スマホが「新たな言語」に。古典の傑作が現代を映す鏡となる——。黒木華主演、舞台『NORA』制作発表レポート

『NORA』制作発表会見より、左から)鈴木浩介、勝地涼、黒木華、ティモフェイ・クリャービン(演出)

スマホが「新たな言語」に。古典の傑作が現代を映す鏡となる——。黒木華主演、舞台『NORA』制作発表レポート

3月22日(日) 21:00

提供:

1879年、ノルウェーの劇作家ヘンリック・イプセンが放った『人形の家』。父権的な家庭からの脱却と女性の自立を描き、近代演劇の先駆となったこの傑作が、令和の今、タイトルも新たに『NORA』として日本初演される。演出を手掛けるのは、ロシアで最も権威ある演劇賞を受賞し、ヨーロッパ各国の芸術祭を席巻する鬼才、ティモフェイ・クリャービン。2019年に東京・東京芸術劇場で上演された全編手話劇『三人姉妹』で日本の観客に鮮烈な衝撃を与えた彼が、本作のキーアイテムに選んだのは、現代人の身体の一部ともいえる「スマホ」だ。

セリフの8割がスマートフォンを通じたSNSやFaceTimeなどのテキストで交わされ、その画面がリアルタイムで舞台上のスクリーンに投影されるという演出で、古典が持つ普遍性と、SNS時代の孤独が交差する作品に。東京芸術劇場で開催された制作発表会見には、主演の黒木華、共演の勝地涼、鈴木浩介、そしてクリャービンが登壇。1時間前に初めて対面したばかりという演出家とキャスト陣が、この野心作への展望を語った。

古典『人形の家』を「今」の鏡へと変えるクリャービンの手腕

タイトルの『NORA』は、言うまでもなく『人形の家』の主人公ノラの名に由来する。社会的・経済的に成功した夫ヘルメルの元で、若く容姿端麗な“トロフィーワイフ”として扱われる彼女が、ある出来事を境に自立へと歩み出す物語だ。19世紀末の初演から今日まで世界中で上演されてきたこの会話劇を、クリャービンは大胆に現代のコミュニケーション様式へと翻訳した。
「スマホでのやり取りは、単なる手段ではなく、もはや『新たな言語』の誕生。文字や絵文字で人々が交流するこの現代の言語を、劇場という空間で探求したかったのです」と語る。

演出を手掛けるティモフェイ・クリャービン(中央)

抒情的でありながら、人間の深奥に鋭く切り込む彼の演出は、世界中の演劇ファンを虜にしてきた。日本版『NORA』でも、登場人物たちが手元のスマートフォンで打ち込むメッセージが、リアルタイムで観客の目の前に晒される。相手から届く言葉が、どのような状況で送られてきたのか。普段は決して見ることのできない「送信側のリアル」が可視化されたとき、観客はこの古典が「今を生きる我々の物語」であることに気づかされるはずだ。

黒木華、スマホを手に「現代のノラ」の孤独を生きる

主演を務めるのは、2014年、映画『小さいおうち』で第64回ベルリン国際映画祭・最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞するなど、映像・舞台と活躍する黒木華。
「『人形の家』という古典も、スマホを通すことで現代の人が一番とっつきやすい形になる」と期待を寄せる。劇中で実際にスマホを操作する演出について、「スマホは人生や生活が詰まっている、非常にプライベートなもの。それが演劇の中で現れたとき、どんな見え方に変わるのか。自分自身でも発見するのが楽しみです」と語った。

主演ノラ役の黒木華

一方で、演出から要求されるのは「リアルタイムでの早打ち」。
「実は私、フリック入力ができないんです(笑)。これから共演の(滝内)公美ちゃんとかにメッセージを送り続けて練習します」と茶目っ気たっぷりに話し、会場を和ませた。

ノラの夫・ヘルメルを演じる勝地は、現代版ならではの心理描写に触れた。
「スマホがあることで、いつでも繋がれる反面、結局は思いが伝わっていない。便利になった裏にある、人間関係の不全さを考えさせられました」。

ノラの夫ヘルメル役の勝地涼

また、リモートで行われたオーディションの際のエピソードも披露。芝居の話だけでなくクリスマスの思い出を語り合ったと言い、「今日初めてお会いするまで、受かった理由がわからず不安でしたが(笑)、演出の話を聞いて今はワクワクしています」と笑顔を見せた。

ノラを追い詰めるクログスタ役を演じる鈴木は、クリャービンの革新的なフォーマットに感銘を受けたという。
「スマホでの会話を舞台で表現するというフォーマットは、世界に通用するもの。言葉の裏にある『裏台詞』を、スマホというツールでどう伝えられるか、演劇の基本を大切に臨みたい。52歳にして急激な早打ちに挑戦することに絶望していますが(笑)、精一杯ついていきたい」と意気込みを語った。

ノラを追い詰めるクログスタ役の鈴木浩介画面越しから「対面」へ、クリエーションの幕開け

本作の制作過程もまた、作品のテーマを象徴している。ドイツに住むクリャービンと日本の俳優陣は、これまでずっとモニター越しの会話を重ねてきた。彼らが初めて“フェイストゥフェイス”で言葉を交わしたのは、なんとこの会見のわずか1時間前。クリャービンは「画面を閉じて、やっと本物の俳優たちに会えた。登場人物たちも最後は直接の会話にたどり着く。今日の出会いが、素晴らしい作品の始まりになると確信しています」と感慨深くげに語った。

また、2年前に実施したワークショップで多くの日本人俳優と交流した経験を振り返り「演劇人はひとつの民族。みんなクレイジーで、悩みを共有できる存在」と話し、その言葉の通り、会見場の4人の間には既に濃密な信頼関係が漂っていた。

デジタル化が加速し、AIが生活に浸透し始めた2026年現在。スマホという「鏡」を通して映し出されるノラの姿は、私たち自身の孤独と自立を鮮やかに照射することになるだろう。

舞台『NORA』は、この夏7月15日(水)から26日(日)、東京・東京芸術劇場 プレイハウスにて上演予定。その後宮城、愛知などのツアー公演も予定している。古典の重厚さと最新の演出が融合する、2026年最大の話題作をぜひ劇場で体験してほしい。

会見後には翌日に誕生日を迎える黒木華へ、クリャービンから花束が贈られるサプライズも


〈公演情報〉
『NORA』

原作:『人形の家』ヘンリック・イプセン
演出:ティモフェイ・クリャービン

出演:黒木華勝地涼瀧内公美鈴木浩介ほか

2026年7月15日(水)~26日(日)
会場:東京芸術劇場 プレイハウス
※宮城・愛知公演他予定

公式サイト:
https://nora.geigeki-classics.jp/

ぴあ

エンタメ 新着ニュース

合わせて読みたい記事

編集部のおすすめ記事

エンタメ アクセスランキング

急上昇ランキング

注目トピックス

Ameba News

注目の芸能人ブログ