(画像/PIXTA)
3月19日(木) 7:00
高齢者の賃貸入居に対し、孤独死や認知症のリスクを懸念して慎重になるオーナーや不動産管理会社は少なくありません。その結果、物件の紹介や入居を断られるなど、賃貸住宅探しに難航する高齢者が増えています。
自社で物件を買い取り、高齢者を受け入れてきた不動産会社の取り組みとともに、近年、新たな備えとして注目される死後手続きサポートサービスが課題解決の道筋となるか、取材しました。
2045年問題を見据えて。空き家×高齢者の課題は「面」で支える大阪府の大阪市西成区は、2025年10月1日時点での人口が約10.5万人、2045年には約5.9万人にまで人口が減少すると予測されています。高齢化率は大阪市24区中ワースト1。さらに5軒に1軒が空き家という状況です。この街で不動産管理・仲介業を営む港不動産は、人口減少・高齢化・空き家増加という三重苦に直面してきました。
大阪市と西成区の推計人口(年代別割合)の比較
西成区の将来動向(人口)
港不動産 代表取締役社長の金森匡邦(かなもり・ただくに)さんは、この地域で不動産業を展開する会社としての危機感を切実に訴えます。
「2045年には西成区の人口が半減すると予測されている中で、私たちができることは何か。それを常に考えています。不動産会社は地域のセーフティネットとしての役割も担っていると考えると、高齢化問題と空き家問題は、別々ではなくセットで捉える必要がある。個別の物件という『点』ではなく、地域全体という『面』で支え、解決していかなければならない課題なんです」(金森さん)
金森さんは、一般社団法人大阪府不動産コンサルティング協会で副会長としても活動し、区役所から年間数百件の空き家相談を受けて実務につなげるなど、行政とも連携。週1回の社内会議で課題・事例を共有し、組織的な知識を蓄積しています。さらに先進事例を持つ他社とも情報交換を重ね、業界全体での課題共有を進めているのも同社の特徴です。
「入居後に認知症」のリスク。大阪市で高齢化率ワースト1の街の現実現場ではきれいごとでは済まない現実に直面し続けてきました。特に深刻なのが、入居後に顕在化する認知症の問題です。
「近年、入居時は元気だった高齢の方が、10年、15年と時間が経過する中で認知症を発症するケースが増えています。入居審査の時点では全く問題がないので、事前に防ぐことができないんです」(金森さん)
認知症が進行すると、生じる問題は鍵の紛失といった当人のみの問題に留まりません。ゴミ屋敷化による害虫や悪臭の発生、夜中の奇声、他人の家のチャイムを鳴らし続けるといった迷惑行為により、近隣住民とのトラブルに発展することも。このようなとき、不動産管理会社は「八方塞がり」の状況に陥ってしまいがちです。
「連帯保証人の方に連絡しても対応できないと言われ、先に進めないことが多いんです。行政に相談しても、即座の解決は難しい。でも、その間も近隣の方からはクレームが入り続けます。管理会社として板挟みになり、打つ手がないのが正直なところでした」(金森さん)
従来の、「センサーが反応しなければ連絡がくる」といった見守りサービスは“有事の連絡”“死後の発見”には役立ちますが、こうした“生前の近隣トラブル”や“人的対応”まではカバーできません。現場の疲弊感が極限に達する中、抜本的な解決策が求められていました。
リスクは自社で取る。空き家の買取と「終の棲家」への再生こうした状況を打開するため、港不動産が選んだのは「まず自社でリスクを取る」という方針でした。
「オーナーさんに『高齢者を受け入れてください』とお願いする前に、私たち自身が実践して、本当に対応できるのかを確かめたかったんです」(金森さん)
コロナ禍前後から、相続放棄などの事情のある空き家を低額で買い取る取り組みを開始。現在、5~6戸の一戸建てを自社で所有・運用しています。
購入した物件は、高齢者の入居を想定してバリアフリー改修を実施。中には高齢者の自宅を買い取り、元の所有者にそのまま住み続けてもらうリバースモーゲージのような仕組みを活用している事例もあります。この形なら、高齢者は住み慣れた環境を変えずに資金を得られ、不動産会社は安価に物件を取得できるというメリットが生まれます。
「失敗しても自社の責任。そう覚悟を決めて、実際の運用データやノウハウを蓄積していきました」(金森さん)
この「生きた事例」が、オーナーへの説得力を大幅に向上させました。オーナーに高齢者の受け入れを提案する際にも自社での実践を通じて得た具体的なデータや対応方法を示すことで、オーナーの不安を和らげることができたのです。
少しずつ事態が好転する中、さらなる転機が訪れたのは2024年のこと。青年会議所での知人からの紹介をきっかけに、死後事務委任のサービスを専門に提供する会社「つむぎシニアライフサポート」との連携が始まりました。
つむぎシニアライフサポートは、入居時から死後の手続きまで、司法書士が包括的にサポートするサービスを提供しています。高齢者の入居中は、港不動産とつむぎシニアライフサポートが連携しながら、介護サービスや成年後見制度の利用をサポートし、死亡後は速やかな退去手続きを代行。相続人が相続放棄をしても、残置物処理や各種事務手続きがスムーズに進む仕組みを構築しています。
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「高齢の方の入居について『出口戦略』が明確になったことで、オーナーさんの反応が劇的に変わりました。以前は『高齢者はちょっと……』と断られることが多かったのですが、サービスの内容や専門家との連携体制を説明すると『それなら大丈夫ですね』と前向きな反応が返ってくるように。セミナーでの事例紹介などを通じて拒否感が軽減されたオーナーさんの物件を中心に、この1年間で14件~15件のペースでサービスの導入・高齢者の入居が進んでいます。営業担当者もオーナーさんに自信をもって高齢者の受け入れを提案できるようになり、成約率の向上につながっています」(金森さん)
専門サービスとの連携が、現場の意識も「提案して大丈夫」だと変え、実際の成果につながっているのです。
「高齢者受け入れの鍵」として高まる死後事務専門サービスの存在感不動産会社だけで、高齢者を受け入れる全てのリスクを抱え込むのは現実的ではありません。港不動産がつむぎシニアライフサポートと連携しているように、高齢者の受け入れには専門サービスの活用が鍵となります。
同様の専門サービスは全国でも少しずつ広がりつつあります。山口県に本社を置き、首都圏を主軸にサービス展開をする終活の総合窓口を担う会社、まいぱすの「死後手続きサポート予約」もその一つです。
まいぱすは、行政や公的保険の手続き、死亡・火葬、葬儀準備、各種立ち会い、返納・効力停止など、死後の手続きを包括的に代行するサービスを提供しています。代表取締役社長の田中勢士(たなか・せいじ)さんは保険会社の出身。「数千万円の保険金を届けることはできても、遺族が直面する『役所手続きの多さ』や『悲しむ暇もない慌ただしさ』は解決できなかった」という原体験が、サービス開発のきっかけでした。
同社のサービスの特徴は、入居者本人だけでなく、相続人が契約することもできる点です。高齢者やその家族が物件を探しているときに管理会社やオーナーに提示することで、死亡後のトラブルを避けたい貸し手の安心材料となる。つまり、高齢者の入居の切り札になり得ます。
「高齢者の住まいを確保することは、人としての尊厳を守り地域を支える重要な取り組みです。問題の本質は『高齢者だから』ではなく、万一の際の対応が仕組み化されていないことにあります。だからこそ、事前の備えと支援体制で安心して受け入れられる環境づくりが必要です。
一方、オーナーからすると、賃貸住宅は大切な財産です。高齢者の受け入れは、孤独死などによる財産の毀損リスクが非常に高くなってしまうため、受け入れには慎重にならざるを得ません。そのようなとき、入居希望者が『死後手続きサポート予約』をしていることを示せれば、オーナーの懸念を払拭し、審査を通すための強力な武器になります。
また、不動産管理会社がこうしたサービスを導入すれば、オーナーの不安はさらに大きく減るでしょう。さらに遺品整理を専門としている会社と連携するなど、連合体のようなものを賃貸住宅を取り巻く業界の中でつくっていくことが重要だと考えています」(田中さん)
入居者が死亡したあとのトラブルを未然に防ぐ専門サービスの存在が、不動産業界全体の高齢者受け入れを後押ししているのです。
不動産会社と外部専門家との「連携」は、高齢者受け入れの鍵となり得ます。高齢者が安心して住み続けられる社会づくりは、不動産会社のみで実現するのは難しいかもしれません。しかし、専門サービスや行政、他社との連携によって、その道は確実に開かれつつあります。
港不動産とつむぎシニアライフサポートの連携、また、まいぱすのような死後事務サービスを展開する会社の存在は、全国の不動産会社に「高齢者受け入れ」の解決への道筋を示しているといえるのではないでしょうか。
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