40試合以上を消化し、シーズン全日程の4分の1が終了したMLB。世界最高峰の舞台でしのぎを削る日本人メジャーリーガー13人の実力&ポテンシャルを徹底分析する!
【ドジャース3人衆の現在地】開幕から1ヵ月半以上が経過し、シーズン全日程の4分の1を消化したMLB。
明暗が分かれ始めている日本人メジャーリーガー13人の現状について、MLBに精通する野球評論家で、現役投手を指導するピッチングデザイナーのお股ニキ氏に徹底分析してもらおう。
まずは、注目度が最も高い〝ドジャース3人衆〟から。
最大の話題は、開幕から完全無双モードに突入、3、4月のナ・リーグ投手月間MVPを初受賞した大谷翔平だ。
現在、37イニングを投げ、防御率0.97、42奪三振を記録。日本人史上初のサイ・ヤング賞受賞へ向けて幸先の良い滑り出しを見せているが、その要因について、お股ニキ氏はまずフォーシームの進化に着目する。
「今季の大谷は、フォーシームの回転数が2800回転を超えることもあります。これは、粘着物質の規制が強化されて以降、フォーシームではまず見ない数値です。しかも、160キロ超の剛速球で、とんでもない球威で伸び上がる。
世界屈指のフォーシームに加え、代名詞のスイーパー、進化したカーブと曲がり球も一級品。自力でアウトを取れる究極のピッチングが完成しつつあります。サイ・ヤング賞を目指すには、月間MVPをシーズンで2、3回受賞するくらいの〝隙のなさ〟が必要ですが、現実味が出てきました」
大谷翔平(ドジャース)3、4月のナ・リーグ投手月間MVPを受賞。日本人初のサイ・ヤング賞受賞へ完全無双モード突入
一方、打撃は打率.248、6本塁打、15打点、OPS.831と、ここ数シーズンの爆発ぶりと比べると物足りない印象だ。直近で25打席連続無安打を喫するなど、明らかに苦しんでいる。
「投手としてキャリアハイの15勝、防御率2.33、219奪三振を記録した2022年シーズンも、5月終了時点では打率.249、11本塁打でしたから、二刀流フル回転シーズンの序盤として考えれば、そこまで悪くはない。
ただし、いいときの大谷は、バットを構えた瞬間にまるで『キュイーン』という音が聞こえそうなほど、ロボットのように一定の動きがピタリとハマりますが、今は微妙にズレている。
バットの握りも少し変わっており、ボールの中心をとらえすぎていますし、視力が落ちたようなしぐさも見受けられます。とはいえ、ここからしっかりとフォームや感覚を調整してくるはず。必ず爆発するタイミングは来ると思いますし、そうなれば40発は打つと思います」
ふたり目はメジャー3年目の山本由伸。現在、3勝2敗、防御率3.09を記録。WBCに参加した多くの投手がコンディションを崩す中、抜群の安定感を維持している。
「WBC初戦に登板し、ドジャースの開幕投手も任されながら、4月の早い時点で最速158キロをマークしており、一定水準以上の投球を維持しているのはさすがのひと言。
ただ、開幕前から懸念していたとおり、スプリットがツーシームと機械判定で誤認されるくらい落ちが悪く、なかなか空振りが奪えず、打たせて取る投球しかできなくなってきています。
スプリットを改善したり、打たれているカッターを減らしてスライダーを増やしたりして奪三振を増やさなければ、サイ・ヤング賞にはなかなか手が届かないかもしれません」
山本由伸(ドジャース)WBC組がコンディションを崩す中、抜群の安定感。奪三振を増やせるかが今後のカギを握りそうだ
メジャー2年目の佐々木朗希は1勝2敗、防御率5.97と苦しんでいる。
「最盛期は最速164キロ、2500回転ほどだったフォーシームが、今は154キロ、2000回転ほどまで落ちています。回転数が低いから悪いとは一概に言えませんが、これだけ落ちているのはリリースの感覚が完全に狂っている証拠。
現状、フォークも136キロ程度と遅すぎて打者に見極められてしまい、グラブの構えにも癖が出ていて球種を読まれてしまうなど、厳しい状況が続いています」
佐々木朗希(ドジャース)メジャー2年目も苦しい投球が続くが、以前投げていた〝スプリットのようなフォーク〟を再び投げ始めた
ただし、復活の兆しも見えてきた。5月3日の登板では、メジャーで自己最多の104球を投げ、6回3失点でクオリティスタートを達成したのだ。
「MLBに来てからスプリットの球速を落とし、遅くて大きな変化の〝お化けフォーク〟一本やりになっていたので、『ロッテで完全試合を達成した頃に投げていた146キロ前後のスプリットのようなフォークが本来のボール』と私は昨年から何度も提唱してきましたが、ついに実装されました。
本来、佐々木はフォークだけで複数の球速、軌道をグラデーションで自在に操れる稀有な投手です。スラッターも悪くないですし、化ける可能性は十分あります」
【MLBを席巻するふたりのルーキー】メジャー1年目ながら、共にインパクト十分の活躍を見せているのが、村上宗隆(ホワイトソックス)と岡本和真(ブルージェイズ)だ。
とりわけ衝撃的なのが、村上の本塁打量産っぷりだ。打率.230、15本塁打、29打点、OPS.922を記録し、あのアーロン・ジャッジ(ヤンキース)とタイトル争いを演じている。
5月9日のマリナーズ戦ではメジャー史上初となる「8カード連続で初戦本塁打」という珍記録まで樹立。日本での愛称〝村神様〟をもじり、〝村GOD〟と呼ばれるなど、現地で村上フィーバーを巻き起こしている。
「ヤクルトでプレーした昨季はケガで出遅れながら、56試合で22本塁打と量産。WBCの練習を見てもフォーム修正がうまくいき、MLBの投手にアジャストできていました。三振、四球、本塁打が多くなるアダム・ダン(元レッズほか)、カイル・シュワーバー(フィリーズ)と同タイプの打撃で、パワーに関しては日本人として歴代屈指と言っていいでしょう」
村上宗隆(ホワイトソックス)ジャッジとタイトル争いを演じるほど本塁打を量産。"村神様"から転じて"村GOD"と称されている
村上の活躍を後押ししているのが、今季から本格導入されたABS(自動ボール判定システム)だ。
「昔から、ルーキーの日本人は厳しい判定を取られがちで、ボール球をストライクと判定されて勝負が終わるケースも多々ありました。村上は本当の意味で球がよく見えていて、数㎝単位でゾーンの見極めができています。
4月19日の試合では2球連続で低めの球をチャレンジして判定を覆しましたが、そもそもルーキーなのにチャレンジ権の使用許可を与えられていることがすごい。信頼されている証拠です」
岡本は打率.248、10本塁打、25打点、OPS.815を記録。本拠地ロジャーズ・センターでは、岡本の好物であるメキシコ料理ケサディーヤをアレンジした「Kaz-Adilla(カズアディーラ)」なる球場グルメまで販売開始されるなど、すっかり人気者となっている。
「巨人時代から150キロ以上の速球には強かったですが、メジャーでもしっかり対応できています。課題はスイーパーとカットボールなどの動く速球への対応ですが、打席での立ち位置を後ろにするなど、徐々に解決への糸口を見いだしていますし、慣れも必要でしょう。
守備も抜群でメジャーで十分通用しています。打順に関しても、チームの主砲であるブラディミール・ゲレーロ・ジュニアの前後を任されており、評価は高いです」
岡本和真(ブルージェイズ)打撃も守備も好プレー連発。好物をアレンジした球場グルメ「Kaz-Adilla」が誕生するほどの人気ぶり
【復活の鈴木、もがく吉田】メジャー経験を重ねた野手ふたり、鈴木誠也(カブス)と吉田正尚(レッドソックス)は明暗が分かれている。
鈴木は打率.305、7本塁打、OPS.975と好調を維持し、WBCで負った右膝靱帯損傷の影響を感じさせない。
「下半身を故障すると粘りがなくなり、打率を残せなくなるパターンが多いので、正直、膝の故障は心配していました。しかし、復帰後の鈴木はしっかり走れて外野守備もこなしている。
打撃に関しては昨季終盤につかんだ感覚が、WBCを経て、そのまま続いているようです。体の使い方がワンランク上がった印象で、メジャーのボールにも完璧にハマっています。『日本人最強右打者』と言って差し支えなく、今季は打率3割、40本塁打は残してくれそうです」
鈴木誠也(カブス)WBCで負った右膝靱帯損傷も乗り越え、打撃好調。日本人最強右打者の名にふさわしい状態だ
対照的に苦境に立たされているのが吉田だ。打率.277、OPS.728と悪くないが、ここまで24試合の出場にとどまっており、出場機会そのものが激減している。
4月に解任されたアレックス・コーラ前監督との不和がささやかれており、チャド・トレーシー暫定監督の就任で状況は改善されるかと思われたが、起用法は変わらない。
「打撃そのものは相変わらず天才的です。問題は守備で、DHや代打要員としてしか起用しにくいレベル。トレーシー暫定監督が『ほかの4外野手のスピードや万能性を考えると彼らを出さないわけにはいかない』と語っていたのが、すべての答えです。
監督の好き嫌いではなく、ロースター構成と守備力の問題。年俸も高いため、トレード市場でもなかなか動かしづらい。これほど天才的な打者が干されている現実は、もったいないと言わざるをえません」
吉田正尚(レッドソックス)打撃成績はそこまで悪くないが、守備を不安視されて出場機会激減。最強打者が干されているのは惜しい
【頭脳と適応力で結果を残す2投手】投手陣で頭脳と適応力を存分に発揮しているのが、今永昇太(カブス)と菅野智之(ロッキーズ)だ。
今永は4勝2敗、防御率2.28と、昨季の不振から見事に立ち直った。
「今季の今永のピッチングは、私が長年提唱してきたことをほぼ体現しています。昨季は球速が落ち、スイーパーを曲げようとしすぎてアングルが下がっていた。オフにその点を修正し、下半身の使い方も変えたことで、フォーシームの球速が2キロ程度アップ。
さらに、同じフォームのまま握りだけ変えてツーシームを習得し、スイーパーも適度な変化量に抑えました。メジャーで主流になっている投球スタイルを、極めて知的に取り込んだアップデートです」
今永昇太(カブス)昨季の不振から見事に復活。メジャーの最新トレンドを取り入れた投球スタイルを確立している
そして、打者天国と呼ばれるクアーズ・フィールドを本拠地とするロッキーズへ今季移籍したばかりの菅野も好調だ。今季ここまで3勝2敗、防御率3.41を記録。投手受難の地でなぜ抑え続けられるのか?
「菅野こそ〝真の和製マダックス〟です。データサイトの数値は軒並み低評価の〝青〟に染まっているものの、結果を出しています。つまり、球の質的支配力ではなく、配球と投球術で打ち取っているということ。
とはいえ、今季は自己最速級の150キロも出ており、フォーシーム、ツーシーム、スプリット、カッター、スイーパー、カーブに加え、私が以前から提唱していた136キロ前後のジャイロスライダーも装備。標高が高く、変化量が小さくなるクアーズ・フィールドでも、適度に落ちる軌道を保てています」
菅野智之(ロッキーズ)"投手の墓場"ともいわれるクアーズ・フィールドで粘りの投球を披露。お股ニキ氏も"真の和製マダックス"と高評価
もうひとつのカギは、首脳陣による配球サインだ。
「今のメジャーでは、捕手ではなく、ベンチから配球を指示するチームが増えており、ロッキーズもそれを採用しています。菅野は事前のシミュレーションどおりに完璧に遂行できる頭脳と投球技術を持っているので、相性抜群です。この調子を維持すれば、夏場のトレード移籍の可能性すら現実味を帯びてきます」
【故障を抱える苦戦組】最後に、苦戦組にも触れておきたい。
まず0勝4敗、防御率9.00で、腰椎の炎症によってIL(故障者リスト)入りした千賀滉大(メッツ)。
「千賀の遅くて大きく落ちる〝お化けフォーク〟は、今のメジャーでは完全に対策され切ってしまいました。スプリットチェンジが慣れられて苦しんだタイガース時代の前田健太(楽天)、前述の佐々木も根は同じです」
千賀滉大(メッツ)0勝4敗、防御率9.00と苦しみ、腰椎の炎症でIL入り。伝家の宝刀"お化けフォーク"も対策されているようだ
続いて、0勝3敗、防御率5.81で、左肩の炎症によってIL入りした菊池雄星(エンゼルス)。長期離脱の可能性も指摘されている。
「菊池は力ずくの投球が目立ちます。2024年にトレードで加入し、数ヵ月だけ在籍したアストロズで好成績を残しましたが、そのときの〝答え〟を再現できていません」
菊池雄星(エンゼルス) 0勝3敗、防御率5.81と開幕から調子は上がらず。左肩炎症によりIL入りしたが、長期離脱の可能性も指摘されている
そして、1勝0敗、防御率7.27と波に乗り切れず、右腕の疲労でIL入りしていた今井達也(アストロズ)。
「注目を集めたリバーススライダーは武器ですが、制球に苦しんでいます。今井は、佐々木、藤浪晋太郎(DeNA)、山口俊(元巨人ほか)と同系統の〝点でリリースするタイプ〟の投手であり、メジャーの硬いマウンド、大きくて滑るボール、狭いストライクゾーンに苦戦。グラウンド内外で、技術以外でも環境に適応する必要がありそうです」
今井達也(アストロズ)1勝0敗ながら防御率7.27といまひとつ。ILから復帰後、リバーススライダーを武器に立て直せるか
さらに、左内転筋負傷で開幕からIL入りしていたが、5月6日にメジャー復帰した松井裕樹(パドレス)。今季初登板では、2回3分の2を無失点に抑えた。
「日本では毎年防御率1点台を記録する圧倒的なリリーバーでしたが、勝ちパターンに160キロ超えの投手がざらにいる今のメジャーでは埋もれてしまっています。プレーオフのタイトな試合で投げるためにも、もうワンランク突き抜けたいですね」
松井裕樹(パドレス)左内転筋負傷で開幕からIL入りも、5月6日に復帰。初登板で2回3分の2を無失点で切り抜けた
シーズンはまだ全日程の4分の1を消化したばかり。ここからの巻き返しや進化に注目したい。
*成績はすべて日本時間5月10日時点
写真/時事通信社共同通信社
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