5月7日(木) 17:00
前回に続き東松山ツアーの続編。一泊の大人の遠足の翌日、皆で吉見百穴へ行くことになった。近くには美味しいとうわさの武蔵野うどんのお店もあるという。300円の入場料を払い吉見百穴のある敷地内へ入園すると売店兼茶店のような店がふたつある。そのうちより古い味わいのお店にはパラソルで覆われた簡易的なテーブル席があり、吸い寄せられるようにそこに座った。
東松山1日目の夜、 大松屋 に続いて、やきとりハシゴ取材の2軒目は、ご夫婦で営まれる「栄楽」という店。ここもまた、やきとり、辛みそともに絶品の名店だった。その日は使われていなかった座敷席で気ままに過ごし、たまにちらりとカウンター席にいる我々に顔を見せてくれる看板フレンチブルドッグにも癒される。
ここまでで当然腹いっぱいだが、せっかくだからもう少し店をめぐりたい。けれども、東松山の夜は早かった。たいていの店は夜9時くらいに閉店してしまう。途中で1時間の休憩を挟んだのが、ここにきて痛い。
救いは駅前の「ひびき庵別館 東松山駅前3号店」で、店名からわかるとおり、東松山を中心に複数店舗を経営するチェーン店。ゆえに営業時間も長めで、その日は夜11時までの営業だったので、締めやきとり&一杯を楽しむことができた。辛みそが添えられた東松山スタイルでありながら、それまでの個人店と比べると個性はちょっと薄めで、よく言えば親しみのある味わい。が、それ以外のメニューも幅広く、かなり使い勝手の良い店だった。
その後はコンビニで酒を買い、ライターの安田理央さんの部屋にみんなで集まって眠くなるまで飲む。まさに大人の修学旅行。そこでだらだらと名残惜しく飲んでいると、安田さんが言った。
「明日、吉見百穴行かない?」
吉見百穴(よしみひゃくあな)は、古墳時代の末期に造られた横穴墓群で、東松山駅からは徒歩30分ほど。観光地化されているからバスも出ていて、やきとりツアーのついでに寄るのにはちょうどいい。また、安田さんの趣味のひとつに武蔵野うどんめぐりがあり、吉見百穴の近くにうまいと噂のうどん屋があるらしい。それまた魅力的。満場一致で、翌朝はまず吉見百穴を目指すことになった。
11時に宿のロビーにメンバーが集まり、さっそく吉見百穴を目指す。天気は快晴で、バス停を降りると市野川の大らかな流れの土手沿いに、菜の花と桜が咲き乱れている。遠目にこんもりとした岩山が見え、その山肌に無数の小さな穴が開いていて、そこだけかなり異様な雰囲気。あれが吉見百穴に違いない。最高の気候と相まって、なんだか妙に現実味が希薄な光景だ。
300円の入場料を払い吉見百穴のある敷地内へ入園。すると嬉しいことに、園内には売店兼茶店のような店がふたつ。そのうち、より古い味わいの「たかはし売店」には、店先にパラソルで覆われた簡易的なテーブル席があり、吸い寄せられるようにそこに座ってしまう。店内には広い座敷席もあって、そこで先客のグループがすでに飲んでいる。そうなってくると我々も、というのは自然な流れだ。5人で「瓶ビール」(税込650円)を2本とり、グラスに注ぎあって乾杯。
つまみは「みそおでん」に、表面に七味唐辛子がたっぷりとまぶされた巨大な長方形の「川幅せんべい」。これは埼玉県の鴻巣市(こうのすし)と比企郡吉見町(ひきぐんよしみまち)のあいだを流れる荒川の川幅が2537mと、日本一であることから企画された名物らしい。さらに店員さんがご好意で、試食用の「たまねぎスナック」や自家製のらっきょうを出してくれ、こうなるともう止まらない。瓶ビールをおかわりし、さらに冷蔵ケースから比企郡小川町の地酒「帝松」のカップ(450円)を取り出してきては飲む。店の名物が手打ちのうどんとそばらしく、そばの「もり」(700円)も追加。これも食事というより、みんなでつまみにする。
目の前にはミニチュア版のカッパドキアとでも言うような、風変わりな穴ぼこ山。それを見ながら「これからは花見より穴見ですね!」などと言いつつ、大いに飲む。ひたすらに愉快だ。もはやこういう時間のために生きていると言っても過言ではない。山の頂上へは階段で登れるようで、きっと眺めがいいのだろうが、もうそんな気も起こらない。今日僕らはここへ、穴見酒をしにやって来たのだ。
実は吉見百穴にはもうひとつの歴史的側面がある。第2次世界大戦末期に地下軍需工場に転用され、その過酷な作業に数千人の朝鮮人労働者が動員されたという事実だ。前回紹介した「大松屋」の初代店主も韓国人で、故郷の朝鮮料理をもとに東松山やきとりの辛みそを作った。当時の流れからこの地に住み続けた朝鮮半島の人々が、その味に故郷を思い出し、癒されていたに違いないこともまた、現在まで途切れない東松山やきとりの人気の理由だろう。
帰路、園内を出てすぐの場所にあった本来の目的地「岩窟売店」にも寄り、うどんが最大の楽しみだった安田さんと、若い編集さん、小玉さんは武蔵野うどんを堪能していた。しかし僕とラズウェル細木先生は、胃袋にもうそんな余裕はなく、その横で、3個200円という破格の「野菜の天ぷら」をかじりながら、またしてもビールをちびちびと飲むのだった。
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次回第48回は2026年5月21日(木)17時公開予定です。
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