号泣報告続出の映画「90メートル」タイトルの意味とは?中川駿監督が仕掛けた「距離」の魔法を解説【ネタバレあり】

「90メートル」(公開中)

号泣報告続出の映画「90メートル」タイトルの意味とは?中川駿監督が仕掛けた「距離」の魔法を解説【ネタバレあり】

4月13日(月) 12:00

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山時聡真と菅野美穂が主演を務めた映画「90メートル」。3月27日に封切られると、SNSでは“号泣報告”が相次いでいる。

【動画】「90メートル」予告編

人生の岐路に立つ高校生の息子と難病を抱えながら我が子の希望ある明日を願うシングルマザーの揺るぎない愛――母親を看病した経験を持つ『か「」く「」し「」ご「」と「』の中川駿監督が、自身と自身の母親を重ね合わせながら、半自伝的作品として描いた作品となっており、特にそのタイトルに秘められた“意味”に共感と感動の嵐が巻き起こっている。

本記事では“ネタバレあり”でタイトルがもつ重み、中川監督が仕掛けた“距離”の魔法を紐解きつつ、介護経験者のキャスト陣のコメントを紹介する。

【「90メートル」あらすじ】

母子家庭で育ち、小学生の頃からバスケットボールに打ち込んでいた佑(山時)。高校2年の時に母・美咲(菅野)が難病を患い、母の世話を優先するためバスケットボールを辞める。介護ヘルパーの支援を受けながら、美咲のケアや家事をこなし、東京の大学進学を夢見ていた佑だが、母をひとり残して上京する現実に葛藤を抱えていた。看病のため自分の夢や希望を諦めかけていたある日、担任教師から自己推薦による受験を勧められる。しかし、美咲が日に日に身体の自由を失っていく姿を前に、佑は上京したい気持ちを打ち明けられずにいた。

●「90メートル」の意味とは?“悩み”から“絆”の象徴へと変化→号泣する観客が続出

本作のタイトルである「90メートル」は、何を表すものなのだろうか。

本編を見進めると、それが「呼び出しチャイムの無線が届く距離」であることが判明する。無線をもって出かけた佑は、この「90メートル」の範囲から出ることができず、例えば“赤ちゃんのおもちゃを母親のもとに届けるのではなく呼び止めて渡す”というシーンが存在している。“90メートル”の境目となっている自宅近くの自動販売機から先に進めない姿を見ると、この無線の有効距離は佑にかけられた「制限」にもみえるだろう。

しかし、この「90メートル」は次第に母子の絆を象徴する距離へと姿を変えていく。佑がチャイムを東京に持っていくシーンでは号泣する観客が続出。タイトルの意味がわかった瞬間に涙が止まらなくなるのだ。「鳴らしても佑は来ない」チャイムをベッドサイドに置き続ける美咲の佑を想う気持ちに、母子の絆を感じずにはいられない。

中川監督は「美咲が佑に助けを求める時に使用する呼び出しチャイム。それは、佑と美咲の関係性が『ヤングケアラーと要介護者』である間は二人を縛り、悩ませる象徴でした。けれど、福祉の助けが届いたことを機に『息子と母』としての関係性を取り戻してからは、それは互いに想いやっていた絆が確かにあった証に変わっていきます。そんな本作を象徴する呼び出しチャイムを引っ掛けたタイトルにしたいと、脚本執筆中から考えていました。そこで、実際に呼び出しチャイムの有効作動範囲である『90メートル』をタイトルにしました」と経緯を説明。

介護経験者からも、この呼び出しチャイムの範囲が「自分を制限するものだが、同時に家族(利用者)を繋げる存在でもある」という構造に共感の声が大きかったという。介護現場ではありとあらゆる“距離”に、切実な意味が生まれるということだろう。

●キャスト陣には介護経験者も荻野みかん&オラキオが語る“リアリティ”が心に響く

介護の現場では、映画に登場する呼び出しチャイムは介護をする人と介護される人を繋ぐ重要なアイテムだ。佑と美咲のように家族間で介護をする場合だと、「いつでも鳴らして良いからね」と声かけをするものの、「そんなことで鳴らさないでよ!」とケンカになることも少なくないという。

劇中で描かれている佑と美咲のケンカについても、当事者からは共感の声が多かった。本作では多くのヘルパーが登場するが、前原役を演じた荻野みかんは実際にヘルパーとして活躍中。16年間もの介護職歴を持っている。

荻野は介護における“距離”について「私は介護者と御利用者との距離は0メートルだと感じています。何故なら入浴、排泄、移乗介助など介護をする際には、肌に触れたり、お支えする為にお互いの身体を密着させる事が多くあるからです。又、物理的な距離だけでなく、精神的にも相手の背中にそっと手を当てている様な感覚を大切にしています」と話しており、その上で「それは時にはご家族よりも近い距離なのかも知れません。または家族ではないから取れる距離だとも言えると思います。ですが人によって求めている距離は違うので、一方的にならない様に心掛けています。支援をするうえで、距離はとてもセンシティブなものだと感じます」と説明する。

また「お仕事として介護に携わるのと自分の家族を介護するのとでは、大変さは全く異なると思います。家族だから出来ないこと、許せないこと、家族だから悩み苦しんでしまう。だからこそ距離は大切なのだと思います。外からのサポートによって、その距離が良い方向へと変化をしていくことが望ましいと思います」とサポートの重要性も語っている。

鈴木役を演じたオラキオも介護資格を持ち、現場を応援・啓発する活動を積極的に行う芸人だ。

オラキオは「今、介護現場は急速にIT化が進んでいます」と明かしつつ「ただどれだけ便利になっても大事なのは人と人との距離感。僕自身、介護の仕事をする時に、ここが1番むずかしいとも感じています」と語る。

そして、自身の母親の介護経験を本作に投影した中川監督は、家族が故に“距離感”に悩んだ経験を明かす。

「僕にとって、母はずっと近くにいたい存在ではありませんでした。近くにいればずっと何かしらの心配をされ、気遣われ、それが愛情ゆえだと分かっていても鬱陶しく感じてしまっていたからです。そんな母が病気になり、介護のために必然的に近くにいなければいけなくなりました。自分の時間が奪われ、思うように事が進められなくなるフラストレーションは確かにありました。けどどんな理由であれ、素直に母の近くにいることができるようになりました。『病気になったら駿が優しくなった』と母は言っていたようです。母が病気になったことは本当に悔しいし悲しいですが、そんなきっかけでも無ければ僕はずっと母から心身ともに離れていたままだったかもしれません」

そして「ぜひ親子で一緒に『90メートル』を観て擬似体験をしていただき、親子が改めて向き合うきっかけにしていただければなと思います」と本作に込めた願いを告白。介護する側とされる側の物理的な“距離”、そして精神的な“距離”。本作では人々の関わりを製作陣が繊細に、そして忠実に描いたからこそ、経験者の胸に響く作品となっているのだ。

中川監督、荻野、オラキオのコメント全文は以下の通り。

【中川駿監督】

美咲が佑に助けを求める時に使用する呼び出しチャイム。

それは、佑と美咲の関係性が『ヤングケアラーと要介護者』である間は二人を縛り、悩ませる象徴でした。けれど、福祉の助けが届いたことを機に『息子と母』としての関係性を取り戻してからは、それは互いに想いやっていた絆が確かにあった証に変わっていきます。

そんな本作を象徴する呼び出しチャイムを引っ掛けたタイトルにしたいと、脚本執筆中から考えていました。そこで、実際に呼び出しチャイムの有効作動範囲である『90メートル』をタイトルにしました。

僕にとって、母はずっと近くにいたい存在ではありませんでした。近くにいればずっと何かしらの心配をされ、気遣われ、それが愛情ゆえだと分かっていても鬱陶しく感じてしまっていたからです。そんな母が病気になり、介護のために必然的に近くにいなければいけなくなりました。自分の時間が奪われ、思うように事が進められなくなるフラストレーションは確かにありました。けどどんな理由であれ、素直に母の近くにいることができるようになりました。「病気になったら駿が優しくなった」と母は言っていたようです。母が病気になったことは本当に悔しいし悲しいですが、そんなきっかけでも無ければ僕はずっと母から心身ともに離れていたままだったかもしれません。

ぜひ親子で一緒に『90メートル』を観て擬似体験をしていただき、親子が改めて向き合うきっかけにしていただければなと思います。
【荻野みかん】

――現場に立たれてて介護を担当する中で距離をどの様に感じますか?

私は介護者と御利用者との距離は0メートルだと感じています。
何故なら入浴、排泄、移乗介助など介護をする際には、肌に触れたり、お支えする為にお互いの身体を密着させる事が多くあるからです。

又、物理的な距離だけでなく、精神的にも相手の背中にそっと手を当てている様な感覚を大切にしています。

それは時にはご家族よりも近い距離なのかも知れません。または家族ではないから取れる距離だとも言えると思います。

ですが人によって求めている距離は違うので、一方的にならない様に心掛けています。支援をするうえで、距離はとてもセンシティブなものだと感じます。

――介護を担当する方のご家族からはどのような声が寄せられますか?

介護のお仕事を通じて様々なご家族の方々と接してきましたが、皆様それぞれに要介護者(介護を受ける人)との距離を無意識に保っている気もします。その距離が安心感に繋がっている様な…。

そんなご家族のこころの声を感じたりもしてきました。

それで良いと思うんです。ご家族の方が安心を持てるその距離をお守りするのも、介護スタッフの努めの一つであると思っています。
――ご自身はこの距離についてどう思われますか?

お仕事として介護に携わるのと自分の家族を介護するのとでは、大変さは全く異なると思います。

家族だから出来ないこと、許せないこと、家族だから悩み苦しんでしまう。

だからこそ距離は大切なのだと思います。外からのサポートによって、その距離が良い方向へと変化をしていくことが望ましいと思います。

――90メートルというタイトルについて感じたことがあれば教えて下さい。

台本を拝読しその距離の意味を理解した時、体の奥底から涙が流れてきました。

守らなければならない距離であり、越えて行かなければならない距離。

みんな、それぞれ大切な人とあらゆる距離を持っていて、時間と共にその距離は変化していき、そしてどの道を選び決断するにせよ、きっとそこには覚悟と勇気が必要なのだと思います。

「90メートル」では、その距離の中に溢れる程の愛が描かれていて、私はこの作品に触れた時から、このタイトルに心をそっと温めてもらっています。

【オラキオ】

今、介護現場は急速にIT化が進んでいます。

ただどれだけ便利になっても大事なのは人と人との距離感。

僕自身、介護の仕事をする時に、ここが1番むずかしいとも感じています。

ただでさえ難しいのに、そこに親子、母親、思春期、友達、病気が絡んでくるとなると…想像を絶する思いの中で物語は静かに進んでいきます。

一見この物語とは関係が無さそうなこの「90メートル」というタイトルはそれは単に物理的な距離ではなく、母親にとっての、佑くんにとっての、そして介護職にとってのそれぞれの想いによって変わる心の距離のようなものを表しているようで、それがとても素敵でした。

【作品情報】
90メートル

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