璧性が求められ、それをふたりで合わせるのは至難の業だけに、成功したときの爆発力は特別だ。
そのパラダイムシフトが、今回の宇野昌磨&本田真凜のカップル結成にもつながっている。しょまりん(通例だと名前の並びは女性、男性で呼ぶのだが、響きのかわいさからこちらで定着しつつある)の誕生だ。
2024年、筆者は引退した直後の本田真凜とのインタビューで質問したことがあった。
――アイスダンスは、かなだいで爆発的に注目度が上がりました。本田さんもアイスダンスに興味があったとか......。
当時、彼女はこう明かしていた。
「じつは私、アイスダンスを練習していたことがあります。2021年1月から5月くらいまでやっていて。靴もアイスダンスの靴にして練習したんですが、本当に、本当に難しかったです。靴が違うと、まったく別の競技をしているんじゃないかという乗り心地でした。(アイスダンスの靴は)すごくエッジが短くて、不安定。慣れてきたらスケーティングはこっちのほうがやりやすいと感じるようになったんですが......ふたりでひとつの動きをミリ単位で合わせるのはアイスダンスならではで。でもアイスダンスは奥が深くて、ひとつに合ったら面白いな、とも思いました!」
シングルのツイズルは、彼らのようなレベルの選手だったら難しくはない。しかし、お互いがペースを合わせなければならないツイズルの難易度は格段に上がるという。シングルのトップ選手でも最初は手探りになるほどだ。
以前のインタビューで、宇野にも訊いたことがあった。
――そもそも、どのようにアイスダンスを始めたんですか?
「まったくの初心者だったんで、とにかくふたりで手をつないで滑りながら。(高橋)大ちゃんとかうまい人や、世界一のアイスダンサーの演技とかを見てって感じです。シングルは自分の体の中心に軸があるじゃないですか?でも、ふたりの間、ど真ん中に軸があると、外でのスピンも相当なスピードが必要になるんですよ。それは体感で言うと、とんでもなく速い。外側から見ると、そうでもないんですけど(笑)。最初はそれに戸惑って難しかったです。ただ、僕はできないことをできるようになるところに成長を感じられるし、その瞬間は好きなんだなってあらためて思いました」
その‟好き"を共有できるか。村元が初めてアイスダンスを滑った高橋に感想を聞いた時、「大変だけど、すごく楽しかった」という答えを受け、続けることを確信したという。楽しさがあれば、それを技に転じさせ、観客の熱狂を生めるのだ。
しょまりん誕生のインパクトは大きい。ふたりともスケート以外でもファンを増やしているだけに注目度は上がるだろう。全日本選手権に向けた地方ブロック大会から参戦予定で、いよいよアイスダンス新章の開幕だ。
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