第79回カンヌ国際映画祭の開催2日目、コンペティション部門の幕開け作品として深田晃司監督の「ナギダイアリー」が披露された。深田監督と共に松たか子、石橋静河が現地を訪れ、公式上映は温かい拍手に包まれた。
架空の町ナギを舞台に、そこでひとり彫刻を作り続けるセクシュアルマイノリティの寄子(松)と、休暇で訪れる寄子の弟の元妻、友梨(石橋)、さらに寄子の幼馴染みの町役場に勤める好浩(松山ケンイチ)、その息子と親友の人間模様が交差する。のどかな自然に囲まれた日常のなかで、人々の言葉にならない思いや、迷い、葛藤が繊細に掬いとられていく。
今回初めてコンペティションに参加を果たした深田監督は上映後、感想を求められると、「これまでと会場が違って、奥行きが広がった気がしました。こんな素晴らしい会場で世界初の上映をみなさんと共有できるというのはとてもありがたいと思いました。また映画は世界を知る窓だとよく言われますが、日本のローカルな生活をこうして海外の方に観てもらうことにとても意義を感じています」と、フレッシュな感想を口にした。松と石橋もそれぞれ、「自分が映っている作品で海外の映画祭に参加するのは初めてでしたが、これまでお客様と一緒に観るということがなかったので、まるで罰ゲームというか、地獄みたいな体験だなと思いました(笑)。でもみんなでこの映画祭を盛り上げるんだというような街全体の一体感があり、華やかなエネルギーを感じて楽しい時間でした」(松)、「着いたばかりで夢のようにいろいろなことが目の前で展開していて、ただ圧倒されている感じが今の状態です。映画祭というものに歴史や誇りを感じますし、カンヌに来ることは以前から憧れていましたが、たとえ憧れて願ったとしても来られるものではないので、今回深田監督に連れてきて頂き本当に感謝しています」(石橋)と感激を表した。
また翌日には記者会見が開かれ、本作の制作のプロセス、セクシュアルマイノリティの主題、役作りなどについて、熱のこもった質疑応答がなされた。深田監督は、「今回の物語は、2017年にわたしとプロデューサーがリサーチのため(岡山県の)奈義町を訪れたときはほぼ白紙の状態でした。わたし自身、東京出身なので、地方での生き方を学ぶために多くの取材を重ねて素晴らしい出会いがあった一方で、出会うことのできなかった方々がセクシュアルマイノリティの方でした。統計的にはいないわけはないと思いますが、話題にあがることがない、都会よりも地方のほうでカミングアウトしないような状況がある。つまり透明化されてしまっている人々なわけですが、それを可視化していくのが表現の力だと思っています。さらに今回目指したのは、それを劇的な悲劇のように描くのではなく、当たり前に生きる人の当たり前の性的特性のひとつとして描くことでした」と説明した。
松は役作りについて、「この役を演じるにあたって、彫刻家の吉田愛美さんのアトリエを訪れ、撮影も立ち会って頂き、彼女の存在に助けられました。彫刻は実際に見て触れて、引き摺り出して、でも壊すこともできる。孤独な作業ですが吉田さんを見ていると孤独を謳歌しているようなところがあって、寄子も孤独かもしれないけれど孤立はしていない、脆いような強い女性なのかなと思いながら演じていました」と解説。一方石橋は、「私の役は建築家ですが、この映画のなかでは寄子のモデルとして居るシーンが多く、じっと座って動かない。ある種モノ化してそこに固まったまま会話をするというのがチャレンジでした。でもわたしは松さんのことが大好きなので、お芝居をしているときはとても豊かで、自然な時間を過ごすことができました」と明かした。
果たして、この後続く21本のコンペティション作品のなかで、この繊細な物語がどこまで審査員の心に残り続けるか、期待して待ちたい。(佐藤久理子)
「ナギダイアリー」は9月25日から新宿ピカデリー、ユーロスペースほか全国公開。
【作品情報】
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ナギダイアリー
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