ホラー映画において“ファイナル・ガール”というお決まりがある。それは、女性が脅威から必死に逃げ、一矢報いながら最後まで生き延びる存在として描かれること。しかし、近年ではその描かれ方はより屈強でアグレッシブになり、“狩られる側”から”狩る側”へという逆転も見られてきた。
【写真を見る】女性の活躍を描くジャンル映画の変遷を振り返る!(『ゼイ・ウィル・キル・ユー』)
そんな潮流を象徴する1作が、悪魔崇拝者が巣食う高級マンションに生け贄として送り込まれたメイドによる痛烈な反撃を、出血大サービスのバイオレンス満載で描く『ゼイ・ウィル・キル・ユー』(公開中)だ。“狩られるはずの女性が実は強かった”という逆転の快楽は、2010年代以降にグッと増え、近年のジャンル映画において1つの傾向として定着しつつある。本コラムではその系譜を辿っていきたい。
■数々の名ヒロインも!スラッシャーホラーにおける“ファイナル・ガール”
こうした流れを辿るにあたり、一旦立ち返りたいのが、導入でも触れたホラー映画における定番的な女性像を示す“ファイナル・ガール”という概念だ。
『エイリアン』(79)のリプリー(シガニー・ウィーバー)や『ハロウィン』(78)のローリー(ジェイミー・リー・カーティス)といった、人気作において時代を超えて愛されるアイコニックなヒロインが次々と誕生してきた。
“ファイナル・ガール”という概念は、『悪魔のいけにえ』(74)や『13日の金曜日』(80)、『エルム街の悪夢』(84)など、人気作が続々と生まれた1970〜1980年代のスラッシャーホラーのジャンルで定番化。キャラクターの多くは純粋で貞淑、聡明で中性的といった特徴を持ち、勇敢な女性像を打ち立てると同時に、女性は貞操観念が高く賢くなければ罰せられてしまうと受け取られかねない側面もあり、批判も向けられてきた。
■ジャンルに逆転の快楽をもたらした映画『サプライズ』の存在
一方、『ゼイ・ウィル・キル・ユー』の主人公のような“被害からの反撃”という構図自体は、70年代ころから数が増えていったレイプリベンジ(加害者に対して残酷な復讐を行う)映画にも見て取れる。『アイ・スピット・オン・ユア・グレイヴ』(10)のリメイク元として知られる『発情アニマル』(78)から、最近の『REVENGE リベンジ』(17)まで壮絶な復讐劇が描かれてきた。
また同時期には、女性の野性を描いた『メイク・アップ』(77)など、女性が能動的に暴力を選択していく例も見られたが、広く見られるようになるのはもう少しあとと言える。「キル・ビル」2部作や『デス・プルーフ in グラインドハウス』(07)など、2000年代ごろからジャンル的快楽としてアグレッシブな女性像を描いた作品がより陽の目を見るようになった印象がある。
さらに進むと、女性が反撃に転じるという逆転構造自体がジャンル映画における1つの妙味となっていく。その転機的な1作が『サプライズ』(11)だろう。本作は、両親の結婚35周年を記念する家族パーティーに、動物の仮面を被った武装集団が襲いかかるホームインベージョンスリラー。
一家の次男の彼女で文学を専攻する女性エリン(シャーニ・ヴィンソン)が、実は父親からサバイバル術を仕込まれており、身近なものを武器や罠にして、迫りくる敵を次から次へと倒していく…。映画のテイストやターゲットが鮮やかに反転するサプライズは、観る者の度肝を抜き、世界各国の映画祭で絶賛を受けた。
■ジャンルを横断する広がりを見せてきた近年の映画たち
そのあとも、男子高校生たちの悪趣味な遊びのターゲットとなった女性が、実は彼らを懲らしめる殺し屋だったという『ファイナルガール』(14)といった作品が作られた。その一方、近年では性的描写がエンタメとして消費されることへの批判や意識の高まりもあり、反撃の対象が個人の男性から、伝統や権力といったより大きなものへと移っていく傾向も見られる。そうした変化は社会風刺的な側面を帯びながら、ジャンルを横断し広がっている。
例えば『レディ・オア・ノット』(19)。格式あるル・ドマス家に嫁いだ花嫁のグレース(サマラ・ウィーヴィング)が、家族が増えたらゲームを行うという一家の伝統に従い、“かくれんぼ”の隠れる側となるが、それは単なる遊びではなく一族に伝わる恐ろしい儀式で…という内容だ。
一族全員から命をねらわれ、初めは戸惑っていたものの、ついにブチギレて一家を返り討ちにしていくグレースの覚醒をゴア描写満載で描く本作。そこに呪いを信じる一族のオカルト的雰囲気や、結婚だけが幸せではないという生き方に対するメッセージなど、多彩な魅力が詰まっている。
また、セレブによる人間狩りの獲物となったターゲットの女性が軍人時代のスキルを駆使して返り討ちにしていく『ザ・ハント』(20)は、ホラーやアクション的なおもしろさと同時に、リベラルと保守の分断に対する批判のまなざしも込められていた。
■最新型となる『ゼイ・ウィル・キル・ユー』が描くものは?
そうした流れを汲んだ最新作が、キリル・ソコロフ監督による『ゼイ・ウィル・キル・ユー』だ。ニューヨークの一等地に建つ超高級マンション、バージルにメイドとして雇われた主人公のエイジア(ザジ・ビーツ)。しかし、バージルは悪魔を崇拝するセレブの巣窟で、生け贄として命をねらわれるエイジアは刑務所仕込みの戦闘スキルでマンションからの脱出を試みる。
抜群の戦闘力を誇るエイジアがもたらす血まみれのアクションをメインに、そこに『ローズマリーの赤ちゃん』(68)に着想を得たという悪魔崇拝や『キル・ビル』(03)を思わせる章立ての構成、『死亡遊戯』(78)、『ザ・レイド』(11)などを彷彿とさせる各階を攻略していくスタイルなど、様々なエッセンスがない混ぜになっている。
主人公の反撃がすでに予告でもフィーチャーされているように、逆転劇自体はもはや本作のサプライズでないが、そのあと次々と訪れる思いもよらぬ展開が驚きを与えてくれる。
『ゼイ・ウィル・キル・ユー』を、ぜひ劇場でチェックしてみてほしい。
文/武藤龍太郎
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