4月29日(水) 5:30
そもそも、賃貸物件を退去するときの「原状回復」とは、入居時の状態に100%戻すことではありません。
国土交通省のガイドラインによれば、原状回復とは「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損(きそん)を復旧すること」と定義されています。
難しい言葉が並んでいますが、要するに「普通に住んでいて汚れたり古くなったりした分は、大家さんが負担する」のがルールなのです。例えば、家具を置いたことによる床のへこみや、日差しによる壁紙の色あせなどは「通常損耗」と呼ばれ、これらを直す費用を借主が負担する必要はありません。
退去時の立ち会いでよく指摘されるのが、冷蔵庫やテレビの裏の壁にできる「電気ヤケ」と呼ばれる黒ずみです。「壁を汚したから張り替え費用を払ってください」と言われると、つい自分が悪いと思ってしまいがちですが、これも原則として大家側の負担となります。
・冷蔵庫、テレビの裏面の壁の電気ヤケ(黒ずみ)は、通常の使用で起こるもの
・家具の設置による床やカーペットのへこみも通常損耗
・これらはすべて大家さんが負担すべきもの
管理会社から「壁紙の全張り替えで20万円」と言われたとしても、その原因がこうした通常損耗であれば、1円たりとも払う必要はないのです。もし納得できない請求をされたら、「ガイドラインではどうなっていますか?」と一言聞き返す勇気を持ちましょう。
さらに知っておくべきなのは、壁紙(クロス)の価値には「賞味期限」といえるものがあるという事実です。ガイドラインでは、壁紙の耐用年数は「6年」と定められています。これは、新築から6年経過した壁紙の価値は、税法上の残存価値である「1円」になるという考え方です。
つまり、その部屋に6年以上住んでいた場合、仮に不注意で壁紙を破いてしまったとしても、負担すべきなのは「1円」に近い金額、あるいは張り替え工賃のごく一部だけで済むはずなのです。
では、6年たたずに退去する場合はどうなるでしょうか。この場合でも、全額を負担する必要はありません。
・入居期間が3年であれば、壁紙の価値は半分程度まで下がっている
・負担するのは「張り替える部分」だけで、部屋全体の全張り替え費用を払う必要はない
・経過年数による減価償却を考慮し、賃借人の負担割合を決定する
管理会社が「一部だけだと色が合わないから全部張り替えます。費用は20万円です」と言ってきたとしても、それは大家側の都合です。借主が負担するのは、あくまで「自分が汚した部分の、今の価値」分だけでよいのです。
もし高額な請求をされたら、その場でサインをする必要はありません。「いったん持ち帰って、ガイドラインと照らし合わせて確認します」と伝えましょう。プロの業者であっても、相手が知識を持っていると分かれば、不当な請求を取り下げることがよくあります。
また、入居時に部屋の汚れや傷の写真を撮っておくことは、自分を守るための最強の証拠となります。新生活を始める場合、次の部屋では必ず写真を残しておきましょう。
住宅ローンの返済や子どもの学費、そして将来への貯蓄。会社員にとって、20万円というお金は大金です。無知ゆえにカモにされるのではなく、正しい知識という「魔法のルール」を身につけて、なけなしの資産を守り抜きましょう。
国土交通省 原状回復をめぐるトラブルとガイドラインについて
国土交通省 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)
執筆者 : 西村和樹
2級ファイナンシャル・プランニング技能士(FP2級)、第一種/第二種電気工事士、医療情報技師、2級ボイラー技士、ボイラー整備士
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