突然、一生付き合わなければならない病気になってしまったら――人生は絶望しかなくなってしまう?そこから這い上がるにはどうしたらいいのか。
『しあわせは食べて寝て待て』(水凪トリ著、秋田書店『フォアミセス』で2020年3月~連載中)の主人公、麦巻さとこが選んだのは、人生のリズムを取り戻すことでした。
この夏にスペシャルドラマが放送決定
2025年4月にNHK総合『ドラマ10』でドラマ化された今作は、異例の大ヒット。不器用ながら懸命に生きる38歳独身の麦巻さとこ(桜井ユキ)と、謎の“料理番”羽白司(宮沢氷魚)、大家の美山鈴(加賀まりこ)――麦巻さんと登場人物たちの姿に、これって私? と共感した人も多数いたに違いありません。
2026年夏にスペシャルドラマとして帰ってくる今作。ドラマにちなんだ本『麦巻さんのまいにち薬膳手帖 ~体と心をいたわる旬の食材と養生の知恵~』(晋遊舎ムック) も今年2月に刊行されました。
麦巻さんを元気にしてきた薬膳レシピを、この本を読んでおさらいしてみましょう。
薬膳って実は難しくない
薬膳とは、中医学の考え方に基づき、体調や体質、季節に合わせて食材を組み合わせる食事療法です。〈旬の食材は季節の不調を改善する!〉と本書にあるように、難しく考える必要はありません(〈〉は本書からの引用、以下同)。
本書による〈基本①〉は〈舌は内臓を映す鏡〉。舌の様子は〈色・形・苔の状態でチェック〉〈健康的な舌は明るいピンク色で白い舌苔に薄く覆われ、適度な潤いがある状態〉、毎朝のルーティンに組み込みたい習慣です。
スーパーに並ぶ旬の食材は、今は通年でほとんどの季節の野菜が入手できますが、それでも、たとえば菜の花を見れば春を感じます。薬膳の考え方〈基本②〉は〈旬の食材は季節の不調を改善する!〉です。菜の花は実は花粉症に効果アリって知っていましたか。独特の苦みには解毒作用に優れ、吹き出物などの炎症を鎮めてくれるといいます。
花粉や乾燥で、春になると肌荒れする方も多いはず。菜の花があなたの心と身体を、助けてくれそうです。
ドラマに登場した「鶏団子と野菜のスープ」
膠原病を患った麦巻さんは、家賃負担を下げるべく、築45年、家賃5万円の団地に引っ越します。隣に住むのは、90歳になる大家の鈴さんと同居人の司くん。司くんが作ってくれたスープこそが、麦巻さんと薬膳の出会いでした。
ドラマの第一話に登場する〈鶏団子と野菜のスープ〉。薬膳食材は〈だいこん、しめじ、しょうが、鶏肉〉です。だいこんには〈消化不良・胃もたれ・咳・たん〉に効果があり、しょうがには〈風邪・冷え性・食欲不振〉に効果があるなど、食材ごとにそれぞれ違った不調をやわらげる効能があります。
スープの味付けは〈粗塩とキャベツ、しめじ、れんこんの風味〉、鶏団子の味付けは〈みそ・酒。薄力粉・たまねぎのみじん切り〉と、両方ともシンプル。大切なのは、その人の体質と季節の旬を考慮すること。
「喉の粘膜を潤す作用があるんです。これなら持ち歩けるでしょう?」と、司くんが麦巻さんに手渡すのが、干したあんずです。あんずには、〈粘膜を潤す働きがあり、喉や口の渇きを癒します〉と、これまたうれしい効果があるのです。
薬膳って敷居が高い、という印象が、私にもありました。でも麦巻さんの暮らしぶりを見ていると、私達の生活に根差しているのがよくわかります。自分の心身と相談しながら、薬膳を取り入れて成長する麦巻さんのひたむきさに、私達もエールを送りたくなるのです。
あたりまえが、とても心地いい
食べることは生きること。あたりまえに並ぶ食事が、いつも命によりそってくれているのを、本書は気づかせてくれます。
〈食べる養生〉の理解をもっと深める〈漢方の話〉まで、ドラマのエピソードを通してわかりやすく解説している本書。〈気(き)・血(けつ)・水(すい)〉に基づいた体質チェックの方法や体質別の食材も網羅しています。これなら私にも取り入れられるかも! これも薬膳だったの?など、新しい発見もあるはずです。
明日の自分がもっと元気になる、毎日が愛おしく思えてくる…、そんなささやかな魔法が、本書には詰まっています。
<文/森美樹>
【森美樹】
小説家、タロット占い師。第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『私の裸』、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)、『わたしのいけない世界』(祥伝社)を上梓。東京タワーにてタロット占い鑑定を行っている。X:@morimikixxx
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