【画像で確認】豆腐一丁が絶品ごちそうに変わる「塩昆布とうめし」
ちょっとお疲れ気味の時、自分をいたわるやさしいご飯が食べたくなりますよね。そんな私たちの心と体に、そっと寄り添ってくれるのが料理家・美窪たえさんのレシピ。今回は、「note創作大賞2025 レタスクラブ賞」を受賞した美窪さんに、「やわらかcuisine(キュイジーヌ)」の誕生秘話から、日々の料理がもっと楽しくなるアイデアまで、たっぷりお話を伺いました。
美窪たえさん
料理家、料理する人、食べる人。J.S.A.認定ソムリエ / SAKE DIPLOMA|OLからバーテンダー・日本料理人・フレンチコックを経て「おとな料理制作室」として活動中|note創作大賞2025 メディア賞「レタスクラブ賞」受賞|『おとな料理制作室へようこそ』(ワニブックス)
▶note:美窪たえ|おとな料理制作室
▶X:美窪たえ|おとな料理制作室
▶Instagram:美窪たえ|おとな料理制作室
■始まりはバーテンダー。懐石料理の美しさに魅了され、料理の道へ
――まずは、美窪さんのこれまでの歩みについて教えてください。
美窪たえさん:実家が中華食堂を営んでいて、幼い頃から食がすぐそばにある環境で育ちました。初めの就職先は建築系の会社だったのですが、経営状況が変化していく中で、「自分の一生を支える“手に職”をつけたい」と強く思うように。そのとき、実家が飲食店だった影響もあって自然と食の世界に目が向いたんです。当時は空前のバーブーム。お稽古雑誌をめくっていたら、バーテンダースクールを見つけて「女性のバーテンダーって少ないし、何よりかっこいい!」と直感で決めて(笑)。働きながらスクールに通い、念願のバーテンダーとしての一歩を踏み出しました。
――バーテンダーから料理人へ、どのようなきっかけがあったのでしょうか?
美窪たえさん:バーのカウンターはお客様から手元がよく見える場所。先輩から「所作を美しく磨くために茶道を始めてみたら?」と勧められたのが転機でした。そこで初めて本格的な「懐石料理」の世界に触れたのですが、お茶室の静寂や、派手ではないのに凛としたしつらえの美しさに、言葉にできないほど感動してしまって…。「なんて素敵な世界なんだろう!」という衝撃が、日本料理の道へ進む決意をさせてくれました。
――そこから厳しい修行の道を選ばれたのですね。
美窪たえさん:ツテも何もない状態だったので、雑誌を見て「ここで働きたい!」と思ったお店に片っ端から自分で電話をかけました。運よく雇っていただけた料亭で、日本料理の基礎を一から丁寧に叩き込んでいただいたことは、今でも私の大きな財産です。その後、ご縁があってフレンチの世界を学び、さらにアメリカンデリの厨房で多国籍な料理にも触れる機会をいただきました。日本料理の繊細さと、西洋料理の自由な発想。その両方を肌で感じられたことが、今の私のスタイルを作っています。
その後、デザイン会社のフードプロデューサーとしてメニュー開発やイベント企画に8年ほど携わり、料理家として独立しました。遠回りしたようですが、どの経験も今のひと皿に繋がっていると感じています。
■料亭時代の「まかない」が原点。創意工夫で生まれる「おいしさ」の基礎
――プロとして多岐にわたる経験をお持ちですが、現在の料理スタイルの「原点」はどこにあるのでしょうか?
美窪たえさん:実は、修業時代に毎日食べていた「まかない」なんです。一般的に飲食店のまかないは、修行中の見習いが勉強のために作ることが多いのですが、私が最初に働いた料亭では、料理長である親方が自ら作るごはんを、毎日食べさせてくださいました。お店のストック野菜や、仕込みで出た魚のアラ、お肉の切り落としなど、形が不揃いだったり、ごく普通の手近な材料を使って、ササッと料理していくんです。普通の材料の組み合わせでも、ちょっとした工夫や気づきがあれば、驚くほどおいしいものがたくさん作れる。そのプロセスを間近で見て、実際に味わえたことが、私の今の料理の基礎になっています。
――これまでのお仕事を通じて、美窪さんが大切にされている「食への考え方」を教えてください。
美窪たえさん:飲食店ではサービスや価格も大切ですが、やっぱり何より大事なのは「おいしさ」だと思うんです。おいしいものを食べると、自然と楽しさや嬉しさが込み上げて、そこに笑顔が生まれますよね。私自身、料理が大好きなので、自分が食べて「おいしい!」と思えるものを作りたいですし、家族にもおいしく食べてほしい。だから、レシピを考えるときも自分で作るときも、「本当においしいかな?」という確認は、何よりも欠かさないようにしています。
――「おいしいかどうか」という確認。シンプルですが、とても大切ですね。
美窪たえさん:実はこれ、料亭時代の親方の教えなんです。修行中、親方に味見をお願いすると、まず「これは、おいしいのか?」って聞かれるんです。調味料を何杯入れたかとかいう理屈ではなくて、“まず自分が食べて心からおいしいと思えるものなのか”。その本質を叩き込まれました。だから今でも、私の料理の基準は「自分が本当においしいと感じるか」にあるんです。
基本的には「おいしいと感じるものが、結果的に自分の体に合っている」と考えています。忙しい毎日、毎食完璧に…とはいかない日もありますよね。でも、「おいしいものを食べたい」と心がけること自体が、心と体の健やかさに繋がっている気がします。
――「おいしい=体に合っている」というお話、すごく腑に落ちます!
美窪たえさん:必ずしも豪華なごちそうのことだけじゃなくて、たとえば、熱を出したあとに食べる温かな白粥。その時々に「おいしい、染み渡る…」と感じるものこそが、今の体が求めているもの。自分の体調と相談しながら、その時一番おいしいと感じるものを大切にしたいですね。
■「これなら食べられる」を「これが食べたい!」へ。「やわらかcuisine」の考え方
――note創作大賞2025では「レタスクラブ賞」を受賞されました。受賞が決まった時のお気持ちはいかがでしたか?
美窪たえさん:最初はとにかく驚きましたし、率直にものすごく嬉しかったです。しかも、自分が尊敬する料理家、料理人の方々がたくさん活躍されているレタスクラブさんから賞をいただいたことに、その驚きと嬉しさが何十倍にも膨らみました。
受賞をきっかけに、「もっと皆さんの日常に寄り添いたい」という想いがより強くなりました。誰にとっても分かりやすく、お料理そのものにもっと興味を持っていただけるような、ワクワクするレシピをお届けしたいと思っています。
――note創作大賞2025で「レタスクラブ賞」を受賞された「やわらかcuisine(キュイジーヌ)」。改めて、どのようなコンセプトなのか教えていただけますか?
美窪たえさん:「やわらかcuisine」は、単に食感が柔らかいだけではなく、「今日もおいしく食べられてよかった」と、また次の食事が楽しみになるような食後感を大切にしています。毎日、そしてこれからもずっと食べ続けていける料理、というのが大きなテーマです。
私自身、若い頃には感じなかった食の悩みを、年齢を重ねるごとに少しずつ感じるようになりました。周りからも「脂っこいものやお肉が続くと胃もたれする」「硬いものが少し食べにくくなってきた」という声をよく耳にします。そんな変化の中でも、「毎日食べたい!」と思えるおいしさを追求しました。
――「やわらかい料理」というと、少し物足りないイメージを持つ方もいるかもしれませんね。
美窪たえさん:そうなんです。食べやすくするために細かく刻んだり、くたくたに煮込んだりするだけだと、どうしても「食べた!」という満足感が薄れてしまいがちですよね。でも、そこに「おいしさ」という感動があれば、心もお腹も満たされて「また次も食べたいな」と思えるはず。タンパク質などの栄養面もしっかり意識することで、自然とバランスが整って、日常の食卓にスッと溶け込むおいしさになると考えています。
――「やわらかcuisine」という考え方は、どのようなきっかけで生まれたのでしょうか?
美窪たえさん:最初のきっかけは、実は私自身の「大腸検査」だったんです。病院で「検査の前日は、消化の良いやわらかい食事にしてください」と、食べてもいい食材が載ったプリントを渡されたんですね。それを見た瞬間、「これとこれを組み合わせれば、もっとおいしくなりそう」「こんな調理法なら楽しく食べられるはず!」と料理のイメージが浮かんできました。
そこから思考を広げていくと、世の中には「やわらかくてやさしい食事」を必要としている方がたくさんいらっしゃることに気づきました。たとえば、歯の治療中の方や大人の歯列矯正を始めたばかりの方。あるいは、年齢を重ねて少しずつ食事がしにくくなってきた方。そういった方々に向けて、制限を感じさせないメニューを提案したいと思ったのが始まりです。健康な方も、少し食に不安がある方も、家族みんなで同じ食卓を囲んで「おいしいね」と笑い合えるレシピ。そんな一皿があってもいいですよね。
■お豆腐ドーン!のインパクトと驚きの食べやすさ「塩昆布とうめし」
――受賞作のひとつ「塩昆布とうめし」は、お豆腐がドーン!と乗った見た目のインパクトに驚きました。
美窪たえさん:見た目のインパクトはすごく大事にしているポイントなんです。「塩昆布とうめし」の場合、お豆腐を崩してしまったり、半分に切って出したりすると、どこか普通でワクワクしないので、あえて「1丁まるごと」お皿に乗せることにこだわりました。特別な材料でなく、「お豆腐」に「塩昆布」というみんなが知っているお馴染みの組み合わせだからこそ、「えっ、これ何?」「食べてみたい!」と思ってもらえるような、ちょっとした驚きを大切にしています。
「1丁は多いかな?」と思っても、見た目に反して意外とペロリといけちゃうんですよ。煮ることで程よく水分が抜けていますし、味がしっかり染み込んでいるので、食べ終わる頃には「もっと食べたかった!」なんて声もいただくほどなんです。
――これなら、お豆腐をたっぷり食べられて健康にも良さそうですね!
美窪たえさん:中には「塩昆布をたくさん使うから塩分が気になる」という方もいらっしゃいますが、煮汁をすべて飲み干すわけではありませんし、残った煮汁は旨みがたっぷり。次にご飯を炊くときに加えたり、煮物に使ったりと無駄なく活用できます。ベースの茶飯にも油揚げをプラスしてコクを出しているので、満足感もばっちりです。
■「紙ごと揚げ焼き」がポイント。ふっくらジューシーな「ペーパーチキン」
――「やわらかcuisine」以外にも、ご自身で「これは面白い仕掛けができた!」と手応えを感じているレシピはありますか?
美窪たえさん:シンガポール料理の「ペーパーチキン」を初めてお店で食べたとき、そのおいしさに感動して、お家でも作れるようにアレンジしたレシピを考えました。作り方は、オイスターソースなどで下味をつけた鶏もも肉をクッキングシートで包んで、そのまま“紙ごと”揚げ焼きにするというもの。紙の中で鶏肉自身の水分が蒸気となって、じっくり蒸し焼きにされるんです。そこに程よいオイリーさが加わって、驚愕のおいしさになりますよ!
――このレシピで工夫したのはどんなところでしょうか?
美窪たえさん:お家でたっぷりの油を使って揚げ物をするのは、準備も後片付けも大変ですよね。そこで、このレシピは「少なめの油での揚げ焼き」で作れるように工夫しました。少ない油だと中まで火を通すのが少し難しいのですが、そこは「蓋をして蒸し焼きにする」という、揚げ物としてはちょっと禁じ手のような裏技で解決しています。水滴が油に落ちないよう、蓋の開け閉めには注意が必要ですが、コツさえ掴めばとっても簡単なんです。
そして、家で作りやすいように、変わったスパイスは使わず、どのご家庭にある調味料だけで味付けしました。材料も、鶏肉、長ねぎなど馴染みのあるものだけで作れるので、味の想像がつきやすいことからか、「紙で包むのは少し面倒だけど、絶対おいしそうだから試してみたい!」と、多くの方に興味を持っていただけたようです。
***
「おいしいと感じるものは、その時の自分の体に合っているもの」という言葉は、忙しさに追われてつい自分の食事を後回しにしてしまう私たちに、「もっと自分の感覚を信じていいんだよ」とやさしく教えてくれているようです。
取材・文=宇都宮薫撮影=川上朋子 (美窪さん)
【関連記事】
・
【インタビュー後編を読む】料理家・美窪たえさんに教わる「ワクワクする台所」の作り方。おすすめ料理とキッチンツール
・
手軽に冷凍ブロッコリーで作れる!「ブロッコリーのくたくたスパゲティ」【やわらかcuisine】
・
あんが絡んでなめらかでやさしい口当たりに!「焼きおにぎりのあんかけ雑炊」【やわらかcuisine】
・
食パンの耳までしっとり食べやすい!「蒸しサンドイッチ」【やわらかcuisine】
・
疲れた日のご自愛ごはんに。豆腐一丁が絶品ごちそうに変わる「塩昆布とうめし」【やわらかcuisine】