幼い子どもは、大人が思う以上に家庭の空気に敏感だと言われています。怒鳴り声や威圧的な態度を日常的に見聞きする環境は、子どもに強い恐怖や不安を与え、情緒や発達に影響を及ぼす可能性があると指摘されています。
こども家庭庁の児童虐待防止対策では、子どもに対する言葉による脅しや無視といった行為、子どもの目の前で家族に対して暴力をふるう行為などを「心理的虐待」としています。これらの加害者は必ずしも親とは限らず、他の同居家族や親族というケースも少なくありません。
今回お話を伺った麻美さん(仮名・32歳)は、まさに「家庭の中の緊張を、幼い子どもが吸い込んでしまう」環境で生活していました。
気の抜けない義実家での暮らし
麻美さんは、結婚3年目で2歳になる息子・宏樹くん(仮名)を育てながら義実家で同居する生活。夫は出張続きで家に不在がちで、義父母との関係に深刻に悩まされていました。
「プライベートはほとんどなく、何をするにも義父母に報告が必要で……まるで支配されているよう。気を抜ける瞬間なんてない、そんな毎日でした」と麻美さんは語ります。
とりわけ問題だったのは、普段から威圧的で、さらにお酒が入ると性格のねちっこさが何倍にも増幅されるタイプである義父の存在。家庭内での威圧的な言動が慢性化すると、周囲はそれを『性格だから仕方がない』と受け流してしまうことがありますが、大声で怒鳴る・威圧する・萎縮させるといった精神的暴力は、立派なDVです。
まだ幼い、2歳の孫まで怒鳴りつける
「義父は私だけでなく、まだ2歳で幼い宏樹に対しても容赦なく『こら! ちゃんと座れ』『何で落とすんだ! しっかりしろ』と、会社の部下を叱責するような調子で大声を上げるんですよ」
しかも、それは偶発的なものではなく、むしろ習慣的で……お酒を飲んだ義父は、宏樹くんの一挙一動を監視するように目で追い、揚げ足を取る隙を虎視眈々と狙っているような不気味な態度を見せることもありました。
「何度も『そんなに怒鳴らないでください』と伝えましたが、義父は鼻で笑って聞き流すだけ。宏樹が萎縮するのを見るのが本当に辛かったですね」
一線を超えた義父に、麻美さんの決断は
そんなある夜、宏樹くんが手を滑らせておもちゃを落とした瞬間、また義父はビクッと反応し、そこからまた怒鳴り散らす展開になってしまい……麻美さんはついに我慢の限界を迎えてしまいました。思わず口をついて出た言葉は、暴力の本質を突くものだったそう。
「幼児に怒鳴って威張るって、大人としての品位はどこへ置いてきたんですか? あなたのしていることは虐待ですよ」
DV加害者が自分の行為を正当化し、指摘に逆上することは珍しくはありません。義父もその典型例でした。
「義父は、顔を真っ赤にして椅子を蹴り飛ばしながら立ち上がり『なんだその口の利き方は! 嫁のくせに! 生意気なんだよ』とブチ切れて、私の腕を強い力で乱暴に掴んで、怒鳴りながら私の脚を思いきり蹴りつけてきたんですよ」
それは、身体的暴力が明確な形となって現れた瞬間でした。
麻美さんは迷うことなく警察へ通報。家庭内暴力への介入に警察が求められるのは、すでに危険性が限界のラインを超えた証拠でもあります。
警察にピシャリと言われて凍りつく義父
パトカー到着後も義父の暴走は止まりませんでした。「俺は何もしてない! 家のことで警察呼ぶなんて、この嫁は頭がおかしい!」と近所に響き渡る声で怒鳴り散らし、義母は涙ながらに止める……。典型的な“家庭内暴力が外部に露見したときの混乱”が、その場に広がったそう。
しかし、警察官は冷静に状況を確認。麻美さんの腫れた腕、蹴られた脚の痕、そして義父の酒臭い息と足元のおぼつかなさを見て一言。
「『この状態で、“何もしてない”は無理がありますよ』とピシャリと言われて、義父はその場で凍りついていました。通報して良かったと心から思えた瞬間でしたね」
こんな環境に子どもを置いておけない
帰宅した夫は状況を聞き、義父の姿を目の当たりにしたことで初めて、これが“家庭内の小さな揉め事”などではないことを理解するに至りました。
「こんな環境に子どもを置いておけない」と強く決意した夫婦は、別居を選択。暴力から距離を置くことは、DV対応において最も優先されるべき安全確保の手段であり、麻美さんと宏樹くんにとって不可欠な一歩でした。
幼い子どもにとって家庭が安心できる場所であるかどうかは、心の成長に大きく影響します。家庭内で起きていることは、外からは見えにくいものです。だからこそ、大人が子どもの安全を最優先に環境を整えることが求められます。麻美さんが踏み出した一歩は、息子さんの未来を守るための大切な決断だったと言えるでしょう。
<取材・文/鈴木詩子>
【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop
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