【上質映画館諸国漫遊記】TOHOシネマズららぽーと門真/理想を追求した「新設」スクリーンの感激体験

【上質映画館諸国漫遊記】TOHOシネマズららぽーと門真/理想を追求した「新設」スクリーンの感激体験

5月23日(土) 8:00

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映画を愛する人にとって、テレビやネット動画もいいけれど、やはり映画は映画館で観るものだと考える方は多いだろう。本コラムでは全国の映画館の中から「これは」と思う上質なスクリーンを訪問し、その魅力をお伝えしたい。(取材・撮影・文/ツジキヨシ)

▼新設のシネコンに作られた近畿唯一のドルビーシネマ

前回に続いて、近畿地方のドルビーシネマ3スクリーン紹介の第二弾をお届けする。今回は大阪府 門真(かどま)市にあるTOHOシネマズ ららぽーと門真のスクリーン6だ。

TOHOシネマズ ららぽーと門真は、2023年4月にオープンした、全9スクリーン1430席を擁する、新設のシネマコンプレックス。全スクリーンに最新のレーザープロジェクターが導入されているほか、「ドルビーシネマ」「プレミアムシアター」「轟音シアター」という、TOHOシネマズが誇るハイクォリティな上映設備が組み込まれている。

既存の映画館を改修したシネコンではなく、完全に新設された劇場に作られたことがトピック。新設のドルビーシネマとしては、2020年の「T・ジョイ横浜」(神奈川県)に続く、日本で2スクリーン目、近畿地方では唯一の存在となる。ちなみに3スクリーン目は、連載第1回で採り上げた「TOHOシネマズ すすきの」(2023年11月開業/北海道)、4スクリーン目は「TOHOシネマズ 大井町」(2026年3月開業/東京)となり、貴重な存在だ。既存映画館からの改修が悪いわけではないが、シアター自体の物理的なシェイプや構造変更などの点では制約を受ける可能性もあり、新設のほうが理想を追求できるポテンシャルが大きいとはいえるだろう。

TOHOシネマズ ららぽーと門真は、三井不動産が展開している2つのショッピングモールの事業形態である「三井ショッピングパーク ららぽーと」と「三井アウトレットパーク」を、はじめて同一エリアに複合させた施設内にあるシネマコンプレックス。その巨大施設の目玉として、コストコなどと並んで最新鋭劇場として出店した格好だ。

この施設がある土地は、2017年までは松下電器産業/パナソニックのAV(オーディオビジュアル)製品の工場および研究開発拠点があったところで、筆者もテレビやビデオレコーダー、オーディオコンポーネントの取材で何度も訪れた馴染み深い場所である。いまでも「門真」といえば、かつての「パナソニック南門真」をすぐに思い描く。TOHOシネマズ ららぽーと門真がオープンして以来、ここで何度か映画を鑑賞したが、この地を訪れる度に、パナソニックの栄光のAVコンポーネントたちと、その開発、製造に携わった敏腕エンジニアたちとの交流を思い出し、少し感傷的な気持ちになってしまう。

TOHOシネマズ ららぽーと門真は、一大ショッピングモールだけあって、クルマでの来店をメインの交通手段としているようで巨大駐車場が完備されている。公共交通機関を利用する場合は、京阪本線か大阪モノレールの「門真市」駅から徒歩で10分弱というロケーションとなる。

今回は宿泊していた大阪駅近くのホテルから谷町線という地下鉄を使って、大日駅で大阪モノレールに乗り換え、そこから1駅で門真市駅に到着した。新幹線の新大阪駅から向かう場合は、御堂筋線や大阪環状線を乗り継いで京橋駅から京阪本線の門真市駅に向かうのがよいようだ。ちなみに大阪空港からはモノレールで1本、40分弱である。

なお、現地には「日曜日・祝日の夕方、15時~18時台は、周辺道路や駐車場が大変混雑し、出庫まで3時間以上時間がかかる場合がある」との注意書きもあったので、クルマで訪問される際はくれぐれもご注意いただきたい。

▼映像/音声/再生環境を追求したドルビーシネマ

TOHOシネマズ ららぽーと門真は、ショッピングモールの中にあるシネコンであるため、フードコートなどを抜けて、劇場エントランスへ向かうカタチになる。今回は9時50分からの上映を鑑賞したため、モール自体がオープンしておらず、店頭看板の案内に従って、モール外側から大回りして劇場エントランスに向かった。このルートは少々分かりづらいので、10時前の上映を鑑賞する場合は、事前にエントランスへの経路をしっかり把握し、時間に余裕を持って行動したほうがいいだろう。恥ずかしながら、今回は少し迷子になった。

さて、前回(第10回)のMOVIX京都に引き続き、ドルビーシネマで「私がビーバーになる時」の吹替版を鑑賞した。ドルビーシネマについて、改めて以下のように整理しよう。

①4Kレーザープロジェクターを2台使ったHDR対応「ドルビービジョン方式」の高画質

②天井スピーカーを含む3次元立体音響「ドルビーアトモス方式」の高音質

③快適な座席、室内環境などがドルビー基準に沿った「究極のシアターデザイン」

上記の画質/音質/再生環境の3要素を兼ね備えた、ドルビーが考える「最強の映画館」が「ドルビーシネマ」なのである。と前回も書いたが、詳しくは 連載第1回をご覧いただきたい。

▼強烈な光のパワーを活かした見事なHDR映像の表現力

TOHOシネマズ ららぽーと門真のドルビーシネマがあるスクリーン6は、既存劇場の改修ではなく新設だけあって、ドルビーシネマとして制約が少ない環境で作り上げられたと思われる素晴らしい仕上がりだ。スクリーン入口にあるAVP(Audio Visual Pathway)という横長ディスプレイを活用したゲートが観客を出迎えてくれる。

スクリーン内は、ドルビーシネマの文法通り、艶消し黒とドルビーブルーのアクセントライトで仕上げられている。座席はスクリーン側から後方にかけてかなり傾斜をつけて11列が配置されており、前方に座っている人が映像と被らないように配慮されている。232+車椅子用2の座席が用意されているが、今回は「F−14」という6列目のほぼ中央の席で観た。スクリーン内のほぼセンターポジション、スクリーン中央の延長線上の座席という絶好のシートでの鑑賞となった。

スクリーンサイズやアスペクト(縦横比)は非公表だが、目測では幅15mくらい、アスペクトは、ビスタよりもやや横幅が広い変形ビスタ、16:11くらいのようだ。「私がビーバーになる時」はビスタで作られた映画なので左右に僅かに黒帯が入るものの、スクリーンの天地いっぱいに映像が投写されて、気持ちがいい。

映像は4Kレーザープロジェクター2台投写仕様によるHDR(ハイ・ダイナミックレンジ)スペックをフルに活かした素晴らしさが存分に味わえた。「私がビーバーになる時」では、主人公メイベル・タナカが、映像が明転し回想場面へと移行するシーンがあるが、その明るさが圧倒的な光のパワーでスクリーンを照らし出す。全暗環境が整えられたシアター内との明暗のコントラストが強烈であり、思わずメモのペンを持った手が止まってしまったほど。さすがHDRの映像表現力は大したものだと再確認した次第。

▼多数のスピーカーでシアター内を埋め尽くす

天井スピーカーとサラウンド/サラウンドバックスピーカーは全て露出している。天井スピーカーは、7基×2列、左右壁面にあるサラウンドスピーカーは、左右7基ずつに加えて、サブウーファーと思しき大型スピーカーが2基ずつ配置。スクリーンの対向面(映像投写窓)側にもサラウンドスピーカーが合計9基設置されている。

このようにドルビーシネマ、正確にいえば、ドルビーアトモス音響システム導入スクリーンでは、露出している/隠蔽されているに関わらず、非常にたくさんのスピーカーを使って、ハーフドーム状の立体音響を作り上げているが、ただ単にスピーカーを多数使えば素晴らしい音響が実現できるわけではない。肝心なのは、スクリーン内の音響設計が正しく実施されているか、である。

TOHOシネマズ ららぽーと門真のスクリーン6では、非常に確かな音響処理が施されていることがすぐに分かる。エアコンなどの空調ノイズなどがしっかり抑えつつ、吸音処理をしっかり行い、響きを極端に減らした環境となっている。専門的には「デッドな音響」と呼ばれている状態だ。これは残響/響きを殺す(Dead)しているから。スピーカーからの音をできるだけ反射させないようにしっかり吸音させて、よりダイレクトな音だけをリスナーに届ける意図からの設計だ。余計な響きがあると困る録音用スタジオや静音用スタジオでよく用いられている方法論、音響特性である。映画館では基本的にはデッドな音響環境で作られていることが基本となるが、TOHOシネマズららぽーと門真のスクリーン6は、その特性が際立って整っているように感じた。

「私がビーバーになる時」は、実によく練られたドルビーアトモス音響が楽しめる映画である。映画冒頭で、傷心の主人公が、近くの池の岩場で、祖母とともに耳をすませて、自然の音を聞き取る場面。少しずつ雑音が消え、風の音、木々のざわめき、とんぼが横切る音、鹿や鳥、雀、アヒル、カエルの鳴き声や動作音。そうした数々の音が、彼女を静かに、しかし確かに包み込む。そして池に現われたビーバーが奏でる水しぶきの音。池にはまるでオーケストラのように多彩な音が満ちており、耳をすますことでその息吹が鮮明に感じられるようになり、次第に彼女の傷ついた心を癒す。美しい映像と巧みな音響との連携で、主人公への感情移入を促す巧みな導入部なのだが、その自然の音がTOHOシネマズららぽーと門真のドルビーシネマでは、シアター内のあらゆる場所から、主人公の気持ちと同様に観客に対して、文字通り包み込むようにきれいにサラウンドするのである。

▼ドルビーアトモスの立体音響とピクサー映画の深い関係

「私がビーバーになる時」の音響デザインは、レン・クライス(Ren Klyce)が担当している。彼は、京都出身の米国人サウンドデザイナーで、「セブン」以降の全てのデビッド・フィンチャー監督映画作品を手掛けたほか、「スターウォーズ最後のジェダイ」を担当。ピクサー映画も「バズ・ライトイヤー」「ソウルフル・ワールド」「インサイド・ヘッド」「インサイド・ヘッド2」「マイ・エレメント」など多数の作品に参画している手練のエンジニアであり、全てが作り物であるアニメーション作品を、生命を注ぎ込むような音響設計を行う達人だ。

レン・クライスとともに音響制作を手掛けたのは、スカイウォーカー・サウンドである。スカイウォーカー・サウンドは、「スター・ウォーズ」シリーズのジョージ・ルーカスが創立したルーカス・フィルムの音響制作部門であり、「トイ・ストーリー」以来全てのピクサー映画の音響制作を受け持っていることでも知られている。

元々、ピクサーはルーカス・フィルムのコンピューター部門から独立したという背景もあり、スカイウォーカー・サウンドとは非常に近しい関係にある。そしてスカイウォーカー・サウンドとドルビーの映画音響との関係は深い。1977年の「スター・ウォーズ」がアナログ方式のムービーサラウンド「ドルビーステレオ」の普及の起爆剤だったことは良く知られているが、その音づくりを担当したスカイウォーカー・サウンド、そしてピクサーはドルビーアトモス発展にも深く関わっている。

なんと言っても世界初のドルビーアトモス音声採用作品は、ピクサー映画の「メリダとおそろしの森」(2012年)であり、その音響をスカイウォーカー・サウンドが担当したのだから。主人公メリダが放つ弓の軌道音を、ドルビーアトモスの立体音響でシャープに描いた場面を始めて体験したときの驚きはいまでも鮮明に覚えている。同作以降、ピクサー作品では全てドルビーアトモス音声での制作されており、精緻なフルCGアニメーション映像の世界を、3次元立体音響が命を吹き込み続けている。

蛇足ながら、「メリダとおそろしの森」のドルビーアトモス音声は、海外盤UHDブルーレイにしか収録されておらず、日本盤ブルーレイや動画配信サービスではドルビーアトモス音声は楽しめないのが、くれぐれも残念だ。閑話休題。

ピクサー×スカイウォーカー・サウンドの最新の成果が「私がビーバーになる時」である。先に紹介した冒頭シーンのようなナチュラルなサラウンド音響のほか、アクションシーンでのド派手な音響が非常に印象に残った。

主人公メイベルが意識転送マシーンを使って、はじめてビーバーになる時。メイベルの宿敵(?)ジェリー市長が設置した拡声器付き模造樹木がぶっ倒れる瞬間の轟音。「頂点の捕食者」の強烈な破壊音。ビーバーたちの「もふもふ」な愛くるしいビジュアルからは想像もつかない圧倒的なサラウンドサウンドの妙味が、TOHOシネマズららぽーと門真のドルビーシネマで存分に楽しめた。

低音は豊かな量感がありながら、ボヤけたりする(=ダルなところ)ことが一切なく、ザクザクとスピード感に優れ、引き締まっている印象だ。これはスピーカーシステムやアンプが優れているだけでなく、サブウーファーの性能や使いこなしが巧みである証だろう。

▼映像のリアリティを立体音響が堅固にサポート

結論を述べよう。TOHOシネマズ ららぽーと門真のドルビーシネマは、映像面では、HDR映像の光パワーが圧倒的であり、映像のリアリティを見事なドルビーアトモスサウンドが堅固にサポートした最先端スクリーンであった。

映画が終了し、席を立った時、後ろの席にいた大学生と思しき二人の若者が「これは凄いな」「ここで観て良かったな」との話し声が聞こえた。

筆者も「全く同感」と、心の中で相槌を打ち、スクリーンを後にした。こんな素晴らしい環境で、素晴らしい映画を体験できる機会に巡り会えたのは、本当に幸せだった。懐かしの南門真の地に建てられた上質映画館のパフォーマンスを胸に、巨大ショッピングモールをあてもなく散策し、映画の感激に浸ったのであった。

■採点
映像9.0/音声9.2/座席8.5/総合9.0
新設ドルビーシネマの利点をしっかりと活かした高品位上映が魅力。

TOHOシネマズ ららぽーと門真ホームページ
https://hlo.tohotheater.jp/net/schedule/088/TNPI2000J01.do

TOHOシネマズ ららぽーと門真施設案内
https://www.tohotheater.jp/theater/088/institution.html

TOHOシネマズ ららぽーと門真ららぽーと門真 営業時間外の当館への入退館ルートのご案内
https://mitsui-shopping-park.com/lalaport/kadoma/special/2304cinemaroad/index.pdf

ドルビーシネマ紹介/JASジャーナル(日本オーディオ協会刊)2019年5月号
https://www.jas-audio.or.jp/journal-pdf/2019/09/201909_005-014.pdf

ドルビーシネマ Dolby Japanホームページ
https://www.dolbyjapan.com/dolby-cinema

【作品情報】
私がビーバーになる時

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