「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2025」の合評上映会が3月24日に東京・築地の東劇で行われ、昨年夏のワークショップに参加した15人の中から選抜された辻井俊、中田江玲、八代夏歌、鴨林諄宜の4作家が最終課題である短編映画を完成し、披露した。
「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」は、日本映画の振興の一環として文化庁より特定非営利活動法人 映像産業振興機構(VIPO)が委託を受け、2006年度よりスタート。次代を担う長編映画監督の発掘と育成を目指し、プロのスタッフの指導のもと、オリジナル脚本で25分から30分の短編映画を製作。同時に作品発表の場も提供している。
これまで多くの商業映画監督を輩出している本プロジェクト。第77回カンヌ国際映画祭で「ナミビアの砂漠」が国際映画批評家連盟賞を受賞し、山中瑶子監督(ndjc2019)は同賞を女性監督として最年少で受賞した。第78回カンヌ国際映画祭「監督週間」には、「見はらし世代」を手がけた団塚唯我監督(ndjc2021)が日本人史上最年少で選出。さらに、第30回釜山国際映画祭コンペティション部門に選出された志萱大輔監督(ndjc2020)の初長編作品「猫を放つ」は今年5月に、「ndjc2014」の吉野耕平監督「君のクイズ」、「ndjc2008」の中野量太監督「私はあなたを知らない、」、「ndjc2009」の岨手由貴子監督「すべて真夜中の恋人たち」など、続々と公開予定となっている。
4作家の作品は脚本指導後、製作実地研修として昨年11月から順次クランクインし、今年1月の仕上げを経て完成。合評上映会での上映後に監督、キャストが舞台挨拶に登壇した。
「36万リットルのオーバーフロー」の上映後に辻󠄀井監督、辻陸が登壇。本作の着想について、辻󠄀井監督は自身がアルバイトをしていた経験がきっかけだったと明かし、「プールで何か撮れないかなと考えていたタイミングでndjcの募集があり、プールを舞台にした物語を描いてみたいと思った」と振り返った。
また、監視員でありながら泳ぎが苦手な主人公・福呂のキャラクターについては、「アルバイト中に、水ですべって転び、大量に血が出たことがあって。ひとりで何をやっているんだろう…という誰かに言うほどでもない感情から、福呂というキャラクターをつくりあげた」と語った。
一方、主演の辻は撮影直前に脚本から大幅にセリフが削られ当初は戸惑いもあったという。しかし、辻󠄀井監督から「福呂は水平線に停滞している船のような存在。周りのキャラクターが強い波を起こすので、それに身を任せればよい」とアドバイスを受けたとのことで、「それまでキャパオーバーだったが、その演出が役に立った」と感謝の思いを述べる場面も見られた。
「繰り返す女」の上映後には中田監督、伊藤歩が登壇。近年のトレンドである「シスターフッド」からはあえて逆行し、「連帯できない二人の女性」を描くことから出発したという中田監督。「協調性を持たない人物同士だからこそ、自分の欲望や情熱をそのまま相手にぶつけていく。その滑稽さや、愛らしさを描きたかった」と制作意図を明かした。
脚本については「ト書きをたくさん書く」ことを意識していたといい「青山真治監督の『ユリイカ』を読んだ際、『ト書きって、こんな小説みたいに書いていいんだ』と気づいたことで自分の書き方も変わった。セリフが少ない分、情報を補うためにト書きを重視して書こうと決めた」と述べた。
一方、劇中でセリフがほとんどない難役に挑んだ伊藤は、中田監督の演出について「表情で説明しすぎないよう細かくチューニングしてもらった。最初は自分の芝居がダメなのかと傷ついたりもしたが、完成した映像を見てその意図を理解できた」と振り返り、「才能のある監督なので全て委ねることができた」と信頼を寄せた。
「うねうねとまっすぐ」の上映後には八代監督、大和奈央、小方蒼介が登壇。発想のきっかけについて八代監督は、「恋愛関係ではないけれど、2人だけが通じ合い、潜在的に惹かれ合っていく関係性を描きたいと考えたことから着想した」と解説。
登場人物の造形については自分の体験が反映されており、「タイ行きの飛行機の中で、自分のうねった髪に視線を感じたことがあった。そのとき、こういう髪をした主人公の映画があったら面白いのではないかと思ったことが、キャラクターの着想につながっている」と振り返った。さらにタイトルには、「うねうねとした複雑な思いを抱える少女が“素直”という名の少年と出会うことで、最終的にまっすぐ前に進めるようになる」という意味が込められていると明かした。
また、キャスト陣も八代監督の人物像に言及。大和は「アイデアが豊富で、年齢が1つしか変わらないとは思えないほど指示が的確だった」と語り、小方も「大人びた一面と無邪気な一面のギャップが魅力的だった」と評するなど、現場での信頼関係の強さがうかがえた。
そして、「巡り巡る果て」の上映後には鴨林監督、平埜生成が登壇。これまで鴨林監督が自主映画制作において抱いてきた「現実に起きる事件や事故に映画はかなわないのではないか。映画は偽物なのではないか」という思いを出発点として生まれたという本作。その葛藤を踏まえ、物語の中に“本物”と“偽物”を組み込む試みがなされた。
劇中では、登場人物の背景情報をあえて削ぎ落とし、観客の想像力に委ねる演出を徹底。また、平埜をはじめとする俳優陣には、「悲しみを悲しそうに演じないこと」「説明的な演技から距離を置き、わかりやすさから離れた演技をすること」といった演出が与えられたという。こうした抑制された表現により、観客自身の想像力を刺激する作品となっている。
一方、主演を務めた平埜は現場での監督の印象について、「動かない鳥」として知られるハシビロコウのようだったと語る。「たたずまいが巨匠のようで、静かに現場を見守り、一切の迷いがない」と称賛。また同時に、「監督は驚くほど柔軟で、自身の考えに固執することなくキャストやスタッフの意見を積極的に取り入れ、演出を変化させていく姿勢に感銘を受けた」と明かした。
4作品の上映終了後、「ndjc2025」の安藤親広スーパーバイザーが登壇し、「ndjc」が20周年を迎えたことに触れながら、「長い年月の中でトライ・アンド・エラーを重ね、本プロジェクトは着実に熟成されてきたのだと感じた。今回初めて参加したが、非常に素晴らしく、贅沢な育成システムだと思う。今回の4名の監督たちは、本作を名刺代わりに今後映画業界と向き合っていくことになる。私たちもここで終わりにするのではなく、このご縁を大切にしながら引き続き彼らを支えていきたい。本プロジェクトが今後も長く続いていくことを心より願っている」と述べた。
なお、4作品は東京の恵比寿ガーデンシネマと大阪のテアトル梅田で4月24日から30日まで、名古屋のミッドランドスクエア シネマで5月22日から28日まで1週間限定上映。そのほか全国公開も予定されている。
【作品情報】
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