山根綺「後悔しない道はない」すべてを捨てて選んだ声優の道と、支え続ける言葉

山根綺 クランクイン!写真:吉野庫之介

山根綺「後悔しない道はない」すべてを捨てて選んだ声優の道と、支え続ける言葉

5月20日(水) 12:00

READING WORLD×VISIONARY READING 朗読劇『紫苑のもみじ』で、雨宮もみじ役を務める山根綺。本作が描くのは、「応援席から降りて、自分の人生の主役になる」というテーマだ。誰かの期待に応えようとする中で、自分の本音を後回しにしてしまう。そんな葛藤は、きっと多くの人にとっても身近なものだろう。そしてそれは、山根自身の歩みにもどこか重なる。人の期待に応えようとしていた幼少期、声優という夢に出会ってからの迷いや葛藤。もみじの人生に自分自身を重ねながら、これまでの歩みと、今の自分を支えている言葉をまっすぐに語ってくれた。

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■「自分の人生の主人公は自分なんだ」と思えた瞬間

――「応援席から降りて、自分の人生の主役になる」というテーマが印象的な本作ですが、物語に触れたときの第一印象や、ご自身と重なった部分について教えてください。

山根:プロットを読んだとき、「すごくわかるな」と思いました。きっと誰しも、一度は似たような経験があるんじゃないかなって。

作中で、もみじは応援席から飛び降りてケガをしてしまいますが、子どもの頃の彼女にとって、それはとても大きな失敗や挫折だったと思うんです。そういう経験があると、「もう出過ぎたことはやめよう」とか、「危ないことは避けよう」と、一度は安全な道を選びたくなるものだと思っていて。

私自身も、小さい頃はどちらかというと、そういう生き方をしていました。母を怒らせないように、先生に褒めてもらえるように。「すごいね」「偉いね」と言ってもらえることが、生きがいのような感覚で。言われた通りにしていれば、周りの大人が喜んでくれる。そんなふうに、顔色をうかがいながら生きていたところがありました。

でも思春期になると、「自分が本当にやりたいことって何なんだろう」「自分ってどういう人間なんだろう」と考えるようになって。10代後半から20代は、その答えを探し続ける時間なのかもしれないと感じています。

私も、「私は何者なんだろう」「自分の人生を生きるってどういうことなんだろう」と何度も考えました。その中でふと、「自分の人生の主人公は自分なんだ、自分は自分以外にはなれないんだ」と思えた瞬間があって。だったら、自分で舵を取っていくしかないと思うようになりました。

だからこそ、もみじの気持ちに自然と寄り添えたんだと思います。自分の経験や感情と大きなズレがないキャラクターだと感じたので、「この子なら気持ちを乗せて演じられる」と思えたのが、最初の印象でした。

――20代でも、まだどこか大人になりきれていないというか、何かに依存している感覚はありますよね。

山根:ありますね。人はきっと、何かに依存しながら生きていく存在なんじゃないかなと思っています。相手は人でもいいし、物でもいい。拠り所がないと、やっぱり孤独にはなかなか勝てないと思うんです。

だからこそ、自分の中にいくつか拠り所を持っておくことが大事なんじゃないかなと感じています。一つがなくなってしまっても、すぐに崩れてしまわないように。そうやって少しずつ、孤独と折り合いをつけながら生きていくものなのかなって。

ある程度その孤独と向き合えるようになったときに、初めて自分のことを好きになれるのかもしれない。そんなふうにも思っていて。実は私自身も、今まさにその途中にいる気がしています。

もみじは作中で29歳なんですが、私も今年29歳になったんです。「まさに同い年の役が来たな」と感じました。この年代って、多くの方が自分の生き方や将来について深く考える時期だと思うんです。20代後半から30歳にかけては、悩みや葛藤もぐっと増えていく。

答えの出ないモヤモヤを抱えながら、それでも前に進もうとする。そういう感情をお芝居に乗せることができたら、リアリティのあるもみじを届けられるんじゃないかなと思っています。

■小学校6年生で出会った、“声優”という夢


――役を作り上げていくうえで、山根さんが大切にしている“軸”や、意識していることを教えてください。

山根:私が大切にしているのは「距離感」です。大きく分けると、物理的な距離と心の距離、その2つですね。

まず物理的な距離は、声優のお芝居においてすごく重要だと思っています。マイクの前に立ったときに、話している相手がどこにいるのか。目の前なのか、少し離れているのか、空間に向かっているのか、それとも独り言なのか。そうした空間の距離感を、まず自分の中でしっかり捉えるようにしています。

それに加えて大事なのが、心の距離です。相手のことを好きなのか、苦手なのか、あるいはどう思われているのか。親なのか、友人なのかといった関係性によっても、感情の距離は大きく変わってきますよね。そういう繊細な距離感を自分の中に落とし込んでから、言葉にするようにしています。

頭で理解しているだけでは、なかなか音にはならないと思うんです。しっかりと心に落とし込めて初めて、自然な言葉として出てくる。そのためには、自分自身をどれだけ理解できているかも大切で。キャラクターが「自分自身をどう捉えているのか」という視点も含めて、自分と役との距離感を考えるようにしています。

相手との距離、自分との距離、そして物理的な距離と心の距離。そうしたすべての距離感が重なったときに、リアルなお芝居として立ち上がってくれたらいいなと思いながら、役を作っています。

――山根さんが声優という職業に出会ったのは、いつ頃だったのでしょうか。

山根:声優という職業を意識したのは、小学校6年生のときでした。初めてその存在を知った瞬間に、「私はきっとこれになりたいんだろうな」と、直感的に思ったんです。

当時の私は今ほど明るい性格ではなくて、人と関わることやコミュニケーションがあまり得意ではありませんでした。小学生の頃って、「いじり」と「いじめ」の境界が曖昧だったりするじゃないですか。私はすごく気にしやすい性格だったので、ちょっとした一言でも深く傷ついてしまって。それがきっかけで、人と関わること自体がだんだん苦手になっていきました。

たとえば国語の授業で音読をするとき、緊張すると声が高くなってしまうんです。すると「可愛い子ぶってるんじゃねえよ」と言われてしまって……。そういうことが何度かあって、泣いて帰ることもありました。

そんなとき、1つ上の姉にその話をしたら、「声優さんにもそういう声の人いた気がする」と、ぽつりと言ってくれて。その一言で初めて「声優」という言葉を強く意識しました。それで「どんな仕事なんだろう」と思って調べたのが、きっかけです。

もしこの仕事で成功できたら、コンプレックスだった自分の声も好きになれるかもしれない。私をいじってきた人たちを見返せるかもしれない。そんな反骨心のようなものが、そのときに生まれました。

ただ、小学6年生の時点では、まだ「大人が求める人生」を生きようとしていたんです。いわゆるレールの上にいる感覚で、「大学に行くのが当たり前」という空気の中で、自分もそうするんだろうと思っていました。

でも心のどこかではずっと、「本当は声優になりたいのに、どうして大学に行くって言っているんだろう」と感じていて。その現実と本音のギャップに悩み続けた10代でした。

そして高校3年生のとき、その葛藤が一気に爆発しました。「やっぱり私は大学には行けない」と思った瞬間に、「自分の人生を生きるしかない」と腹をくくったんです。

高校3年生の夏には、家族と1ヵ月ほどかけて何度も話し合いを重ねました。かなり壮絶でしたね(笑)。その末に、「自分の人生を生きてみよう」と決めて、声優を目指すことを認めてもらいました。今振り返ると、本当に葛藤の多い10代だったなと思います。

■「これでダメだったら終わり」すべてを捨てて選んだ覚悟


――声優を目指すと決断し、実際にその道を進んでいく中で、不安や迷いとはどのように向き合ってきたのですか?

山根:正直に言うと、「これでダメだったら終わりだ」と思っていました。背水の陣、という感覚でしたね。当時関わっていた友人や人間関係とも、あえて少し距離を置いて、家族とも自分の中で距離を取るようにしていました。完全に一人になるわけではないんですが、自分で逃げ道をなくすような感覚でした。

大学に通いながら声優を目指すとか、資格を取りながら挑戦するという選択肢もあったと思います。でも私はそういう道は選ばず、声優以外の可能性を自分で断って、「これしかない」という状況を作ったんです。

そうすると、もう進むしかなくなるんですよね。「これでなれなかったら終わり」という覚悟でした。もともといろいろなことを同時にこなせるタイプではないと思っていたので、一つのことにまっすぐ向き合うしかないと感じていました。

不安はもちろんありましたが、それ以上に「これしかない」という気持ちのほうが強くて。その一点だけを見て、前に進んでいました。

――依存からの脱却、という感覚もあったのでしょうか。

山根:そうですね。もう自分が限界だったんだと思います。勉強にも手がつかなくて、シャーペンを握っても、2時間くらい何もできずに止まってしまうような状態で。

そのときに、「今ここで勉強している時間は、本当に自分の人生なんだろうか」と強く思ったんです。塾で机に向かっている時間が、どうしても「自分がやりたいこと」には思えなくて。そこで初めて、「これは私の人生じゃないのかもしれない」と深く実感しました。だからこそ、思い切って振り切ることができたんだと思います。

もちろん、すごく悩みました。海を見ながら何時間もぼーっとして、「私は誰なんだろう」「何のために生きているんだろう」と、ずっと考えていて。

でも、そうやって何度も問い続けて、考え抜いた結果、「もう全部捨ててしまおう」と思えたんです。自分が本当にやりたいことだけを信じて進もう、と。

――そうして声優の道へ進まれた中でも、大変だと感じる瞬間は多かったのでは?

山根:大変でした。もう無理なのかなと思ったことは、正直何度もあります。それでも続けてこられたのは、自分にとってこれしかなかったからだと思います。この仕事がやりたいという気持ちは、ずっと変わらなかったので。

ただ、最初は「有名になりたい」とか、「昔、自分をいじってきた人を見返したい」といった反骨心で動いていた部分が大きかったんです。でも声優は役者なので、それだけでは続かない世界なんだと早い段階で気づきました。

「努力は夢中に勝てない」という言葉があるように、本当に好きで夢中になっている人のエネルギーには敵わない。だから、「有名になりたい」「見返したい」という気持ちだけでは通用しないし、続けていけないと感じたんです。

この世界には、お芝居そのものを楽しんでいる人がたくさんいる。その中で自分はどう在るべきなんだろうと考えたときに、「このままではダメだ」と思って。一度、「何者かになりたい」という気持ちは手放して、自分の中身と向き合うようになりました。

「自分はどこで戦えるのか」「自分にしかないものは何か」と考え続ける中で、結局、自分からは逃げられないんだと気づいたんです。どれだけ“別の誰か”になろうとしても、自分は自分のままで。

そんな中で救いだったのが、「お芝居をしている時間」でした。役に向き合っている瞬間は、将来への不安やこれまでのつらさを忘れて、その役だけに没頭できる。「この時間が一番楽で、楽しい」と思えたんです。

10代の頃はずっと「自分以外の誰かになりたい」と思っていました。でも、お芝居と向き合う中で、「私は私から逃げられない」と気づいて。だったら、この自分で夢中になれるものは何かと考えたときに、やっぱりお芝居だったんです。

役に向き合う時間は、一番自由でいられる時間でもある。そのことに気づいたのが、事務所に入って3、4年目くらいの頃でした。そこから、自分の中の考え方は大きく変わりました。

だからこそ、今回のような朗読劇という形にも強く惹かれるんだと思います。生で役者の皆さんとお芝居を重ねる時間は、自分の人生の一部でありながら、日常から少し離れて別の世界に没頭できる特別な時間でもあって。その中で役や物語に溶け込んでいく感覚が、すごく好きなんです。

――お芝居や作品と向き合う中で、原動力そのものが少しずつ変わっていったのですね。

山根:そうだと思います。昔は本当に自分のことしか見えていなかったんです。でも、作品にはそれを生み出す方々がいて、関わるスタッフやキャストの皆さんがいて、そしてその完成を楽しみに待ってくださっている方々がいる。その広がりを実感するようになってから、この仕事の意味が少しずつ変わっていきました。

もともとは、自分の中の絶望から始まった夢でした。でも今は、その夢が誰かの希望につながっているのかもしれないと思えるようになっていて。

自分の人生が、自分だけのものではなくなって、誰かのためにもあるんだと思えるようになったとき、初めてこの仕事を続けていく理由が見えた気がします。言い方としては少し変かもしれないですけど、“新しい依存先”がそこにあるのかもしれない。もちろん、すごくポジティブな意味で。今はそういう気持ちで向き合っています。

■「後悔しない道はない」それでも、自分が選んだ道を正解にしていく


――役から離れた日常の中で、山根さんが「自分らしくいられる」と感じるのはどんな瞬間ですか?

山根:シャワーを浴びているときですね。本当に自分しかいない、誰にも見られない時間なので。お風呂やシャワーの時間って、思考が整理しやすかったり、いいアイデアが浮かびやすかったりするらしいと知ってから、「この時間を大事にしよう」と思うようになりました。

ただの作業として過ごすこともできる時間なんですけど、私は好きな音楽をかけて、その日あったことを振り返ったり、インタビューやアンケートの答えを考えたりすることが多いです。あとは、嫌なことがあったときに「あれは嫌だったな」と思い返して、その場で発散することもあります。完全に一人の状態だからこそ、一番自分らしくいられる時間なのかもしれないですね。

――そうした時間まで考え事をしているのですね(笑)。

山根:そうなんですよ(笑)。どうしても考えてしまうんです。もうこれは性格というか、生まれ持った気質なんだろうなと思っていて、最近は半分受け入れるようにしています。

昔から「気にしすぎ」「考えすぎ」「深読みしすぎ」と言われてきました。でも、それも含めて自分なんだと思うようになって。無理に変えるのではなく、この“考える力”をどう使うかのほうが大事なんじゃないかなって。

以前、友人に「考えすぎて自分を苦しめている気がする」と相談したときに、「楽しく悩めてないんじゃない?」と言われたんです。その言葉がすごく印象に残っていて。少し俯瞰して、「こういうこともあるよね」と受け止めながら、軽い気持ちで考えてみる。そうすると、悩んでいる自分を否定しなくて済むんだよ、と教えてもらって。

それ以来、「悩まないようにする」のではなくて、「どう悩むか」を大事にするようになりました。悩むことも含めて、自分の人生なんだと受け入れながら、なるべく楽しんでいけたらいいなと思っています。

――素敵な考え方ですね。また、山根さんの価値観を形づくった出会いや、今も心に残っている言葉はありますか?

山根:特に印象に残っているのは、中学2、3年生のときの担任の先生です。当時の私は今以上に繊細で、いろいろなことを考え込んでしまう性格でした。家族との関係や自分の本当の気持ちなど、思春期ならではの悩みも多くて。でもその先生は、そうした気持ちを否定せず、優しく受け止めて、一緒に悩んでくれるような方だったんです。

中学校で最後にもらった成績表の「担任所見」に書いてくださった言葉が、今でもすごく心に残っています。

「負けず嫌いで、何事にも一生懸命に取り組み、自分の考えをきちんと主張できるところが素晴らしいところです。最近では個性豊かな仲間たちの様子をよく見て、集団としてうまくいくよう心を尽くすことができるようになりました。しかし、根拠のないマイナス思考で自分に自信を持てないときがあるのが玉に瑕です。あなたには素晴らしい素質がたくさんあります。それを磨いて、より一層成長していってください」

今でも、ふとしたときにネガティブな想像をしてしまったり、自分で勝手にストーリーを作って落ち込んでしまうことはあります。でもそんなとき、この言葉を思い出すんです。「あなたには素晴らしい素質がたくさんあります」と書いてくださった、その一文を。

不安になったときに読み返して、「大丈夫、私は大丈夫」と言い聞かせる。まだ完璧にできているわけではないですが、いつか自分のことをそのまま愛せるようになれたらいいな、というのが今の目標です。

――山根さんにとっての原点のような言葉なんですね。

山根:そうですね。いいことだけを言ってもらえるのも嬉しいんですけど、この言葉は、本当に私のことを見てくださっていたからこそ書けたものだと思うんです。いいところも、弱いところも、全部ひっくるめて受け止めてくれているというか。だからこそ、今でもずっと心に残っているんだと思います。

先生に出会えたことは、私の人生の中でもすごく大きな出来事で、「出会えてよかった」と心から思える存在です。

――今、「一歩踏み出すこと」に迷っている人に、どんな言葉を届けたいですか?

山根:私が伝えたいのは、「後悔しない道はない」ということです。どんな選択をしても、「あっちを選んでいたらどうなっていたんだろう」と思う瞬間はきっと訪れると思います。

私自身も、「あのとき違う道を選んでいたら」と考えることはあります。でも、それでも今ここにいるのは、自分で選んできた道だからなんですよね。

だから、迷ったときは「自分が選んだ道が正解なんだ」と信じてほしい。どの道を選んだとしても、その先の自分が、その選択に意味を与えてくれると思うんです。自分を信じて、一歩踏み出してほしいなと思います。

(取材・文・写真:吉野庫之介)

READING WORLD×VISIONARY READING 朗読劇『紫苑のもみじ』は、東京・日本青年館ホールにて、7月17日〜19日上演。

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