(撮影/Manabu Matsunaga)
3月24日(火) 7:00
自分が本当に好きだと思うものに囲まれて暮らしたい。そう願う人はきっと少なくないはずです。パリ11区にお住まいのフランスさんは、文字通りそんな暮らしをしています。1年前に引越したばかりという、60平米のアパート(アパルトマン)にお邪魔しました。(文・角野恵子)
住まい丸ごと買いたい !?可愛いコレクションがずらり玄関を入ると収納棚にレトロな器が飾ってあって、しかもそれはコート掛けを兼ねた優れもの。すぐお隣はキッチン。古いカフェオレボウルやキッチンツールが並ぶ宝の山を通り抜け、さらに進んでゆくと……?
「かわいいパリの部屋」を再現していて映画さながらですが、ここはスタジオセットではなく、フランスさんが暮らしている正真正銘のアパートです。とはいえ、ここまで壁という壁、棚という棚のすみずみまで丁寧にデコレーションが行き届いた可愛らしいテイストのお住まいは、パリ中を探してもなかなか巡り会えません。このセンス!フランスさんは、一体どんな人物なのでしょう?現在はリタイア生活をされていますが、アクティブだったころのご職業は?もしや、プロの蒐集家でしょうか?
「いえいえ、プロではありません。ブロカントが趣味で、もう40年ほど集めていますが、これが本業であったことは一度もないのですよ。もともとはグラフィックアーティストで、広告会社に勤めていました」と、フランスさん。
ブロカント、とは古い雑貨や家具、オブジェのこと。またはそれを売る店のこと。フランスでは「アンティーク」と「ブロカント」は別もので、一般的にアンティークは100年以上たったもの、しかも銀器やクリスタルなどの高価なものを指します。貴重なアンティークとは違って、ブロカントは、ちょっとレトロな生活用品という感じ。フランスの田舎では今でも使われているような、身近な品々です。
フランスさんはグラフィックアーティストだった時代から蚤の市やフリーマーケットを巡り、この「ブロカント」と称されるグッズを集めるのがライフワークだったと言います。時には自分でもフリーマーケットにスタンドを出して、集めたグッズを販売することも。フランスさんのスタンドはきっと選りすぐりが集まった、掘り出し物の山のはず!ぜひのぞいてみたいです。
「春以降の天気のいいシーズンになったら、またスタンドを出すと思いますよ。フリーマーケットは、友達と一緒に参加すると楽しいものです。いろんな人と会話ができますし、友達にスタンドを任せて他の出展者のスタンドを見て回ることもできますから。自分一人だと、持ち場から離れられないでしょう?」
ふふふ、と、チャーミングに笑うフランスさん。女性の一人暮らしの穏やかな雰囲気と、心地よいこのお住まいをコツコツとマイペースで紡いでいるゆったり感が、その笑顔から伝わってくるのでした。
現在のアパートに引越す前は、同じ11区にある46平米のアパートに20年間暮らしていたというフランスさん。
「1984年からずっとこのエリアに住んでいます。社会人になって親元を離れるタイミングに、アリーグル市場の雰囲気が気に入って暮らし始め、以来、他のエリアに引越したいと思ったことすらありません(注釈:
美術修復家エドワーさんもアリーグル市場に惹かれてこのエリアに魅了された1人
)。今回の引越しの理由ですか?前のアパートはエレベーター無しの4階、今のアパートはエレベーターがある3階です。荷物を持っての昇り降りがだいぶ楽になりましたし、スペースも14平米広くなってオブジェをたくさん飾れます。はい、とても暮らしやすいです。もう引越しをすることはありませんよ!(笑)」
いわば終の住処である現在のアパートは、中庭に面していて静かなことも好条件の1つです。また、道路側だった以前の住まいに比べて、埃も少ないとか。オブジェをたくさん陳列しているフランスさんにとって、これも嬉しいポイントです。
ちなみに、以前住んでいた46平米も、現在の60平米も、持ち家なのだそう。46平米を売って、60平米を購入 ?!そんなことが可能になるのが、不動産売買の面白いところ。20年間で平米単価が上昇し、フランスさんは見事、暮らし変えに成功したのでした。
さて、そんな現在のアパートに引越す際に、リノベーション工事は行ったのでしょうか?もし行ったとしたら、それは自力で?
「キッチンとリビングの間のドアを取り除き、壁を半分くらい残してセミオープンに変えました。いえ、自力ではなく、プロに依頼しましたよ。リビングとベッドルームの壁も同様に、セミオープンに。ドアがなくなったおかげで、住空間全体に広がりが生まれました。全部オープンにしなかったメリットとして、寝室のプライバシーが保てています」
確かに、ちょっと仕切りがある方が、空間ごとの用途が明らかになって使いやすい印象を受けます。また、リフォーム工事はプロに依頼しつつも、棚をつける作業はフランスさんが自力で行ったとのこと。ブロカントが趣味のフランスさんにとって、古いものの修理修繕はお手のもの。その延長で、ちょっとしたDIYは、自力で抵抗なく行うのだそうです。だからこそ、部屋の隅々まで小さな棚やキャビネット、絵画や飾りで埋め尽くされているというワケ。これだけの数の設置を誰かに頼んでいては時間がかかってしょうがないでしょうし、また、自分の思い通りには仕上がらないリスクもあります。自分でできる、ということは、お気に入りの住まいをつくる上で、大きな強みといえます。
それにしても、これだけたくさんのコレクションが並びながら、全体としては整然と整った印象であるのはなぜでしょう?きっと、ディスプレイのコツがあるはずです。
「そうですね……自然にこうなるので自分ではわかりませんが、どのオブジェにも自分の場所があるので、それをリスペクトしています。彼らは飾りであると同時に使えるものですから、用途を考えて置く場所を決めて。そしてこのように居場所が決まっても、気が向いたら販売をして手放すこともあり得ます。ずっとこの形で動かないというわけではないのです」と、フランスさん。
置きっぱなしではなく、使用したり、手放したりするからこそ、埃がたまらないのかもしれません。
また、フランスさん自身は無意識だと言いますが、住まいの取材を続けている者の目から見れば、そこにある種のルールがあるのは明らかです。もっともわかりやすいルールは、「仲間同士をまとめること」。キッチンにはキッチンのもの、リビングにはリビングのもの、作業場には作業場のものを置く。そして同じ用途のものをまとめる。使いやすさを考えれば当たり前のことですが、このルールが守られていないケースが、片付かない悩みを抱えたお住まいにはよくあります。ブロカント好きを自称するフランスさんは、コレクションしたカフェオレボウルはキッチンにまとめて、人形の頭は本棚の一角にまとめて、といった具合に陳列をしています。こうすることで集めたものたちがディスプレイとして空間に映えますし、住まい全体を見た時にも統一感があり、片付いて見えるというわけです。
もう1つのルールは、「飾る場所と飾らない場所を決めること」。例えば、ベッド周りは、あまり物が置かれていません。そうすることで安らぎの空間を演出している、と住まいの取材を長年続けている者の目には明らかです。これとは反対に、ご自身の作品である油絵は、複数まとめて飾ることでより一層見応えのある壁面に。このメリハリも、住まい全体がまとまって見える、また片付いて見えるポイントでしょう。
フランスさんが、どんなふうに自分のコレクショングッズと付き合い、どんなふうに住まいづくりをしているかがわかりました。悠々自適といえる毎日を過ごす中で、フランスさんはこれからの生活をどんなふうにイメージしていらっしゃるのでしょう?ひとまず、バカンスのご予定は?
「私の父はパイロットでしたので、家族みんな旅が大好きでした。私も小さいころからだいぶ遠くへ行きました。本当にいろんな土地へ。でももう大きな旅行をしたいとは思いません。バカンスも、当時は南仏の地中海沿いにあった別荘で夏休みを過ごしたものですが、今ツーリストでごった返すコートダジュールに行きたいとは思いません。
私には娘がいて、彼女は田舎にセカンドハウスを持っています。そこを時々たずねるくらいがちょうどいいです。それから天気が良くなったら、またブロカント巡りをするでしょう。きっと出店もしますよ。リタイアして田舎に引越す人もいますが、私は映画館に行ったり、友人を招いたり招かれたり、カフェに行ったり、外食したり、そんな暮らしがやっぱり好きなのです。幸い、友人たちもみんなパリ暮らしを続けています。それに、アリーグルの市場もありますしね!今日の暮らしを、明日も、その次の日も、のんびり続けてゆくと思います」
75歳のパリジェンヌ、フランスさん。いつか彼女が出店するフリーマーケットのスタンドに、ばったり遭遇したいものです。きっとその時も今日と同じ穏やかな笑顔で、迎えてくれる気がします。自分のリズムで生きる人特有の、落ち着いた雰囲気をたたえつつ。
フランスさんの娘が週末だけ営業しているブロカントショップ。セカンドハウスの一角がショップになっている。
Ma Chinerie
Instagram MA_CHINERIE
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