75歳で監督デビュー、高齢者の苦境描くシニア・ノワール「枯れ木に銃弾」司慎一郎監督に若い世代からの質問相次ぐ【第27回全州国際映画祭】

司慎一郎と田所ちさ

75歳で監督デビュー、高齢者の苦境描くシニア・ノワール「枯れ木に銃弾」司慎一郎監督に若い世代からの質問相次ぐ【第27回全州国際映画祭】

5月3日(日) 16:00

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韓国・全州(チョンジュ)で開催中の第27回全州国際映画祭Possible Cinemas部門に出品された司慎一郎監督作「枯れ木に銃弾」が5月2日上映され、司監督と女優の田所ちさが観客とのQ&Aに応じた。

75歳で本作がデビュー作となる司監督は、「これまでずっと(他の)仕事をしてきましたが、75歳になり、あと何年生きられるか分からないと考えたとき、高校生の頃からの夢だった映画監督になろうと決意しました」と、自身の経歴を説明。司会者から「司さんは今年のこの映画祭参加者では最年長ですが、もっともキャリアの若い監督です」と、紹介され客席から拍手を浴びた。

本作「枯れ木に銃弾」は、現代日本に生きる高齢者たちの視点で描いたノワール映画。東京の下町に暮らす74歳の山西喜一郎と62歳の妻・あかねは、静かに貧しい老後を過ごしていた。治療費で貯金を失い、社会から冷遇され困窮する生活のなかで、「価値のない人間」とまで言われて絶望したふたりは“最後の反抗”を決意。亡き父から受け継いだ猟銃を手に富裕層の家を襲撃する……という物語だ。

「現在、日本の人口の約3分の1が60歳以上のシニア世代です。韓国も同様に少子高齢化が進んでいるかと思いますが、そこで生きる人々の喜びや怒りの実態を、リアリズムの世界で描きたいと考えました。私はこのシニア世代の苦しみを『シニア・ノワール』と名付け、死ぬまで毎年1本、このジャンルを撮り続けたいと思っています」と作品のテーマと今後の意欲を語る。

Q&Aでは、韓国の若い世代の観客から多くの質問が寄せられた。劇中の老夫婦は、生活苦から強盗を企てるが、さらに人生が転落。これはどの人間にも起こりうる“不条理”を集約した姿だと司監督が解説すると、「主人公が自分を窮地に陥れた相手(上司)ではなく、無実の人に銃を向けてしまった理由は何でしょうか。また、不条理の中で善人が悪人になってしまうという関係性をどう理解すればよいでしょうか?」という哲学的な問いかけも。

司監督は「主人公の喜一郎は気が弱く正直な人間ですが、その弱さゆえに、その場の弾みで無実の人を発砲してしまう。これもまた一つの人生の真実」と設定を説明し、「この作品には日本が古来より持つ無常観を込めています。『諸行無常』という言葉があるように、桜の花は毎年咲いても、その下を行き交う人々は変わっていく。人間が抱える『永遠と有限の戦い』のような、言葉にできない無常の響きを表現したいと考えました」と回答した。

「サムライ映画や西部劇の雰囲気を感じた」と感想を述べた観客に対しては、「私は高校時代からの映画オタクで、今でも毎週2本は映画を観ています。私にとって映画の醍醐味は決闘シーンで、特に西部劇が大好きです。そのため、今作でもエンターテインメントとしてのスピード感を重視し、銃撃戦を取り入れました」と明かした。

妻、あかねを演じた田所は、「(特産の酒)モジュをいただき、食べ物がどれも美味しく、映画で盛り上がってくれるこの街は最高です」と、全州の滞在を楽しみ、役作りや撮影の裏話を披露。自転車での夫婦二人乗りでの逃走シーンについては「台本では喜一郎さんが運転するはずでしたが、本番直前に彼が『実は乗れない』と告白したため、急遽私が運転しました。結果的にその方が良いシーンになったと言っていただけました」と振り返った。

司監督の新作企画はすでに進行しているそうで、「10月に着手する次作は、許せない人間を次々と殺していく復讐劇になる予定」と明かし、「社会的な弱者に光を当て、50年後、100年後の人々に『こういう時代があったのだ』と歴史の真実を伝えるために、これからも作品を作り続けます」と力強く宣言した。

【作品情報】
枯れ木に銃弾

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