【漫画】本編を読む
争いごとを嫌い、いつもニコニコと周囲に合わせる「いい人」のアヤ。しかし、彼女の周囲にはなぜか重苦しい空気が漂い、関わる人々は理由のない罪悪感に苛まれていく。
『こころのナース夜野さん』や『私だけ年を取っているみたいだ。』など、精神医療やケアの現場を繊細に描いてきた水谷緑(@mizutanimidori)さんの新作『被害者姫 ~彼女は受動的攻撃をしている~』。本作がスポットを当てるのは、暴言や暴力を使わずに相手をコントロールする「受動的攻撃(パッシブ・アグレッシブ)」という、日本社会に根深く潜む心理機制だ。
■「何でもいいです」の裏にある拒絶。相手を“加害者”に仕立て上げる技術
主人公のアヤは、自分の意見を主張しない。上司に誘われたランチで「イタリアンはどう?」と聞かれれば「何でも大丈夫です!」と笑顔で答える。しかし、いざ食事を始めると無反応を貫き、上司の問いかけを無視する。
「本当は嫌だったのかな?」と相手に思わせ、勝手に罪悪感を抱かせる。これこそが受動的攻撃の真髄だ。さらに彼女は、パンク寸前の仕事量を一人で抱え込み、あえて倒れてみせることで、周囲から「上司のパワハラだ」という同情を勝ち取る。無自覚あるいは半無自覚に「一番かわいそうなポジション」を陣取り、相手を悪者に仕立て上げていくのだ。
■「100%加害者が悪いのか?」 暴力の取材で見えてきた“相互関係”の謎
水谷さんがこのテーマに行き着いたきっかけは、DVや虐待の加害者への取材だったという。
「暴力を振るうのが悪いのは大前提ですが、100%加害者に非があるという考えに少し疑問を持ちました。被害者とされる側にも、何かあるケースがあるのでは?と専門家に聞いたところ、『受動的攻撃』という概念を教えていただいたんです。日本人は特にこの傾向が強いと聞き、取材を進めました」
心理士への取材や知人からのエピソード収集を重ね、日常に潜む「あるある」を徹底的にリアルに描き出した。
■「モヤモヤの原因」がわかれば、自分を守れる。本作に込めた処世のヒント
受動的攻撃は、程度の差こそあれ、誰もが無意識にやってしまう可能性がある。返事を遅らせる、聞こえないふりをする、ため息をつく。それは怒りを直接ぶつけられない弱者の武器でもあるが、度を越せば人間関係を破壊する毒となる。
「この考え方を知っておくと、『あの人といるとなぜかモヤモヤする』という時の原因がわかり、必要以上に自分を責めずに済みます。逆に、自分自身が『今、受動的攻撃をしてるな』と気づくことで、溜め込みすぎる前に意見を言うきっかけにもなるはずです」
単行本も発売中の本作は、人間関係の「正体不明の苦しさ」に名前を与えてくれる一冊だ。ニコニコしているあの人の、その“静かな攻撃”に気づいたとき、あなたの世界の見え方は一変するかもしれない。
取材協力:水谷緑(@mizutanimidori)
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