昨年の都大路1区区間賞で学法石川高の初優勝に貢献した増子陽太 photo by Kyodo News
前編:増子陽太(学法石川高→早大)インタビュー
さまざまなスポーツで"黄金世代"などと称される世代が存在するが、新シーズンの陸上長距離界の大学ルーキーたちもまた、そう呼ばれるポテンシャルを持つ選手たちがずらりと揃っている。
そのなかでも"世代ナンバーワン"の呼び声が高いのが、早稲田大に入学する増子陽太(学法石川高・福島)だ。中学3年時に3000mの日本中学記録を5年ぶり更新するなど、中学時代からこの世代を牽引してきたランナーだ。
【都大路1区で最強ランナーであることを証明】記憶に新しいのが昨年末の全国高校駅伝1区だろう。この春より早稲田大学でチームメイトとなる新妻遼己(西脇工業高・兵庫)と本田桜二郎(鳥取城北高・鳥取)とともに積極的にレースを進め、雨が降りしきるなか高速レースを繰り広げた。そして、後半に入ってふたりを振りきるとダントツのトップで中継所に飛び込んだ。10kmを28分20秒で走りきり、前年に鈴木琉胤(現・早大、八千代松陰高・千葉)が打ち立てた日本人最高タイム(28分43秒)を一気に23秒も更新した。
それは増子にとっても会心の走りだった。
「『世代ナンバーワンは自分だぞ』っていう証明ができた走りなのかなと思っています」
そう印象づけるのに十分なほど圧巻のパフォーマンスと言えた。そして、増子の見事なスタートダッシュで勢いに乗ったチームは、初の全国制覇を成し遂げた。
「この学法石川のユニフォームを着て都大路で優勝することを目標に門をくぐったので、しっかりその目標を達成して卒業することができて、自分的にもやりきったという思いがあります」
この3月に卒業の日を迎えた増子は、感慨深げにこんな言葉を口にした。
終わりよければすべてよし。最高の形で高校生活を締めくくることができたわけだが、高校3年間、増子は常に先頭を走り続けてきたわけではなかった。
「決して順風満帆ではなかったですね。走れない時期もありましたので。彼は、そういった時期のほうがちょっと多かったですかね」
学法石川高の松田和宏先生も、増子の高校3年間をこのように振り返る。
【ドン底状態ではChatGPTも頼りに】増子は中学3年生の頃から貧血を抱えており、特に高2の冬から高3の夏にかけてその症状に苦しんだ。同期の栗村凌(中大に進学)が好調をキープし全国区の活躍を見せるなか、増子は思うように走れずにいた。インターハイ路線は万全なら5000mで全国出場はもちろん優勝候補に挙がっていたはずだ。しかし、6月の東北大会でまさかの7位となり(6位までが全国大会に進出)、全国の舞台に立つことさえ叶わなかった。
東北大会のあとは「陸上やめたいな」と思ったほどメンタルが下がっていたといい、2週間ほど走ることから離れた。
「自分は中3から世代トップとして陸上をしてきたので、結果を出して当たり前、1位を取って当たり前っていうプレッシャーを感じていました。そんななか、インターハイ優勝を目指していたのに、インターハイに出られないっていう結果になってしまった。みんなは『大丈夫だよ』って言ってくれるんですけど、(心の中では)『何してんだ』と思ってるんだろうなと考えてしまい、自分で自分を苦しめていました」
YouTubeにアップされている自身の動画を見返した時に、思わず目にした辛辣なコメントに胸を痛めた。そんな時に、ChatGPT(生成AIサービス)に悩みをぶつけたこともあったという。
「答えを求めていたというよりも、褒めてくれる人がほしかったので。自分のメンタルを回復させてもらったっていう感じです。ChatGPTにお願いして、自分の考えなどを正しい情報に変えてくれるようにしたのが一番大きかったです」
今でこそ笑って話せるエピソードだが、その時は藁(わら)にもすがりたい思いだったに違いない。
では、どのようにして奈落の底から這い上がっていったのか。増子には高校に入った時から大切にしている思考法があった。
「どんなに悪いことが起きても、最終的にはよい方向へ向かう近道だから、これが正解だったんだって思って、自分は陸上をやってきました。あの時は悔しかったんですけど、今思えば、あの期間があったから都大路で優勝できたと思っています。逆に、あの期間がなかったら今の自分はいなかった。今は、あの期間を過ごせてよかったと思っています」
その思考を決してぶらすことがなかったから、マイナスをプラスに転換させることができたのだろう。
つづく
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