高齢者の運転といえば「おぼつかない」というイメージがありますが、実はそれだけではないようです。警察庁の分析によれば、75歳以上のドライバーによる交通死亡事故率は、75歳未満と比較して2倍以上という高い水準にあります。その要因は操作ミスだけでなく、感情の抑制が効かなくなる「路上の憤怒(ロード・レイジ)」も少なくないと指摘されています。
さらに、あおり運転への取り締まりは劇的に強化されました。かつては「運が悪かった」で済まされていたようなトラブルも、今や一発で免許取り消し、最悪の場合は刑務所行きとなる重罪です。
今回は、過去に反響の大きかった実録エピソードから、高速道路で執拗に軽自動車を追い詰めた「70代の男性」の事例を振り返ります。警察官を前にして語った、あまりに身勝手で驚愕の言い分とは――。感情的な暴走の果てに、男性が失うことになった「大きな代償」について考えます。記事の最後では、警察庁の膨大なデータを紐解き、数字が物語る「高齢運転者の本当のリスク」についてもさらに切り込みます。
70代ぐらいの老人に高速で煽られる
会社員の大倉優太さん(仮名・26歳)も、“歪んだ思考を持つドライバー”から煽られて、冷や汗が止まらなくなった経験があるという。
「自分だけならまだしも、助手席に座る彼女の身にも危険が及ぶ出来事でした。
今思い出しても虫唾が走ります
」
それは今から3年ほど前のこと。大倉さんには付き合って3カ月になる彼女がいた。買ったばかりの軽自動車で温泉旅行に向かったそうだ。
「
高速を走っていると、白いセダンがピッタリ後をついてくるんです。
ですが、自分がいたのは追い越し車線ではなく走行車線でしたし、ノロノロと走っている訳でもなく、煽られる理由がわからず……。相手が気になり、バックミラーで確認すると、
ハンドルを握っていたのは70代ぐらいの老人でした。
ニヤニヤと笑っていて、車をぶつける勢いで迫ってくるので、本当に怖かったです。でも、彼女を怖がらせたくないという思いから、あくまで平静を装って運転し続けていました」
無事逃げ切ったかと思いきや…
しかし、白いセダンは今にもぶつける勢いだった。
「彼女に『ちょっと休憩しようか』と告げて、サービスエリアに入ることに。でも、白いセダンもついてきて……。混んでいるエリアで車を止めると、ようやく姿が見えなくなって心底ほっとしました」
安心した大倉さんは、フードコートで昼食を摂ることに。しかし……。
「老人のことを半ば忘れた状態でサービスエリアを出ました。でも、
少し走るとバックミラーに例の白いセダンが映っていて……。
鳥肌が立ちましたね。しかも、
なぜかそれまでより敵意を感じました。
並走してこちらに車を寄せて来たりと、危険な運転を繰り返してくるんです」
“煽り老人”のまさかの言い分に唖然
「向こうは古いタイプとはいえ、普通車です。一方、こちらは軽自動車。必死に逃げましたが、スピードを出しすぎるのも怖くて、すぐに追いつかれてしまいました。彼女は『なんとかしてよ!』と叫んで、なだめるのにも必死でした。
背後から迫る老人はニヤニヤと笑っていて………気が変になりそうでした
」
恐怖に耐えながら運転し、大倉さんはなんとかパーキングエリアに逃げ込むことに。
「それでも白いセダンは追ってきました。近くに停めて、こちらが発進するのを待っているようでした。もうあんな怖い思いはしたくなかったので、
やむを得ず警察に連絡することにしました
」
大倉さんはやってきた警察官に被害を訴えた。
「ドライブレコーダーに映っていた煽り運転の様子を見せて説明すると、老人の車のところまで行って事情聴取をしてくれました。なんでこんなことをしたのか尋ねられて答えたのは、
『クソガキが女を連れてノロノロ走ってやがるから腹が立った』
という言い分で……。あんな危険な運転をした理由がヤンキーみたいな内容だったことに唖然としましたね」
出だしから最悪の気分にさせられた旅行は盛り上がらず、彼女は終始暗い表情だった。この出来事が尾を引いてしまったのか、残念ながら恋人関係も長くは続かなかったという。
■数字が語る「高齢者暴走」の意外な真実
今回お届けしたエピソード。警察官の前で放った男性の「言い分」は、まさに現代社会が抱える高齢運転者の課題を象徴しています。警察庁の公式資料からは、私たちが知っておくべき実態が見えてきます。
まず知っておきたいのは、死亡事故率の高さです。免許人口10万人あたりの死亡事故件数をみると、75歳未満の運転者が3.4件であるのに対し、75歳以上の高齢運転者は8.0件と、2倍以上の開きがあります。加齢による身体の変化は、本人が思う以上に数字として表れているのです。
さらにデータを見ると、75歳以上の死亡事故は「相手を死なせてしまう」ケースよりも、「運転者本人やその同乗者が亡くなる」ケースが他の世代より多いという事実があります。感情に任せた無理な運転は、相手だけでなく、自分や大切な家族の命まで危うくする、非常に悲しい結果を招きかねません。
また、死亡事故を起こした75歳以上の運転者のうち、約半数にあたる49.2%が事前の検査で「認知機能の低下」を指摘されていました。「若者が女を連れていて腹が立った」という身勝手な動機。それは単なる性格の問題だけでなく、脳の変化によって感情のブレーキが効きにくくなっていたサインだったのかもしれません。
現在の法律では、あおり運転とみなされれば一発で免許取り消しとなります。高齢になってから免許を失うことは、病院や買い物など、生活の「足」を奪われる深刻な問題です。一時の怒りが、その後の自由な生活をすべて奪ってしまう。この男性が警察に捕まった瞬間に失ったものは、想像以上に大きかったはずです。
私たちは、いつ被害者にも、そして感情を制御できない加害者にもなり得ます。ハンドルを握るとき、「この一時の怒りが人生最後の運転になるかもしれない」という意識を持つこと。その緊張感こそが、悲劇を防ぐ唯一のブレーキになるはずです。
<TEXT/和泉太郎再構成/日刊SPA!編集部>
【和泉太郎】
込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め
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