『国宝』では主人公・喜久雄を支え続ける女性の切なさを体現し、『ひらやすみ』では美大生“なっちゃん”の何気ない日常を生き生きと演じる――。どんな作品でも、人物に確かな息づかいを吹き込む俳優・森七菜。初単独主演映画『炎上』では、新宿・歌舞伎町に居場所を見つけた少女の夢やもがきをスクリーンに刻み込み、観る者を釘付けにする。役者という仕事について、森は「努力をしているというよりも、好きなことだから夢中。だからマインドとしては、無敵なんです」とにっこり。「こだわりを持たないことが、こだわり」というマイルールや転機となった出会い、目指す役者像まで、森七菜の力強く、伸びやかな俳優力の秘密に迫る。
【写真】透明感あふれる佇まいに魅きこまれる!森七菜、インタビュー撮りおろしショット
◆映画『炎上』に向けて抱いた予感と覚悟
『炎上』は、過去3度に渡ってサンダンス映画祭での受賞に輝くなど、世界から注目を浴びる長久允監督が5年間温めた物語を映画化したもの。カルト宗教の信者の家庭で、妹とともに厳しく育てられた小林樹理恵(森)。父親の死をきっかけに家を飛び出し、SNSを頼りに歌舞伎町“トー横”へたどり着く。そこで“じゅじゅ”という名前や、寝る場所、食べ物、スマホ、仕事をもらい、妹と暮らすという夢を追いかけ始めるのだが、そんな樹理恵が、歌舞伎町に火をつけるまでの150日間を描く。
樹理恵は、深い孤独や過酷な運命を背負う役柄だ。演じるには、覚悟を要するようなキャラクターにも感じる。
森は「台本を読んだ時に、これが自分の未来になっていく予感がして。これをやらないという選択肢は、どこにもありませんでした」と前のめりで飛び込みつつ、同時に「覚悟が必要だった」と告白。「“じゅじゅ”に実際のモデルはいないですが、リスペクトを捧げ、彼女たちの尊厳を守る気持ちでやらなければいけないという覚悟を持って臨みました。この映画によって、彼女たちを傷つけるようなことは絶対にしたくないと思いながら作っていました」と実際に歌舞伎町“トー横”で生きる若者に想いを馳せ、まっすぐな瞳を見せる。
「新宿歌舞伎町のニュースを見て、現場を取材し、彼女/彼らの物語を書くべきだと思ったことがきっかけ」と制作動機を語る長久允監督のもと、物語の舞台である歌舞伎町で実際にロケも敢行した。
実は、「大分から上京して、初めて住んだのが東京の新宿でした。思い出深い場所で、今でも大好きな街」だという。「私にとって東京を象徴する場所の一つが、新宿です。街が明るすぎるので、雨が降った後には、霧がその光に反射してオーロラのように見えたりして。上京したての私は、そういった風景を見て『きれいだな、いい街だな』と思っていました。歌舞伎町の美味しいご飯屋さんにも、よく行っていました」と回想。さらに声優初挑戦となった新海誠監督『天気の子』の舞台も新宿とあって、プロモーションでも同地を訪れていた森だが、「新宿にはいろいろな表情があって、今回はそのダークで、ディープな部分に入り込んでいくようで。とても新鮮でした」と発見も多かった様子。
「“トー横”周辺にはモニターがたくさんあって、1日中、あちこちから同時にいろいろな音が聞こえてくる。それだけでも圧倒されるものがありましたし、たくさんの情報を身に受けている感覚は体力を使うものなのか、何を食べても太らなかったんです。また“トー横”で寝そべっているシーンでは、外国の観光客の方から『彼女は大丈夫?』という視線を浴びることもあって。人が多すぎて、カオス感があるというか。自分の歯車が狂うようでもあり、そういった空気感もすべて受け取りながら、演じていました」と場所の空気も役に反映されたと話す。
◆「初めての単独主演作が、この映画でよかった」
両親に虐げられ、自分をうまく表現することができなくなった樹理恵。歌舞伎町に辿り着いてからも、彼女にはまた新たな試練が待ち受けている。森は「“じゅじゅ”はスポンジのように、いろいろなものを吸収していく女の子。それがいい方に向かう時もあれば、悪い方に突き進んでしまうこともある」と役柄について分析。
「私自身、樹理恵はハードなバックグラウンドや悲劇を抱えたヒロインだと捉えがちだった」というが、歌舞伎町に居場所を見つけた若者に取材を重ねた長久監督は「『どんなに深い地獄を味わっていたとしても、笑いながら“ヤバくない?”と過ごせるような強さを持っている』という話をしていて」と明かし、「たしかに、そうだよなと思ったんです。どれだけ辛いことがあっても、毎秒、悲劇を抱えて生きているわけではない。ゲームをするのだって楽しいし、みんなで話しているのも楽しい。そういった強さや、コントラストのようなものを大事にしていました」と役作りについて語る。
撮影中、樹理恵という役柄に没頭していた森は「当時は、苦しいとは感じなかった」という。しかし第42回サンダンス映画祭にて行われたワールドプレミア上映で客観的に映画を鑑賞した際、「“じゅじゅ”は苦しかったな、辛かったなと涙が出た」と打ち明ける。
「“じゅじゅ”に起きたこと、すべて。今思うと、そのひとつ一つが『ちゃんと悲しんでいいことだった』と感じて。“じゅじゅ”は苦しかったな、辛かったな…と泣いてしまいました。観客の皆さんと映画を観ていたので、『自分のお芝居で泣いている』と思われたらイヤだなと。顔を隠しながら、泣いていました」と樹理恵に心を寄せながら、照れ笑いをのぞかせる。
長久監督は「ピュアな役をたくさんやられている印象があったが、森さんの内側にはもっとドロドロとしたマグマのような真っ赤なエネルギーを抱えているのではないか、と勝手に想像していた」と明かしており、樹理恵役として森にラブコールを送ったそう。数々の役柄を演じてきた森にとっても、さらなる新境地を開いた作品となる。
「自分にとって初めての単独主演を務めたのが、この映画でよかったなと思っています」と目尻を下げた森は、「これから映画を楽しみにしてくれている方、すでに観てくれた方も『こういった役をやるんだ』と驚いてくれて、すごくうれしかったです。そこをしっかりと引き出してくれたのは、長久監督。そう思える作品に出会えてラッキーだなと思いますし、監督にとても感謝しています」と充実感をにじませる。
◆心に残り続ける、岩井俊二監督や是枝裕和監督との出会い
森は、2016年に地元の大分でスカウトされたことをきっかけに芸能界入り。今や映画やドラマに引っ張りだこで、出演作の途切れない俳優の一人となった。そんな中、森が転機だと感じている出来事は、オーディションを経て大役に抜てきされた映画『ラストレター』の岩井俊二監督との出会いだ。
「オーディションを受け続けていく中で、『自分のやりたいことをやって、それが好きじゃない、ダメだと思われるのならば、落とされてもしょうがない』と生意気にも思っていて。やっぱりそういうマインドでいないと、どんどん気持ちが落ちていくんですね。でも岩井さんが私を見つけてくれたことで、『そのままでいていいんだよ』と言われたような気がしました。自分がやること、自分が好きなものは間違っていなかったんだと肯定された瞬間。それは私にとって大きなターニングポイントで、確実に今の私にもつながっています」と感謝しきり。
「褒めてもらった言葉が心の中で生き続けて、大きなエネルギーになる」と素直に語り、はにかんだ森。「『舞妓さんちのまかないさん』の制作発表で、是枝(裕和)監督が『彼女の中には小さな樹木希林がいる』と言ってくださって…」と恐縮しながら、「びっくりしましたし、是枝監督がそう言ってくださったことがものすごくうれしかったです」と錚々たる名監督との出会いが、彼女の背中を押し続けている。
◆森七菜、無敵のマインドセット「好きなことだから、夢中」
主演の岡山天音と共に、日常を愛おしいものとして表現した2025年11月放送のNHK夜ドラ『ひらやすみ』での好演も、大きな話題を呼んだ。「ただただ撮影の毎日が楽しく、楽しくしていたらいつの間にか終わってしまった感じ。岡山さんと監督のおかげ」と懐かしんだ森だが、なぜいつもその作品世界の中の人として、伸びやかに生きられるのか。芝居に挑む上で、心掛けているルールなどはあるのだろうか。
「あります」と切り出した森は、「何も決めないこと。こだわりを持たないことを、大事にしています。やっぱり作品はみんなで一緒につくるものなので、誰かに反応しながら演じることが大事で、その方が私自身も好きです。そして自分の中で『これは絶対に見せたい』とか『これだけはやりたい』みたいなものを絶対に持たないこと。そこから始めるようにしています」と力強く語る。
現場に身を置いている時間が、「とても楽しい」と清々しい表情を浮かべる。「好きなことだから、夢中なんです。努力をしているというよりも、夢中。だからマインドとしては、無敵かなと思う瞬間もたくさんあります」と熱を込めつつ、「努力だと思い始めたら、そこからが本番かもしれない」と思案。
第12回TAMA映画賞で『ラストレター』において最優秀新進女優賞を受賞した際のスピーチで、森は「皆さんに驚いてもらうことが多かった1年。『なんだ、この小娘は?』というハテナを、『なるほど!だからか!』というびっくりマークに変えていきたい」と抱負を口にしていた。
それから約5年、まさにびっくりするような快進撃を続けている。そんな森が今、目指している俳優像は「ハラハラせずに、安心して見てもらえるような、信頼してもらえる俳優」だ。「『この人が出ていたら面白いんだろうな』とか、自分が好きな漫画やアニメのキャラクターでも『この人だったら、任せられるんじゃないか』と思ってもらえるような人でありたいと思っています」と笑顔を輝かせていた。
(取材・文:成田おり枝写真:高野広美)
映画『炎上』は、4月10日より公開。
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