新卒から18年半、テレビ朝日のアナウンサーとして、報道、スポーツ、バラエティなど多岐にわたる番組を担当してきた大木優紀さん(45歳)。
40歳を超えてから、スタートアップ企業「令和トラベル」に転職。現在は旅行アプリ「NEWT(ニュート)」の広報を担当。さらに2025年10月には、ハワイ子会社「ALOHA7, Inc.」のCEOに就任し、家族とともにハワイへ移住。新たなステージで活躍の場を広げています。
第39回は、AIが普及する中で、自身の中で変化した読書体験とその価値について綴っています。(以下、大木さんの寄稿)
「本が読めない」AI時代の読書とは?
みなさんは、最近読書をしていますか?
恥ずかしながら、私はあまり本を読んでいません。このところ、読書の時間がめっきり減ってしまいました。
その代わりに増えたのは、スマホのスクリーンタイム。気づけば、ちょっとした隙間時間も、ついスマホを開いてしまうんですよね。SNSを眺めたり、ニュースを読んだり。気づけば、読書の時間はすっかりスマホに置き換わってしまいました。
もともと私は本が好きでした。とはいえ、ただのミーハーな読書家。いわゆる書店で平積みされている話題作や流行りの小説を読むタイプ。
ところが最近、AIの普及もあってでしょうか。本との向き合い方が、以前とは少し変わってきた気がしています。
今日は、そんな「AI時代の読書」について、少し書いてみたいと思います。
小説は、もうひとつの世界に連れて行ってくれる存在だった
私が読む本といえば、昔から小説が中心でした。
とはいえ、決まったジャンルを読み続けるタイプではありません。面白そうだと思ったものはジャンルを問わず手に取って読んでみて、その作家さんが好きだなと思うと、今度はその人の作品を追いかけていく。
恋愛小説なら、唯川恵さん。歴史ものなら、司馬遼太郎さん。学生の頃から好きで、代表作は一通り読んできました。
こうして名前を挙げてみると、好きな作家がいる程度には本を読んできたのですが、かといって「読書家です」と胸を張れるほど信念のある読み方ではありません。どちらかというと、ただ物語を楽しんでいるタイプの読者です。
小説って、本を開くと、自分の中にもうひとつの世界が立ち上がる気がするんです。
現実世界が辛かったりしんどいことがあっても、「あの物語の続きがある」と思うと救われる。「早く家に帰って続きを読みたい」と思える時間がある。
私にとって小説は、心の支えのような、現実と心のバランスを取ってくれるような存在でした。
ただ、最近はその時間がなかなか取れていません。もうすぐ日本出張を控えているので、「久しぶりに飛行機の中で本でも読もうかな」と思っていたところでした。
とはいえ、今は空の上でも機内Wi-Fiが使えてしまう時代。メールも届くし、動画も見られるし、場合によってはビデオミーティングまでできてしまう。
昔は“読書の時間”だったはずの空の上にも、気づけばスクリーンタイムが入り込んできています。
そう考えると、今の時代「本を読む」という行為そのものが、少し特別なもののように見えてきます。
「ちゃんと本を読んでいる人」という、どこか文化的で知的なイメージ。読書は、いつの間にかそんな“ファッション”のような側面も持つようになってきたのかもしれません。
スタートアップ転職後のビジネス書との出会い
もともと小説が好きだったんですが、4年前にスタートアップ企業である「令和トラベル」に転職をして、それまであまり読んでこなかった「ビジネス書」を読むようになりました。
同僚たちが名著を読んで情報交換をしているのに刺激を受けたり、研修の課題図書にも指定されることがあって、読書習慣が変化していきました。
ビジネス書からの学びも多く、読書の新しいカルチャーを発見することになりました。
そこから派生して、スタートアップ界隈にあるnoteで一般の方が発信する文章も読むようになりました。noteはブログ系の記事も多いのですが、ビジネス界隈ではティップス(業務改善や生産性向上に役立つ実践的なノウハウや知見のこと)が共有されていて、さまざまな経験を学ぶいいきっかけとなり、私自身も書くようになっていきました。
「これでいいの?」AIの普及と読書体験の変化
4年ほど前から、ビジネス書やnoteも読むようになり、そこから2、3年ほどはとてもいい時間だったと思います。新しい考え方に出会ったり、誰かの仕事の工夫を知ったり。文章を通して、人の思考を覗かせてもらっているような感覚がありました。
しかし、ここ半年くらいAIがものすごいスピードで普及して、読書体験が変わってきました。ビジネスtipsの文章を読んでいても、本当に著者の中から生まれてきている文章かな? と思うことが増え、正直なところ、AI出力っぽい文章が多くなっている気がしています。
もちろん、書いている方が持っている知見やティップスは知りたい。だから私自身も、AIに要約してもらって、必要な要素だけを受け取るようになりました。
著者はAIを使って書き、読者はAIを使って読む。
人と人のあいだで言葉を交わしているというより、AIを介して情報を受け渡している。なんだかふと、無味乾燥なことをしているような感じがして……(笑)。
例えるなら、美味しいフルコースの食事を楽しむ代わりに、必要な栄養素をビタミン剤で摂取しているような感覚です。
本来、読書というのは、その文章の空気やリズムも含めて味わうものだったはず。それなのに今は、そこから“必要な情報”という栄養素だけを取り出して、効率よく摂取している。
そんな読み方に、いつの間にか変わってきてしまってきている。最近、そんなことを感じています。みなさんはどうでしょうか?
AIでは味わえない読書の本当の価値
一方で、小説に関しては少し事情が違います。もともと私が小説好きだからかもしれませんが、小説を読むときにAIの要約を使うことはありません。
映画にも「あらすじ動画」がありますが、私はあまり見ない派。ストーリーの間も含めて、その時間ごと楽しみたいと思っているからです。
小説も、まったく同じ感覚で、作者が選んだ「てにをは」、行間の余白や空行。そうしたものを含めた空気感を読んで、物語に入っていきたい。だから、小説に関してはAIを通すことはしていません。
私にとって小説とは、もうひとつの世界に没入して、連れて行ってくれる体験。それこそが、小説の価値だと思っているからです。
ビジネス書において、私はまだ初心者です。
私の尊敬するマーケターの南房泰司さんはビジネス書の愛読家。その南房さんがビジネス書に関して、こんなことをおっしゃっていました。
「本当に優れたビジネス書には、そこに至るまでの著者の世界観とストーリーがある」
ビジネス書というと、つい“ノウハウのまとめ”のように思いがちですが、名著と呼ばれるものには、そこに至るまでの思考や物語がきちんと流れているのだそう。
だからこそ、南房さんは、本当にいいビジネス書は電子ではなくて、紙で読んでいるとも話していました。
「紙をめくる手触りや、本のつまり具合とかを含めて、著者の脳内世界を体験できる」
その言葉を聞いて、納得しました。
小説であってもビジネス書であっても、ただ情報を受け取るだけではなく、著者の思考の旅を一緒にたどる。
これもまた読書の価値のひとつなのだと感じました。
AI時代でも手放したくない「読書の時間」
私自身も、最近はAIによる効率的な情報収集をしています。ビタミン剤のように必要な栄養素だけをインプットする毎日です。
AIの使用を否定するつもりはまったくありません。むしろ、毎日タスクに追われている身としては、本当に助けられている側面もあります。
ただ一方で、心を豊かにする“食事の時間”のような読書は、やはり手放したくありません。
もうすぐ日本に帰る予定があるので、書店に立ち寄って、小説を一冊買ってみようかなと思っています。久しぶりに小説をゆっくり読みたくなりました。
AIで効率よく摂取したい情報と、一文字ずつ時間をかけて味わいたい本。みなさんの中には、その境界線はありますか?
もし最近「これはよかった」という小説があれば、ぜひ教えてください。ミーハーな読者なので、みなさんがおすすめしてくださったら、きっと素直に手に取ってしまうと思います。
<文/大木優紀>
【大木優紀】
1980年生まれ。2003年にテレビ朝日に入社し、アナウンサーとして報道情報、スポーツ、バラエティーと幅広く担当。21年末に退社し、令和トラベルに転職。旅行アプリ『NEWT(ニュート)』のPRに奮闘中。2児の母
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