俳優・磯村勇斗が故郷の静岡で映画祭をプロデュース。2024年11月のプレイベントを経て5月23、24日に「第1回 しずおか映画祭」として本格始動する。「旅する映画祭」として静岡県内を巡ることをコンセプトとする同映画祭は、静岡県の中心地である静岡を皮切りに、県内各地に開催場所を移動しながら「映画の息吹」を紡いでいくこととなる。「第1回映画祭」のゲストも役所広司、戸田恵梨香、有村架純ら豪華映画人が多数参加を予定している。
「しずおか映画祭」への思いとはどのようなものなのか?自ら企画を立ち上げ、プロデューサーとして運営にも参加している磯村に話を聞いた。(取材・文・写真/壬生智裕)
――しずおか映画祭を立ち上げようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
磯村勇斗(以下、磯村):大きな動機は「地元への恩返し」です。僕は沼津出身なのですが、役者として活動を続ける中で、故郷に対して自分ができることは何だろうとずっと模索していました。本格的に意識し始めたのは2年前、2024年のプレ開催に向けて動き出した頃です。実はその前に、沼津市の100周年記念事業として舞台公演を行ったんですが、その際に、自分が役者として地元のためにできることがあるなという手応えを感じて。そこで「次は映画祭ですね」と公の場で宣言しました。やはり一度口に出したからには、「有言実行」をしないと自分でも気持ち悪いということもあって、本格的に動き出しました。
――俳優である磯村さんがなぜプロデューサーをしようと思ったのでしょうか?
磯村:この映画祭は、僕が誰かに言われてやっていると思っている方も多いと思うのですが、そうではなくて、これは自分自身が発起人となって仲間を集めてやっているんです。何が起きても、全部の責任は自分にある。だから自分がしっかり前に立ってやらなきゃというのはあります。ただ本来は裏方で頑張りたいんですけど、こういった取材など、自分が表に出ていくことも、このしずおか映画祭のメリットのひとつだと思っているので、そこは頑張りたいなとすごく思っています。
最近では、現場で共演する役者さんやスタッフさんの中に静岡出身の方がいないか、つい探してしまいます(笑)。現場で「三島出身です」「富士出身です」という声を聞くと、すぐに「実は静岡で映画祭をやっていまして……」と声をかけるようになりました。プロデューサーとして人脈作りも大事にしています。
――昨年の映画興収は歴代最高を記録するなど、盛況だと言われていますが、一方で地方都市の小さな映画館は苦境に立たされています。静岡の映画館事情について、磯村さん自身はどう感じられていますか?
磯村:本当に寂しい状況だと思います。僕の地元・沼津でも、最後まで街に残っていた映画館がついに閉館してしまって。僕もそこのイベントに立ち会ったりもしたのですが。もともと映画黄金時代には沼津だけでも7館ほどあったのに、今ではたった1館です。そして今回開催する静岡市の方にも昔の写真を見せていただいたのですが、かつては数十館もの映画館が並んでいたそうです。今では信じられないですが、海外の著名な役者さんが来日した時に静岡に来てくれたりもしていたし、建物の2階分もあるような巨大な『スーパーマン』の看板が掲げられていた時代もあったそうです。まるで街全体がテーマパークのような賑わいだったと聞きました。
ただ、映画館という“箱”が減っても、映画を愛する人の“想い”は消えていません。沼津だとフィルムコミッションの方々がすごく頑張っていて。空き家を使って上映会をしていますし、ほかにも有志の方たちで行っている「はままつ映画祭」などもあって。僕も観に行ったりもしているんですが、どんなに小さな映画祭であっても、映画に対する愛情はものすごく大きいんですよ。ですからこの「しずおか映画祭」を通じて、そんな熱い想いを持っている人たちと連動して、静岡の映画文化を大きなうねりにしていきたいんです。
――磯村さん自身も映画館に対する思いは強いのでは?
磯村:僕自身が映画とともに育ってきた、という感覚が今でもあって。子供の頃、父親と一緒に映画館に行った時の時間も忘れられないんですが、そんな中でも街の映画館は減ってきている。だったら大きなスクリーンで、何百人、何千人の人たちと一緒にひとつのスクリーンを見つめ、時間を共有する場所があったらきっと楽しいよね、というのが「しずおか映画祭」の出発点です。
――2024年11月にプレ開催された「第0回映画祭」では、沼津出身の故原田眞人監督をはじめ、沖田修一監督、のんさん、佐津川愛美さん、北村匠海さんら大勢の映画人が参加し、大盛況となりました。ここで手応えを感じたのでは?
磯村:プレ開催では、地元の方々から「映画祭をやってくれてありがとう」という温かい言葉をたくさんいただきました。普段会えないゲストを目の前にして喜んでいるお客さまの姿を見て、やってよかったと心から思いました。ただ、反省点も多く見つかりました。例えば、1日に4本連続で上映したのですが、通し券だったので見ているお客様の集中力が夜には切れてしまったり、併設したマルシェを楽しみたいけれど、映画の合間の休憩時間が短すぎて食事ができなかったり……。僕が客席で4本見ていても「これは疲れるな」と感じましたし。
今回の本開催では、そうした声を反映して2日間に分散させたり、休憩時間をたっぷりと取ったりと、「僕たちファースト」ではなく、「お客様ファースト」ということは大事にしていこうと思っています。地元の皆さんの声を大切にしながら、この映画祭を大きくして、一緒に歩んでいきたいと思っています。
――映画祭のプログラムについては旧作中心だと思ったのですが、どのようなこだわりがありますか?
磯村:これは非常に難しくて。特に1日目は1500人規模の劇場ホールで上映するので、そこに届く作品は何か、そこに登壇するゲストをどうしたらいいかは考えました。静岡市はフランスのカンヌ市と姉妹都市なので、カンヌにゆかりのある作品を上映しようかとか、静岡にゆかりの作品を上映しようか、といったことは相談していました。どちらにせよ、静岡に何かしらの関わりがある作品はこの映画祭では絶対上映しようというのは決めています。
まずは「映画館で映画を見る体験って、こんなに楽しいんだ」という原点を感じてほしいですね。そのためにも映画の上映に加えて、監督や俳優などのゲストを招いたトークショーを重視しています。映画を見た後に「実はあのシーンの裏側はこうなっていた」という制作秘話を聞くことで、「もう一回見てみたい」とか「映画って面白いな」という興味が深まっていく。そういったところから映画文化が広がっていったらいいなと思っていて、それがゆくゆくは新しい才能を受け入れる土壌を作ることになると信じています。
――今年のゲストも役所広司さん、戸田恵梨香さん、有村架純さんらをはじめ、非常に豪華ですが、やはり磯村さんに対する信頼感もあるのではないかと思うのですが、
磯村:僕も怖いですよ(笑)。「本当に来てくださるんですか」というぐらいの気持ちですから。もちろん来ていただきたくてお声がけはしているんですけど「いや、無理だろうな」とどこかでは思うわけです、お忙しいだろうし。でも皆さん本当に快く「行きますよ」とおっしゃってくださって。こういった取り組みに関して、応援してくださる方が多いなと思いました。
――それは磯村さんのこれまでの仕事に対する信頼感もあるんでしょうね。ところで子供たち向けのワークショップも行われるそうですが。
磯村:このしずおか映画祭では、子どもたちの未来に対してもアプローチしていきたいなと思っているんです。「キネマ組」は、子供たちが実際に映画作りを体験するプログラムです。この小中学生のうちから映画というもの触れていただくことによって、彼らの成長とともに静岡の映画文化も一緒に成長していくんじゃないかなと思っているんです。
ひとつの脚本を使って、静岡の3つの地域(東部・中部・西部)の子供たちが別々に集まって。それぞれの地域ごとに俳優部・演出部・照明部といった各部署に分かれて撮影を行います。同じ脚本を使った映画でも、場所やメンバーが違えば全く違う作品が生まれるはずです。そして完成した作品を、自分たちで映画館の大きなスクリーンで鑑賞する。それは自分たちがこんな風にできあがるんだという達成感にもつながるでしょうし、いい映画体験になるんじゃないかなと。僕自身、子供の頃に映画を見ることはできましたが、つくる環境はなかったので。そのつくりたかったという思いを、子どもたちに託しています。10年、20年経ったときに「磯村さん、キネマ組でお世話になりました」という子が静岡から生まれてくれたら、これほど嬉しいことはありません。
――最近は賀来賢人さんも映画をプロデュースしたりと、同世代の俳優さんたちが積極的にフィールドを広げようとしているように感じます。おそらく小栗旬さんや山田孝之さん、斎藤工さんといった先輩の存在も大きいのではないかと思うのですが、彼らの姿はどのように映っているんですか?
磯村:先輩方の動きは、僕ら後輩にとって非常に大きくて。あれだけキャリアがあって第一線で戦っている人たちが、あえて役者じゃないところで道を切り開こうというのは、後輩たちに向けたムーブだと思うし。現状に対するある種のアンチテーゼ的なものでもあるんだろうなと思っています。先輩たちが動くことで、新しいコンテンツが生まれたり、現状を見つめ直すきっかけにもなる。だからこそ僕らも動きやすいし、心強いですよね。もちろん役者ひとすじというスタイルも全然ありだし、カッコいいとは思うんですが、そうも言ってられない時代になってきたなと思います。単に口で「こういうことをやりたい」と言っても、誰も動いてくれないです。だから先輩たちは自分たちで動いているんだろうなと思います。本当に責任感が強い方々だと思います。
――今後の目標について教えてください。
磯村:まずは、この映画祭を10年続けることが目標。10年経てば、僕も43歳。自分自身も、そしてこの映画祭も、静岡の街と一緒に成長していきたい。具体的な目標として考えているのは「国際化」です。カンヌ市との姉妹都市関係を活かして、フランスをはじめ海外からもゲストや作品が集まるような場所にしたい。そして、「静岡空港からフランス直行便を出してよ!」と言えるぐらいの規模にしたい(笑)。夢は大きい方がいいですからね。
そしてもう一つ、僕がどうしても実現したいのが「静岡県内の映画館での、子供たちの映画鑑賞の無償化」です。子供たちがいつでも、思い立ったときに映画館にポンと足を運べるような環境を作りたい。これは行政との連携も必要になるようなことですが、自分自身のお尻を叩く意味でも、まずはこうして口に出し続けることが大事だと思っています。自分の地元の映画館はなくなってしまいましたが、なんとかうまいことみんなで協力し合えばまた映画館が復活させられるんじゃないかと思っているんです。静岡を映画溢れる街にできるよう、これからも頑張ってやっていきたいと思います。
「第1回 しずおか映画祭」は5月23日、24日に静岡市清水文化会館マリナートほか静岡市各所で開催予定。
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