故・坂本龍一さんが発起人となり、東日本大震災で被災した3県の学生たちで結成された「東北ユースオーケストラ」による、「東北ユースオーケストラ演奏会2026」東京公演が3月26日、東京・サントリーホール大ホールで行われた。俳優・のんが、昨年まで同東京公演で朗読者を務めていた吉永小百合からの指名を受け、平和を題材とした4つの詩を朗読した。
今回で11回目となる同公演では、栁澤寿男の指揮、映画「ラスト・エンペラー」のテーマで幕を開けた。荘厳な楽曲が若き演奏者たちの生き生きとしたエネルギーをもって、ダイナミックに展開された。そして、作曲家・藤倉大のオーケストレーションによる「バレエ・メカニック」に続き、坂本による未完のスコア譜をもとに、藤倉がオーケストラ版を完成させた「Tong Poo」が初披露となった。YMOの代表曲のひとつであり、テクノポップの名曲として知られる同楽曲が、オーケストラ楽器それぞれの音色の特性を活かした見事なアレンジ、新鮮な表現で生まれ変わり、会場を沸かせた。
「戦場のメリークリスマス」が情感たっぷりに奏でられた後、第1回公演から指揮者を務めた栁澤が今期での勇退を発表した。現在、小学5年生から大学院生までという幅広い年齢層のメンバーを束ねており「鍋やヤカンを叩いてでも参加してもらう……そういう坂本さんのスピリッツが脈々と受け継がれている」と、それぞれの経験値で音を楽しむ団員たちを評し、「坂本さんは晩年は響きにこだわってらっしゃた。私も音を出すのはどういうことか11年考え続けた」と思い出を語った。
そして、のんが登場し「Kizuna World」「Still Life」「Aqua」の演奏とともに、吉永小百合が選んだ4編の詩、ヘルマン・ヘッセ「白い雲」(訳・高橋健二)、和合亮一「風に」、パレスチナ・ガザ地区の作家、詩人で、2023年イスラエルの空爆により死去したリファト・アルアライール「わたしが死ななければならないのなら(原題:If I must die)」(訳・松下新土+増渕愛子)、安里有生「へいわってすてきだね」を朗読。平和への願いが込められたひとつひとつの言葉を大事に、優しさと力強さを込めて読み上げた。
のんは「皆さんの演奏と一緒に朗読させていただき感謝でいっぱい。毎回特別な気持ちになって、パワーをもらっています。がんばりました」と朗読後の感想を語る。のんは吉永小百合主演作、映画「てっぺんの向こうにあなたがいる」(2025/阪本順治監督)に出演しており、吉永が演じた主人公の青年期という役どころから、共演シーンはなかったものの、のんの撮了日に吉永が雪山をサプライズ訪問し、キャストやスタッフを激励したという逸話を披露した。
また、この日の会場に向けた吉永からのメッセージが届いた。坂本との出会いとなった2010年のコンサート「吉永小百合平和への絆」からの歩みを振り返り、団員たちに向け「きっとまた、どこかでご一緒できることでしょう」と期待を込め、「坂本さんは大空の向こうから今も私達をしっかり見守ってくださっていると思います」というメッセージをアナウンサーの渡辺真理が代読した。
休憩を挟み、後半のプログラムはベートーヴェンの交響曲第5番「運命」。坂本が作曲を習い始めた11歳の時に、始めて自分で購入したオーケストラスコアがベートーヴェン作品であったことから本楽曲が選ばれ、第4楽章まで途切れることのない緊張感と、力強い演奏で幕を閉じた。アンコールでは、坂本龍一の「Etude」が奏でられ、観客の手拍子も加わる華やかな大円団となった。
東日本大震災から今年で15年。現在の「東北ユースオーケストラ」では、すでに震災を知らない年齢の子どもも参加しているという。未就学児も含む、子ども連れの観客も少なくなく、幅広い世代が時代を超えた音楽の豊かさに触れられる場となっていた。
震災の記憶を「風化させない」という坂本龍一の強い思いから、出演者のひとりひとりが平和と命の重さとありがたみを伝え、繋いでいく公演であり、終演後は割れんばかりの拍手がいつまでも鳴りやまなかった。
【作品情報】
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てっぺんの向こうにあなたがいる
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