元ラグビー日本代表・福岡堅樹がAI時代に考える未来の医者像「情報を効率的に伝えるだけでは機械と変わらなくなってしまう」

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元ラグビー日本代表・福岡堅樹がAI時代に考える未来の医者像「情報を効率的に伝えるだけでは機械と変わらなくなってしまう」

4月29日(水) 6:50

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連載:NEXT STAGE~トップアスリートのセカンドキャリア

福岡堅樹インタビュー(後編)

◆福岡堅樹・前編>>現在医学部6年生「運動ってこんなにしないものなんだ」

◆福岡堅樹・中編>>30代で医師を目指す元ラグビー日本代表の勉強法

ラグビー元日本代表のレジェンド・福岡堅樹は現在の本分である医学の道に邁進しながらも、埼玉ワイルドナイツのアンバサダーとして、ホストゲームの場内放送でわかりやすいプレー解説を行なっている。熱戦の最中でもすっと耳に入ってくる、優しくわかりやすい解説だ。

加えて、テレビ中継の解説はもちろん、昨春までは情報番組『ウェークアップ』にレギュラー出演し、国内外のさまざまな事象についてコメントするなど、言葉を扱う仕事にも取り組んできた。

福岡堅樹はどの分野の専門医を目指しているのかphoto by Yuuri Tanimoto

福岡堅樹はどの分野の専門医を目指しているのかphoto by Yuuri Tanimoto



「『ウェークアップ』はすごくいい経験になりました。番組出演の機会をいただけたからこそ、自分がやってきていない専門外のジャンルについても考えることができました。

自分が話したいことを考えてまとめ、それを実際に生放送の限られた時間で尺を考えて伝える──そういう機会自体が貴重なので、本当にありがたかったですね」

的確かつ適切に言葉を使いこなす能力は、いずれは医師としても必要不可欠な要素になる。今回のインタビューでも終始感じられた言語化能力は、どのように培われたのだろうか。

「もちろん自分の気質もあると思いますが、そのようになるきっかけを自分に与えてくれたのは、父とのラグビーの反省会ですね」

歯科医の父・綱二郎さんは、福岡が出場した試合を幼少期からビデオで撮影。試合後にその映像を見返すことが、ふたりの決まりごとになっていた。そして、一つひとつのプレーに対して「この場面ではどのようなことを考えて、このプレーをしたのか」といった問答を行ない、福岡自身も考えを言語化した。この習慣がその後の輝かしいキャリアの礎(いしずえ)になった。

「スポーツという行動を言語化する練習になっていましたし、自分でその感覚を振り返り、加えて映像で見ることで、主観的な視点と客観的な視点を合わせていくことができました。とてもいい機会であり、いい勉強になったと思います。

ラグビーに限らず、言語化は大事です。自分がどう理解しているかをしっかりと説明していくなかで、もし矛盾があれば、『あれっ?なんか自分、違う覚え方をしているな』と気づくことができます。

大学で友だちとお互いに知識を共有していく過程でも同じように言葉にすることで、新たな気づきや学びが生まれているので、あの父との反省会は今でも本当に役に立っています。スポーツの経験は社会で生かせる機会が多いなと、あらためて感じています」

【人と人との対話から医療の新たな糸口】ラグビー競技は試合中のコミュニケーション、さらに言えば限られた時間内で簡潔かつ確実に意思疎通する言語化能力が大事だと言われている。

「練習をしていても、ひとつのプレーに関してすぐに言語化して、経験として自分のなかに落とし込んだほうが次に生かしやすくなりますし、同じ練習量でもそれをより濃いものにすることができます。言語化によって効率を上げる、言わば経験の倍化です」

医師という職業においても、患者との対話は重要な仕事のひとつとなる。

「今は実際に患者さんと直接コミュニケーションを取る機会がそこまで多くはないので、将来的に医師として言語化能力が生かせるかどうかはまだまだ学びが必要ですが、言葉を選んで伝えることについては日頃から心掛けています」

一方で、ただ伝えることだけが医師の仕事ではない。伝え方や対話も重要だ。

「AIが台頭し、知識だけならAIが人間を上回る時代にはなりましたが、医者として大事になってくるのは患者さんとのコミュニケーション能力だと思うので、しっかりと対話しながら医療を進めていく必要があります。

ただ、自分が伝えたい情報を効率的に伝えるだけでは機械と変わらなくなってしまうので、そこは考えながらコミュニケーションをとらないといけないですし、そういった一つひとつのコミュニケーションから学ぶこともたくさんあると思っています」

医師と患者、人と人との対話から、医療の新たな糸口が見つかることもある。

「信頼関係を築けていれば、患者さんからいただける情報もきっと増えると思います。先生たちの外来の問診に同行させていただいてお話を聞いていると、そういうのがうまいなと学ばせてもらったりもしているので、いい経験をさせてもらっています」

ワールドクラスの経験と成功に至った実績があるからこそ、すべてが医大生としての毎日に生きている。

「あらためて考えると、本当にこの(ラグビー選手から医師への転身の)道を切り拓くことができれば、前例がないからとあきらめてきた人たちが同じような道を選べるようになるかもしれません。ですから、こうしてがんばることのメリットは大きいと考えるようになりました」

【スポーツに携わる分野には行きたい】ラグビーの元アルゼンチン代表で現ヘッドコーチのフェリペ・コンテポーミ氏は、トッププレーヤーと医師というふたつの顔を持つ稀有な存在だ。

「もちろん知っています。『海外にそういう方がいるということは、日本人でもできないことはない』と、ある意味、自信になりました。日本は昔からひとつのことにこだわるのを美学とする文化があり、何かほかのことを同時にやっていると白い目で見られがちであるのも理解はしていたので、それを取っ払える機会になればいいと思っています」

新たな道を切り拓こうとしている福岡は、どの分野の専門医を目指しているのか。やはり恩人である前田朗氏(中編参照)のような整形外科医だろうか。

「自分のなかではほとんど固まってはいるのですが、どの専門医になるかに関しては実際にその道を選んだ時にお伝えしたいと思っていますので、今は明言していません。

もちろん、何かしらスポーツに携わる分野には行きたいと考えていますが、元アスリートだから整形(外科)一択という考え方は自分としても疑問がありますので、いろいろな目線で見ながらスポーツに何か還元できるものがあれば、と考えています。

それこそ、人と違う道を歩んできたことが自分のベースにはあるので、また違った視点からのスポーツへのアプローチも可能であり必要なのではないか、と考えながら準備しています」

明言こそ避けたものの、いずれは元トップアスリートとして現役アスリートを支えたいという思いは強い。

「スポーツの分野に戻りたい、という気持ちは強いですね。『自分を一番生かす方法って何だろう』と考えた時に、トップレベルでやってきた経験はほかの医師にないものだと思いますし、選手たちに一番親身になって話ができ、一緒に考えることができる点は、これからも強みにしていきたいです」

どの分野に進んだとしても、唯一無二の経験を持つドクターとなることに変わりはない。近い将来、誕生することになる「医師・福岡堅樹」は、トップアスリートのキャリアの歴史を塗り替えるだけでなく、スポーツ医療をも変える可能性を秘めている。そして彼が切り拓いていく道は、スポーツの未来そのものかもしれない。

<了>



【profile】

福岡堅樹(ふくおか・けんき)

1992年9月7日生まれ、福岡県古賀市出身。5歳でラグビーを始め、中学生で100m11秒台を記録した俊足WTB。福岡高3年時に全国高校ラグビー(花園)出場。筑波大では1年生からレギュラーとなり、全国大学選手権での活躍が評価されて2013年4月に日本代表初選出。2015年と2019年のラグビーワールドカップに出場し、後者は4トライを決めて日本代表初の決勝トーナメント進出に貢献した。通算38キャップ。男子セブンズ(7人制)日本代表として2016年のリオデジャネイロ オリンピックにも出場。パナソニックワイルドナイツ(現・埼玉ワイルドナイツ)ではラストイヤーとなったトップリーグ(現・リーグワン)2021シーズンで優勝を果たしMVPにも輝いた。同年から順天堂大学医学部に通う医大生。身長175cm。

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