2月28日、米イスラエル両国によるイラン攻撃が発表され、トランプ大統領は最高指導者であるハメネイ師の死亡を明らかにした。これを受けた「なぜ米国やイスラエルをロシアと同列に批判しないのか」との声に対し「答えは単純明快」と語るのは憲政史研究家の倉山満氏だ。個人の道徳基準を当てはめられない国際社会の実情と、問題の核心たる主権国家間の力学について倉山氏が読み解く(以下、憲政史研究家・倉山満氏による寄稿)。
アメリカとロシアを同列に批判できない理由
世の中には、簡単に答えられる問題を絶叫する人がいる。「ロシアを国際法違反だと非難するなら、なぜ米国やイスラエルを同じように批判しないのか? 二重基準だ!」と。答えは「同盟国だからだよ」に尽きる。米国は名実ともに日本の同盟国、イスラエルは友好国である。「友達が悪いことをしたら、悪いと言ってあげるのが友達だ」式の、個人の道徳を国際社会に持ち込んではいけない。そもそも、同盟国も友好国も、友達ではない。
こういう人は、国際法と国内法の区別がついていないようだ。国際法を国内法のように「万人に等しく適用されるべき法律」とでも勘違いしているのか。確かに国内法は、その国の全員に適用される。どんな権力者や金持ちも、人を殺したら逮捕され裁判にかけられ刑務所に送られるのが文明国だ。いかなる権力者でも金持ちでも、政府が捕まえる。この権力を主権と呼ぶ。
では、国際社会に主権者がいるのか? 万国に国際法を適用させる主権者など存在しない。国際社会には、警察も検察も裁判所も刑務所も存在しない。国際刑事警察機構だの国際司法裁判所だのといった、そういう名前の組織はあるが、本気で主権国家に抵抗されたら無力だ。
二重どころか主権国家の数だけある基準
国際社会には、約二百の主権国家が存在する。その主権国家の約束を国際法と呼ぶ。主権者が強制する国内法と違い、強制力はない。話し合いで解決しなければ、最終的には軍事力で解決するしかない。国際社会は二重基準どころか、主権国家の数だけ基準があると言って良い。
最近、ロシアのウクライナ侵攻や、米国のベネズエラやイランへの侵攻で、「国連が機能しなくなった! 国際法に基づく国際社会の秩序が根本的に揺らいでいる! 力による現状変更が認められる世の中になった!」と慌てふためく声が多いが、いつの時代にそんな世の中があったのか。
国連など会議場にすぎない。言ってしまえば、会議場として機能しているのだから、それ以上を求める方が、どうかしている。
国際法は、口喧嘩の道具である。これはバカにしたものではなくて、自分や味方の身を守り、敵を攻撃する武器として、有効である。第二次大戦後の、「主権国家平等」「国境不可侵」「領土尊重」の原則は、それなりの抑止力になっている。現にトランプだって、ベネズエラという国を併合もしないし、領土の割譲すら求めていない。イランにも領土的野心は持っていない。
国際社会は今も昔も戦国時代
ただし、国内法と同じようなものだと勘違いして、「人類の理想だ」などと誰かが考えたプロパガンダを本気にすると、火傷する。
そして、世界はいつの時代も、徹頭徹尾、力の論理で動いている。力の根本は軍事力であり、軍事力に基づいて敵味方に分かれている。今の世界は米国陣営と中露陣営。要するに世界は、今も昔も変わらず、戦国時代なのである。
さて、我が国の選択である。米国との同盟以外に、選択肢があるのか。無い以上、甘い考えで「ロシアと米国のやっていることは同じ」などと口走るべきではない。少なくとも政府関係者は。ただし、精神の奴隷になる必要はない。こういう場合、同盟国友好国の行動への懸念は、政府与党系の民間シンクタンクが発信するものだ。だが、自民党(日本政府の一部である)のシンクタンクは官僚機構である。こういうこともあるので、日本でもシンクタンク文化を定着させる必要がある。
イスラエルがアメリカを引きずっている
それはさておき、侵攻の定義は「挑発もされないのに先制武力攻撃をすること」である。何が「挑発」かの解釈権は、各々の主権国家に委ねられている。つまり、挑発されたと決めつけて攻撃しても、制裁されない限り、何をしても良いのである。
イスラエルは国際法違反の常習犯として指弾されることが多い。しかし、気にしていないようだ。イスラエルは、「国の周り、すべて敵」の状況で生きてきた。己を守るものは一に軍事力、二に諜報力だと信じていて、隠しもしない。三に外交力だが、頼れるのは米国だけ。その米国すら、いざとなれば助けてくれる保証など無いと覚悟している。
以上を踏まえて、今回の米国とイスラエルのイラン攻撃である。宗教原理主義国家イランの独裁者であるハメネイ師を空爆で殺した。私には、イスラエルが米国を引きずっているようにしか見えない。いくつか事実を並べてみよう。
あまりに準備ができていないアメリカ
開戦前、米国はイランと核・ミサイル放棄の交渉と同時並行で、空母二隻を中東に派遣、もう一隻も移動中だった。と言っても、もともとこの地域からベネズエラに派遣していただけであり、戻しただけとも言える。そもそも、ベネズエラの戦後処理が始まったばかりである。「なぜ、このタイミングで?」が浮かぶ。
当たり前だが、空母だけでは、占領はできない。米国はハメネイ討伐後の戦後秩序を、どう考えていたのか。体制転覆後、親米政権を樹立しなければ意味が無いが、それには地上軍の投入が必要である。
イラン政府は、報復として米軍基地にミサイル攻撃を仕掛けている。ホルムズ海峡も「封鎖する。通る船は攻撃する」と宣言、周辺諸国は近づけないで大迷惑。中東在留米国人にも、攻撃の後に退避勧告。米国、あまりに準備ができていない(したら奇襲効果が無くなるが)。
アメリカが融和姿勢を見せた直後の攻撃
何より、和平交渉中だった。一瞬、米国が融和姿勢を見せた2月27日の直後、28日にハメネイが側近たちと一か所に集まって会議をしていた。ハメネイはすべての独裁者と同じように、慎重に自分の居場所を変え続けた。それが捕捉され、28日にイスラエルの攻撃で死去。
常にイランの脅威に苦しめられているイスラエルが、「千載一遇の好機を逃すな」と独走したとしたら? 米国にもついていかない理由は無い。子分が必死で戦っている時に一緒に戦わないと親分ではいられない。
翻って我が国。米国の従属国のように振舞うばかりだが、親分を振り回す事も考えてみたら?
【倉山 満】
皇室史家。憲政史研究家。1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『噓だらけの日本近世史』が2月28日より発売
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