レイフ・ファインズ主演、音楽の力をウィットに満ちた悲喜劇として描く「ザ・コラール」ニコラス・ハイトナー監督インタビュー

ニコラス・ハイトナー監督

レイフ・ファインズ主演、音楽の力をウィットに満ちた悲喜劇として描く「ザ・コラール」ニコラス・ハイトナー監督インタビュー

5月10日(日) 14:00

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「教皇選挙」のレイフ・ファインズ主演で、戦争により存続危機にある合唱団が前代未聞の試みによって新たな希望を見いだしていくさまを描いたヒューマンドラマ「ザ・コラール希望を紡ぐ歌」(5月15日公開)。ニコラス・ハイトナー監督のインタビューを映画.comが入手した。

<あらすじ>
第1次世界大戦下のイギリス北部ヨークシャー。徴兵で多くの団員を失い、存続の危機にあった合唱団が、若者や町の人々を迎え入れ、再び歩み出そうとしていた。そんな合唱団の指揮者に、敵国ドイツで活動していた医師ヘンリー・ガスリーが選ばれる。偏見と不信を背負いながら、彼は退役軍人、売春婦、敬虔なボランティア、徴兵を控えた少年たちなどの寄せ集めの団員たちと向き合い、失われたつながりや希望を取り戻していく。やがて彼らは、前代未聞の挑戦に乗り出す。しかし再び徴兵通知が届き始め、ようやく芽生えた平穏は、戦争の影にのみ込まれていく――。

本作は、英国を代表する劇作家アラン・ベネットが40年ぶりに書き下ろしたオリジナル脚本であり、ハイトナー監督との名コンビが再び生み出した、英国映画ならではの温度と奥行きを持つ作品だ。「英国万歳!」「ヒストリーボーイズ」「レディ・イン・ザ・ヴァン」など、英国社会の複雑さとユーモアを描き続けてきた二人が、本作でも“芸術が人を支える瞬間”を静かに、しかし確かな手触りで描き出している。

まずは「私は舞台芸術やクラシック音楽の世界で人生の大半を過ごしてきました。パフォーマンスを通して人が人生に意味を見出すという考えに強く共感しており、そんな中でアラン・ベネットから、音楽の変革力と人生への洞察を描いた脚本が届いたのです。ちょうどコロナ禍の真っ只中で、人と人が分断され、芸術の存在意義が改めて問われていた時期でもありました」と本作制作の経緯を語る。

そして、「第1次世界大戦の最初の1年半、イギリス軍は志願制で、若者たちは入隊するよう強い道徳的圧力を受けていました。しかし1916年初頭、18歳以上の健常な男性は議会法によって徴兵されることになり、ソンムの戦いの頃には損失は耐え難い規模となって、国全体がその影響を痛感し始めていました。そんな厳しい時代を背景にしながらも、人々が音楽を通じてつながり、希望を見出していく姿を描くこと。それが本作で私が最も大切にしたテーマです。この作品には“悪役”がいません。18歳の少女にも、65歳の工場主にも、同じように共感が注がれている。感傷に流れず、温かさとウィットに満ちた悲喜劇なのです」とテーマを説明する。

ヘンリー・ガスリー博士役にレイフ・ファインズを起用した理由については「彼がこのキャラクターの複雑な内面を表現できる稀有な俳優だからです。彼とは何度も共に仕事をしてきましたが、改めて思うのは、繊細で抑制の効いた演技からコミカルで大きな芝居まで自在に振れ幅を持ち、カメラの前では最小限の動きで“何を見せるべきか、何を見せないべきか”を的確に判断できること。一方で舞台に立てば後方の席にまでしっかり届く表現ができる。現場では余計なことを言わず淡々と仕事をこなしながら、若い俳優たちには驚くほどやさしく接し、誰に対しても温かく迎え入れる。その姿勢が現場の空気を自然と柔らかくしていました。戦争の影を背負いながらも音楽に希望を見出すガスリー博士という人物に、彼ほどふさわしい俳優はいませんでした」と明かす。

さらに、本作は決して現代の紛争を念頭に置いて作ったわけではないと前置きする。「しかし、戦争から遠く離れた場所に暮らしていても、その歪みや憎しみ、悲しみの影響を受けずにはいられないという現実は、今の世界とも深く響き合っています。ガスリーがドイツの文化や音楽を愛しながらも、“敵国だから”という理由で文化や人を否定する風潮に葛藤する姿は、戦時下の複雑な心情を象徴しています。音楽を歌うことは単なる逃避ではなく、人間の尊厳や希望に触れる“本質的な力”に向き合う行為です。戦争という現実の恐怖に直面しながら、なお人間としてどう生きるのか――その問いに向き合う人々の姿を描きたいと思いました」と作品に込めた思いを語る。

作中で用いられている音楽については、「宗教歌ではありますが、映画が語ろうとしているテーマとは少し距離があります。歌詞そのものよりも、音楽という存在が人間にもたらす力に焦点を当てています。人間社会は、ときに将来ある若者を戦地へと容赦なく送り出してしまうという残酷さと矛盾を抱えていますが、そんな状況にあっても芸術や音楽は人に癒しを与え、心を支えることができる。その二面性を感じ取ってほしいのです」と説明する。

アラン・ベネットの脚本が優れているのは、性や欲望といった人間の根源的な領域にも率直に向き合っている点だといい「本作には胸が締めつけられるような切なく悲観的なシーンがいくつもあります。恋愛においても性的な面においても、誰ひとり満たされない。誰かと一緒にいても結局は離れ離れになってしまう――そんな断絶が1916年という時代には確かに存在していました。社会的にも文化的にも多くの障害があり、人々は思うように生きられなかった。その不自由さや閉塞感を、ベネットは非常にリアルに物語へと落とし込んでいます」と人間らしさを重視した脚本であることを強調する。

そして最後に「日本はイギリスと同じく、いま直接的に戦争に関わっているわけではありません。しかし、自分の意図とは無関係に紛争の渦に巻き込まれてしまう現実が確かに存在します。そんな不安定な時代にあっても、音楽や踊り、芸術を通して“人間としての可能性”を見出すことができる。その力を信じています。そして、その可能性を伝えていくことこそ、自分にできる最善の役割なのだと感じています。芸術が人を支え、希望を灯す瞬間を、この作品を通して観客の皆さんに届けられたらと思っています」と日本の観客に向け、メッセージを寄せた。

「ザ・コラール希望を紡ぐ歌」は、5月15日からTOHOシネマズ シャンテほか全国公開。

【作品情報】
ザ・コラール希望を紡ぐ歌

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