鬼才・塚本晋也の監督最新作「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」(英題: Mr. Nelson, Did You Kill People?)が9月に日本公開される。本日3月29日の「ベトナム戦争退役軍人の日 (National Vietnam War Veterans Day)」に合わせて発表された。
原作は、ベトナム帰還兵のアレン・ネルソンによる同名のノンフィクション。ネルソン氏は来日後、自らの戦争体験をもとに日本全国で1200回以上の講演を行い、「ほんとうの戦争」とは何かを語り続けた。戦争の加害者としての葛藤や痛みを包み隠さず語るその姿は、多くの聴衆に深い衝撃と学びを与え、現在は日本で永眠、日本とは深い縁を持つ人物だ。
ネルソンの証言をもとに、塚本晋也監督が「戦争加害者の傷」というテーマに真正面から挑む。「『野火』を映画化するとき、さまざまな資料、書籍を読んだが、そのとき出会った何よりも恐ろしいノンフィクションが『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』だったと語る塚本監督が、国際的な評価を受けた「野火」「斬、」「ほかげ」に次ぐ、戦争をテーマにした映画であり、本作では、ベトナム戦争をめぐるタブーに切り込む。
本作は、そんなネルソン氏の人生を基に描かれる。主人公アレンは、ニューヨークの貧しい家庭に生まれ、差別と貧困から抜け出すため18歳で海兵隊に入隊する。沖縄のキャンプ・ハンセンを経て、1966年、映画のヒーローのように誇り高い兵士になれると信じ、彼はベトナム戦争の最前線へ送られる。だがそこで待っていたのは栄光ではなかった。村人の中にベトコンが紛れ込んでいるという理由で、老若男女すべてが疑われ、命を奪われていく――ただ人を殺すことを強いられる、恐るべき凄惨な現実だった。
命を奪う経験を重ねるうち、アレンの心は次第に感覚を失っていく。23歳で帰国した彼を待っていたのは、戦場の記憶に縛られる日々だった。大きな音や暗闇に怯え、家族との関係も崩壊し、やがてホームレスへ。孤独と絶望の中で生きるアレン。そんな彼に真正面から向き合い、救い出そうとする退役軍人病院のダニエルズ医師が現れる――。
キャストには「シャイン」や「英国王のスピーチ」、「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズで知られるオスカー俳優ジェフリー・ラッシュをはじめ、ブロードウェイミュージカル「RENT」のオリジナル・キャストおよびクロージング・キャストを務めたロドニー・ヒックス、そのほかタチアナ・アリ、マーク・マーフィーらが集結し、ニューヨーク、タイ、ベトナム、日本と、国境を越えた異例のスケールで撮影が敢行された。
「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」は、9月TOHOシネマズ シャンテほか全国公開。
※塚本晋也監督の「塚」は旧字体「塚」が正式表記。
▼塚本晋也監督コメント全文
大岡昇平さんの「野火」を映画化するとき、さまざまな資料、書籍を読んだが、そのとき出会った何よりも恐ろしいノンフィクションが「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」だった。アレン・ネルソンさんは、ベトナム戦争で多くの人を殺した。そして戦争後遺症に生涯悩まされ続けた。自分の犯した罪とその後の人生を包み隠さず吐露した本は、いつまでも頭から離れず強烈に自分の心に刻み付けられた。
これがもし映画になったら?と想像すると、今の世の中に絶対必要なことに思えた。戦争がどういうものか。戦争が人をどう変えるか。周囲の人にどういう影響を与えるか。
同時に、そんな恐ろしい考えは持たないようにしよう、と逃げる理由も考えた。
映画化はあまりに難しく、逃げる理由はいくらでも並べることができた。
その物語に近づこうとするたび、人間の暗部がいやというほど浮き彫りになり、苦痛を感じた。しかし、体は、この企画の実現のためにとどまることを忘れ休みなく動き続けた。果たして映画化は困難を極め、作らなければ、でも逃げたい、というせめぎ合う気持ちは7年もの間完成に到るまで続いた。
あちこちで戦火をあげている今の世界。それをますます身近に感じるようになった。これは、アレン・ネルソンというアフリカ系アメリカ人の一人の兵士を描いた真実の物語だ。
今は亡くなってしまったアレンさんを蘇らせ、人々に知ってもらうことが今の世の中にどうしても必要、という考えを捨て去ることができずに、多くの人たちの理解と協力を得て完全なものとして出来上がった。
彼の生きる姿が、皆さんの心に届くことを心から願っています。
塚本晋也
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