書類選考ナシ、55歳でも歓迎…生保レディの「ザル採用」に潜む罠。新人の“友達”を顧客リストとして使い潰す、焼き畑営業の裏側

筆者近影

書類選考ナシ、55歳でも歓迎…生保レディの「ザル採用」に潜む罠。新人の“友達”を顧客リストとして使い潰す、焼き畑営業の裏側

5月20日(水) 15:54

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ハローワークや駅前に立ち、行き交う女性を目で追う。とにかく誰にでも声をかけ、断られたら次の人へ。その繰り返しだった。スカウト活動は、わたしが生命保険会社に在籍していた頃の日常だった。生保レディといえば、保険の勧誘だけでなく、街頭でのスカウトが積極的なことでも知られている。

実はわたし自身も、かつてスカウトされた側だった。前職での営業活動に疲れ切っていた時期、都内の駅前で声をかけられ、深く考えずに入社を決めた。入社後しばらく経つと、今度は自分がスカウトする側に立つようになった。された側とする側、両方を経験したからこそ見えてきた舞台裏をお伝えしたい。

「楽しそうなイベント」で集客することも

街頭スカウトをしていると、立ち止まって話を聞いてくれるのはパートで働く主婦層が多かった。生保業界の働き方は主婦にウケがいい。「時間の融通が利くから子育てと両立できます」「旦那さんより稼いでいる方もいますよ」といった言葉が響くのだ。

スカウト後の流れも決まっている。キャリア診断テストを案内して来社の約束を取り付ける。支社では診断結果をもとに不安や悩みを引き出しながら「保険業界なら解消できる」と未来像を描いてみせる。

街頭スカウト以外にも採用ルートはある。既存の契約者や知人に対しては、占い師を招いたり、ケーキが振る舞われる女子会風のイベントに誘うこともあった。保険の話ではなく「楽しそうなイベント」として案内するので、参加者の多くは採用目的だと知らないままやってくる。

採用活動にも「ノルマ」が

平日の日中に来る人の多くは、主婦かシフト制で働いている。こういう人たちにとって、支社のオフィスも採用に一役買っていた。広々とした綺麗なフロアに女性たちが思い思いのデスクグッズを並べ、あちこちでキャッキャと談笑している。活気ある職場の光景が、オフィス勤めでない人には輝いて見えるようだった。

ちなみにわたしの中途入社の同期は20人。わたし以外は営業未経験で、元々の仕事は飲食店スタッフ、エステティシャン、美容師、アパレル販売員、主婦。初めての正社員雇用という人や、「普通の会社なら採用されないだろうな」と感じる人さえいた。幅広い層が集まってくる背景には、生保業界特有の採用活動の仕方にある。

会社が求人サイトで募集するわけではなく、採用活動そのものを生保レディたち自身がおこなう仕組みになっている。一般企業のリファラル採用とは違い、生保業界の採用活動は半ばノルマのような義務として組み込まれている。業界の外にいる人からすると、なかなか驚きの構造ではないだろうか。

早期離職前提の「ザル採用」…その実態は?

実際の選考過程は驚くほどシンプルだ。大体は書類選考ナシ、カジュアル面談を二回。よほど非常識な印象を与えない限りウェルカム。こちらからお願いして、入社してもらうくらいの姿勢だ。年齢制限などあってないようなもので、過去には55歳での採用実績もある。誰でも採用し、早期離職が前提になっている。実態はまさに「ザル採用」だ。

なぜ選考基準皆無の採用が成立するのか。構造的な理由が3つある。

理由①:採用が「成績」になる

わたしが在籍していた会社では、人材を採用することが、そのまま採用した本人の評価に反映される仕組みになっていた。契約が取れない月も、採用者を連れてくることで帳尻が合わせられる。保険を売れない人ほど採用で補填する実態は、少なくともわたしの周囲では半ば公然の事実だった。

さらに管理職になると、個人の営業ノルマから概ね解放される。つまり個人ノルマから離れたければ、チームを持つしかない。そしてそのチームメンバーは、自分で採用してこなければならない。熱心に声を掛けるのは、善意だけではなく、自分自身がノルマから抜け出すための手段でもあるからだ。

新人の人脈を使った焼き畑農業

理由②:新人が「契約」を連れてくる

新人が入社直後にまず向かう先の多くは、身内・知人といった「自己基盤」とされている。両親、兄弟、祖父母、学生時代の友人、かつての職場の同僚……営業経験のない新人でも、既存の人間関係を頼れば最初の数件の契約は比較的取りやすい。つまり会社にとって、採用は同時に「新たな顧客リストの開拓」を意味する。

理由③:辞めても会社は痛くない

新人が数か月で辞めたとしても、その間に結ばれた契約は残る。離職による損失は限定的であり、新人が入れ替わり続けることで、会社は常に新鮮な顧客リストを手に入れ続けられる。採用を「ザル」にしておくことは、会社にとって極めて合理的な判断なのだ。

工場勤めからの転職組も

同じ支部に、ずっと工場勤めだったと話す30代半ばの女性がいた。人見知りで、オフィスで働くのは生保が初めてだと言っていた。「わたしなんかが営業なんてできるのかな」と言いながらも、「でも変わりたくて」と笑っていた。

入社後の彼女は、最初はとにかくぎこちなかった。売れる営業になるために上司に徹底的に指導を受け、激しい叱責を受けているところを何度も見た。その度に「向いてなさそうなのに入社しちゃってかわいそう」「きっとすぐ辞めちゃうだろうな……」と遠くから見ていた。

しかし意外にも、本人はケロッとしているのだ。気づけば化粧や身に着けるものに気を遣うようになり、明るくなり、人との距離の詰め方も変わっていった。入社直後の数ヶ月は上司が同行してくれるので、最初の契約は取りやすい。その「自分でも売れた」という体験が自信になる。「変わりたかった」と言っていた彼女のことを思うと、自らの変化が本人にとっての救いだったのかもしれない、とも思う。

誰にでもチャンスを与えるとはいえ…

救われるひともいれば、消耗するひともいる。前述の元工場勤めの女性のように、スカウトをきっかけに自分を変えることができた人は一定数いる。夫と同じくらいの年収を稼げるようになった主婦や、生保で自立できたシングルマザーもいた。一方で、ノルマに追い詰められ、知人への営業を繰り返した結果、人間関係をごっそり失った人もいた。精神的に限界を迎えて去っていった人も少なくなかった。

救われるか消耗するかは、結局のところ運に近い。上司の質や環境、営業の適性、見込み顧客との出会い……入ってみるまでわからない要素ばかりだ。保険は本来、顧客のライフプランに寄り添う専門的な金融商品のはずだ。しかし、採用も営業も、その本質からは遠いところで回り続けている。生保業界の構造は「人材」を原材料にした大量生産・大量消費に近く、金融業ではなく別の産業を見ているようだ。

誰にでもチャンスを与える間口の広さは、キャリアの選択肢が少ない女性たちを救ってきた側面は否定できない。ただわたしには、「採用し、人間関係を資源として使い、消耗したら入れ替える」構造が、業界の当たり前として今日も続いていることに、いまだに引っかかりが残っている。

<TEXT/大崎アイ>

【大崎アイ】
関西出身、東京都在住の30代。営業畑を渡り歩いた末、2024年にフリーランスへ転身。旅と酒をこよなく愛する。フットワークの軽さがウリ。フリーランスの日常はnoteで気ままに綴ってます。Xアカウント: @aia___iiiiinote:大崎アイ

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