朝ドラ『風、薫る』ミセスの主題歌は「最適解」
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見上愛、上坂樹里のダブル主演で話題のNHKの朝ドラ『風、薫る』。文明開化の明治時代に、当時はまだ馴染みのなかったナースとして生きる女性の奮闘ぶりを描いています。
そんなヒロインたちの背中を押す主題歌が、Mrs. GREEN APPLEが歌う「風と町」です。
<私は奇跡の愛で生まれて思い返す大切な日々を風はただ知っている>
、
<風が唄うこの町で私は確かな強さを学んで>
といったポジティブな歌詞と、優しさと壮大さをあわせもったフォーク風のメロディも、主演の二人のイメージにぴったり。
曲が流れる背景には、木々の緑が印象的なオープニング画像。ドラマが訴えたいメッセージと、オーガニックな曲調が放つオーラが見事に一致しています。演出のあらゆるベクトルが、みな同じ強さで同じ方向を向いている。
近ごろ流行りの“ドラマに寄り添う主題歌”の最適解だと言えるでしょう。
でも、どっかで見たことあるような…
しかし、このハマりすぎていることで、逆に印象が薄くなっていると感じました。なぜなら、『風、薫る』のオープニングは、ほとんどプロモーションビデオやCMだからです。
木々の緑の映像とアコースティックギターを基調としたフォークソング。歌うのは大森元貴。あれ、どっかで見たことあるような……。そう、キリンビールの淡麗グリーンラベルです。あのCMのメインキャラクターは多部未華子。
ここから、『風、薫る』と淡麗グリーンラベルに共通する、緑、フォークソング、女優、大森元貴という方程式があることがわかります。ドラマとCMというフォーマットが違うだけで、表現には大差がないのです。
つまり、「風と町」は、『風、薫る』のための特別な楽曲というよりも、Mrs. GREEN APPLEの活動の一環という色合いが濃くなっているのです。
“一人勝ち”が引き起こした皮肉な現状
もっとも、これこそミセスが一人勝ちしている理由であるとも言えます。ドラマ、映画、CMと、あらゆるメディアを飲み込んで、“ミセス”印を刻んでいくアーティストパワーは群を抜いています。その中で一定のクオリティを担保して、感動を供給していく。その媒介として、目下彼らの右に出る存在はいません。
ただし、彼らのように短期間で安定的に納品するシステムは、頻度が高ければ高いほどインフレを起こします。飽きられるのが早いのです。
ファンは彼らが短いスパンで新曲をリリースするほど喜ぶでしょう。しかし、それ以外の人たちにとっては、なんとなく心地よいミセスの音楽が、次第に当たり前の日常になる。刺激であったはずのものが、いつの間にか空気になってしまうのです。
皮肉なことに、彼らがクオリティを満たすごとに価値が薄まっていく。なぜなら、価値とは、常にそこにあることではなく、むしろいないことによる欠乏によって高められるからです。
日本のエンタメの「ミセス依存」
そう考えると、毎日ニュースで見ない日がないミセスがやっていることはその真逆です。「風と町」も、その“良質な繰り返し”を超えるものではありませんでした。
同時に、いまの日本のエンタメがいかにミセスに依存しているか、一極集中に陥っているかを示している一例だとも言えます。
ミセスそのものがどうこうというよりも、視聴者が好む作風や表現がビッグデータ的に“ミセス的”なものに収斂されていく。
ミセス無双は、そんな世知辛い世相を映し出しているのかもしれません。
それこそが、朝ドラにビールのCMが憑依した『風、薫る』が放つ、いつものあの匂いなのです。
文/石黒隆之
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。X: @TakayukiIshigu4
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