昨今、将来に向けた資産形成に取り組むファミリー層の間で、「高配当株」が人気を集めている。定期的に現金が振り込まれる配当金は、日々の家計の助けになるだけでなく、将来に向けた精神的な安心感をもたらしてくれるだろう。
【図解】知っておきたい「高配当株×信用取引」のイメージと現実
「株価が少し下がっても、配当があるから持っていれば大丈夫」。そんな風に考え、高配当株を「手堅い投資」「負けにくい投資」として選ぶ人も多いのではないだろうか。ただ、高配当株であればどんな時でも安全と言い切れるのかは、少し立ち止まって考えてみたい。
先日、SNS上で「高配当株投資を続けた結果、約1.5億円の損失を出したとみられる個人投資家」の事例が話題となった。これを聞いて、「自分たちには縁のない、大金を動かせる一部の人の特殊な話」と感じるかもしれない…。
[HEAD]1.5億円の損失は、誰にでも起こり得る[/HEAD]
しかし、YouTubeチャンネル『鳥海翔の騙されない金融学(登録者40.4万人)』を運営するFP(ファイナンシャルプランナー)の鳥海翔さんは、今回の出来事の本質はそこではないと語る。
「1.5億円という金額を聞いて、特別な資金を持っている人だけの話と片付けるのは少し危険ですね。今回の事例の背景には『信用取引』があったとみられており、その点を考えると、誰にでも起こりうる話だと思います」(鳥海さん、以下同じ)
そもそも「信用取引」とは、どのような仕組みなのだろうか。
「信用取引とは、証券会社から資金を借りて株式を購入する仕組みです。日本では一般的に自己資金の約3倍程度まで株式を保有できるケースが多く、たとえば1000万円の資金があれば約3000万円分の株式を買うことができます」
この仕組みを知ると、「配当が確実にもらえる安定した銘柄なら、資金を借りてでもたくさん買ったほうが効率がよいのではないか」と思うかもしれない。投資に少し慣れて資産が順調に増えてくると、そんな考えが頭をよぎることもあるだろう。
[HEAD]自己資金の3倍投資できるが、損も3倍になる「信用取引」[/HEAD]
実際、信用取引を利用して利回りの高い株に投資すれば、予想通りに相場が動いた場合の利益は大きくなる。仮に1000万円の自己資金で3000万円分の株式を購入し、その株価が20%上昇した場合、3000万円の20%なので利益は600万円になるという計算だ。
投資の世界では、このように手持ちの資金以上の金額を動かして大きなリターンを狙う仕組みを、小さな力で重いものを持ち上げる「てこ(レバー)の原理」に例えて「レバレッジ」と呼ぶことがある。
「自己資金1000万円に対して600万円の利益ということは、リターンは約60%です。通常の現物投資であれば株価20%上昇=利益20%ですが、レバレッジをかけることで利益はその約3倍になります」
このように、レバレッジを利用すればより早く資産を拡大できそうに思えるが、ことはそんなに単純ではない。
なぜなら「安定しているように見える資産」と「レバレッジ」を組み合わせることで、投資の“リスクも同じように大きく跳ね上がってしまう”可能性があるからだ。
「一方で、株価が20%下落した場合のダメージも同じように大きくなります。3000万円分の株が20%値下がりすると、手元にある株の価値は2400万円まで目減りしてしまいます」と鳥海さん。
「つまり、一気に600万円分のマイナスを抱えることになります。もともとの自己資金である1000万円から600万円の損失が差し引かれるため、自分の資産が40%も減ってしまう計算です。高配当株の配当金はだいたい年に5〜6%程度ですから、レバレッジによって膨らんでしまった株価20%下落の大きな損失は、コツコツもらえる配当金だけでは到底カバーしきれなくなってしまうのです」
[HEAD]「配当がある=安全」ではない?意識しておきたいリスク[/HEAD]
資産が大きく目減りしても、高配当株であれば「株価が戻るまで、配当をもらいながら気長に待てばいい」と考える人もいるかもしれない。手持ちの資金の範囲内で行う「現物取引」であれば、そうした選択肢を取ることもできる。
だが、信用取引を利用している場合、相場は必ずしも投資家の都合を待ってはくれないこともあるのだとか。
「損失(含み損)が一定のラインを超えると、自分の意思とは関係なく、想定外の対応を迫られるケースが出てきます。高配当という言葉の響きに安心しすぎてしまうと、一番避けたいタイミングで株を手放さざるを得ない状況になるかもしれません」
その原因となるのが「追証」という仕組みだ。
「下落が続くと『追証(追加保証金)』が発生することもあります。これは証券会社から追加の資金を求められる制度で、資金を入れられない場合は保有株が自動的に売却されることもあります。こうした仕組みが、損失をさらに拡大させることがあるのです」
今回話題になった事例も、高配当株そのものが問題だったというより、「高配当株は値動きが比較的安定しているだろう」「配当がある以上、大きく崩れることはないだろう」といった安心感から、レバレッジを大きくかけてしまったことが背景にあった可能性があるとのこと。
「株式市場では、配当利回りが5〜6%ある企業でも、株価が20%や30%動くことは珍しくありません。そこに信用取引によるレバレッジが加わると、値動きの影響はさらに大きくなります」
もちろん、高配当株への投資そのものが悪いわけではない。ただ、「配当があるから」といって安心しきり、仕組みを十分に理解しないままレバレッジをかけるのは、少し慎重になったほうがよいだろう。
投資においては銘柄選びだけでなく、資金管理と仕組みを正しく理解することが、無理なく長く続けていくための大切なポイントになりそうだ。
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