蘇る名馬の真髄
連載第38回:イナリワン
かつて日本の競馬界を席巻した競走馬をモチーフとした育成シミュレーションゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』(Cygames)。2021年のリリースと前後して、アニメ化や漫画連載もされるなど爆発的な人気を誇っている。ここでは、そんな『ウマ娘』によって再び脚光を浴びている、往年の名馬たちをピックアップ。その活躍ぶりをあらためて紹介していきたい。第38回は、オグリキャップやスーパークリークといったライバルと激闘を繰り広げ、GⅠ3勝を挙げたイナリワンの軌跡を振り返る。
強豪ライバルたちを蹴散らして1989年の有馬記念を制したイナリワン(ピンク帽)photo by Sankei Visual
東京の下町育ちで、曲がったことが大嫌い。豪快な"べらんめえ口調"を発し、粋な走りを見せる――。『ウマ娘』のイナリワンは、こうした"江戸っ子"気質の持ち主だ。
このキャラクターのモチーフとなったのは、1986年~1990年に現役生活を送った競走馬のイナリワンである。同馬は、地方競馬の大井競馬でデビュー。その後、中央競馬に移籍してGⅠ馬までのし上がり、年度代表馬(1989年)にも輝いた地方競馬出身のヒーローだ。そういったストーリーを踏まえて、「下町育ちの江戸っ子気質」というウマ娘の設定が作られたのだろう。
1986年、3歳(現2歳。※2001年度から国際化の一環として、数え年から満年齢に変更。以下同)でデビューしたイナリワンは、それから2年にわたり大井競馬所属としてレースを重ねた。5歳時の1988年12月には、大井競馬における年末の大一番、東京大賞典(ダート3000m)を制覇。この一戦をもって、同馬は中央競馬に移籍する。
1989年、6歳にして新天地に移ったイナリワンだが、いきなり躍動。オープン特別のすばるS(4着。京都・芝2000m)、GⅡ阪神大賞典(5着。阪神・芝3000m)と善戦すると、4月のGⅠ天皇賞・春(京都・芝3200m)で5馬身差の圧勝劇を披露した。さらに、続くGⅠ宝塚記念(阪神・2200m)も勝利。瞬く間に、古馬の中・長距離路線における主役となった。
その後、夏の休養を挟んで挑んだ秋初戦、GⅡ毎日王冠(東京・芝1800m)では、オグリキャップと初激突。最終的にはオグリキャップにハナ差及ばなかったものの、写真判定となる激闘に多くのファンが魅了された。
だが、イナリワンはここからスランプに陥る。毎日王冠のあと、GⅠ天皇賞・秋(東京・芝2000m)は6着。続くGⅠジャパンカップ(東京・芝2400m)では11着と惨敗を喫してしまったのである。
栄光の春から一転、苦渋を舐めることになった秋。崖っぷちに立たされたイナリワンは、年末の「グランプリ」GⅠ有馬記念(中山・芝2500m)で名誉挽回を期すことになる。そして、見事にこのレースを勝って輝きを取り戻したのだった。
1980年代"最後"の有馬記念。驚異のレコード(当時)決着となったジャパンカップで2着入線を果たしたオグリキャップが1番人気に推され、天皇賞・秋でGⅠ2勝目を挙げたスーパークリークが2番人気で続いた。
そんな両雄の"2強ムード"のなか、イナリワンは4番人気。直近2走の内容を考えれば仕方のない評価と言えるだろう。
ゲートが開くと、オグリキャップは2番手、スーパークリークは3番手につけた。両雄が積極的に運ぶ一方で、イナリワンは16頭立ての12番手と後方からレースを進めた。
雨の影響で霞がかるコース上、オグリキャップが早くも先頭に並びかけていく。それを見て、スーパークリークも進出。直線入口では、早くも2強が前に出る展開となった。
このままマッチレースになるのか。そう思われた矢先、いつの間にか両雄の後ろに迫ってきた馬がいた。イナリワンだ。3コーナーから一気にポジションを上げ、直線手前では2強をその視界にしっかりと捉えていたのだ。
迎えた直線、粘るオグリキャップを振りきってスーパークリークが先頭に立つ。完全に勝ちパターンに入ったと思われたが、オグリキャップに代わってイナリワンが猛追。急坂をものともせずに駆け上がり、スーパークリークに一完歩ずつ詰め寄っていく。
2頭の馬体がぴったり並ぶと、そこがゴールだった。写真判定の末、勝ったのはイナリワン。ハナ差で差しきり、勝ちタイムはレコード(当時)だった。
この勝利が最後のGⅠタイトルとなったイナリワン。地方競馬出身のスターホースというと、ハイセイコーやオグリキャップの名が挙がることが多いが、イナリワンも間違いなく歴史に残る地方出身の英雄である。
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