東宝、松竹、KADOKAWA(旧大映)、東映、日活という日本映画の黄金期を築いた5社による共同企画「名作発掘!昭和100年、いま観たい映画」の連動企画として “今観ておきたい10本“が新文芸坐(東京・池袋)にて上映される。初日の5月1日には「男はつらいよ 柴又慕情」が上映され、山田洋次監督が上映後の舞台挨拶に登壇。山田組の元助監督である阿部勉と共に当時の思い出などを語り合った。
映画を観終えたばかりの観客の温かい拍手に迎えられた山田監督は「こんなにいっぱいの観客が来てくださり、入りきれない人もいたと聞きました。みなさん、来てくださってありがとうございます」と感謝を口にする。
「男はつらいよ 柴又慕情」は1972年に公開されたシリーズ第9作であり、マドンナ役を吉永小百合が務めている。2020年代に至るまで数多くの山田作品に出演してきた吉永だが、本作はその記念すべき1作目。吉永との初めての仕事の思い出を尋ねられた山田監督は、「男はつらいよ」シリーズを「寅さんという愚かしい男が、美女に恋して失恋する話」と語り「寅さんが失恋をする相手は、日本一の美女がいいと思っていたんです」と振り返る。「なんでだろうね? プログラムピクチャーとして作られて、大した予算もないし、大きな期待を掛けられたわけでもないのに、なぜあの時、僕は『日本一の美女がいい』なんて思ったのか…。寅さんという愚かな男が身の程をわきまえず、最高のもの、美しいものに触れちゃう――そういうことなのかな?」と当時の自らの思考を推察する。
その上で「じゃあ日本一の美女は誰か?吉永小百合さんは『キューポラのある街』でデビューして、当時はすごい人気だったけど、日活の女優さんでした」と語り、山田監督の望む“日本一の美女”をキャスティングすることが叶わなかったと明かす。「その後、いろんな素敵な女優さんがマドンナになったけど、(9作目の)『柴又慕情』でついに吉永小百合さんをマドンナにするのに成功しました。『今日は衣装合わせだ』ということで、大船撮影所に吉永さんが来るという時、なんとなく撮影所全体で興奮していたのを覚えています」と懐かしそうに当時を振り返った。
阿部は「柴又慕情」の撮影時はまだ学生で、山田組に参加するのは「男はつらいよ」シリーズ後期からとなったが、本作を観て「渥美清さんが非常に(吉永さんを)気に入っていたんじゃないかな? という気がします。ウキウキした感じが画面から伝わってきます」と指摘。山田監督はその言葉にうなずき「あの当時、吉永小百合さんは本当にトップスターで、渥美さんもやっぱり、張り切ったんじゃないかな」と同意する。
当時、日活所属の吉永が、松竹の大船撮影所での撮影の進め方などの違いに驚いた部分もあったのでは? という問いに、山田監督は「撮影所が違うことで『雰囲気だけでなく、こんなにもつくり方が違うんだとしみじみ思いましたよ』という話を(吉永から)聞いたことがあります」と語り、各社の特徴、カラーに言及。黒澤明を擁する東宝がダイナミックな大作を撮り、溝口健二のいる大映が時代劇を得意とし、東映は中村錦之助の大衆的な時代劇や高倉健主演のヤクザ映画を作っていたのに対し、松竹は「俗にメロドラマと言われた恋愛ドラマ、別の言い方をするとホームドラマが得意だった」と語る。そして「戦争を描くにも東宝は戦車が走り、爆弾が爆発して兵隊がダーッと走る。東映は新しい技術を使って、特撮で飛行機がダーッと飛ぶ。松竹はどうするか? (戦地に送られた兵士の)お母さんを演じる女優がふと涙をこぼすんです」と松竹の“ドラマ重視”のスタンスについて語った。
ちなみにこの日の客席には「柴又慕情」で吉永演じる歌子の友人であり、彼女と一緒に旅をするマリに扮した女優・泉洋子の姿も見られた。山田監督は泉を見て「あぁ!懐かしい」と嬉しそうな表情を浮かべる。泉は「あれから50数年。50年ぶりにスクリーンで自分の姿を見て、ミニスカートがあんなに似合っていたのかと思いました。監督も本当にお元気で、ますますご活躍を」と語り、山田監督は「かわいらしかったねぇ、あなた。ありがとうございます。よく来てくださりました」としみじみと語っていた。
ある観客からはマドンナに起用する女優について、山田監督が出演を熱望しながらも実現できなかった女優はいるか? という質問が。山田監督は「スケジュールが合わなかったといった理由で登場できなかった大スターは何人もいます。山本富士子さんは、第1作をつくった頃は、押しも押されもせぬ日本一の大スターで、山本富士子さんが登場するというのは夢みたいに思っていたけど、なかなかスケジュールが合わなくて、できなかったのは残念ですね」と述懐する。さらに、山田監督は作品ごとのマドンナを迎え入れる渥美清のすごさについても触れ「どんな女優さんでも、渥美さんという人と組み合わせると独特の面白さが出てくるんです。太地喜和子(『男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』)みたいなすごい力のある女優とだと、四つに組んだ芝居をするし、スーッときれいな大スターであれば、その美しさを際立たせる演技をする。どんな女優を相手にしても、ちゃんとその人を立たせて、魅力的にするのは渥美さんの演技力のすごさでもあると思います」と称えた。
最後に山田監督は「5社がそれぞれに覇を競うように面白い映画をつくった時代がその昔、あったということを思い返していただきたいですし、いま、日本映画はとてもつらいところに来ているけど、このまま沈んでしまうわけにいかない――世界を代表する映画を日本映画はつくってきたわけで、もう一度、そういう時代が来るように、そのためにどうしたらいいか? 僕たちも考えなくちゃいけないし、皆さんにも応援していただきたいと思います」と呼びかけ、温かい拍手の中で舞台挨拶は幕を閉じた。
【作品情報】
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男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け
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