振り返ると、「あの時の自分はなぜあんなことをしたんだろう」と自己嫌悪に陥るような過去は、誰しもが持っていることだろう。
今から10年ほど前に、川久保圭介さん(仮名・34歳)が経験したのも、そんな体験だった。
「デキる自分」の姿に酔っていた
「当時の自分は本当にイタい人間だったと思います。思い返すと本当に恥ずかしいですし、そのイタさを突きつけられることになって、今までで一番ショックな経験でした」
当時、川久保さんは金融系の営業職として活躍していた時期のことだったという。
「割と成果が出せていたこともあって、2年目には新人の育成も任されていました。そうして面倒を見ていた新人の中に、気になる女性がいたんです」
その後輩女性に同行する際は、特に力が入った。
「自分はメリットを理詰めで説明して、断る理由を潰して契約に持っていく手法を得意としていました。彼女が取ってきたアポイントでも、その手法をフル活用して何本か成約することができたんです」
そうした努力の甲斐もあって、川久保さんが告白する形で付き合うことに。
「ただ、告白の時もやや強引に交際へ漕ぎつけた感もあったので、付き合うようになってからも『良いところを見せよう』と頑張っていた感じでした」
良かれと思っての行動は迷惑客そのもの
奮発して高級店で食事をしたり、彼女が好きなテーマパークに宿泊込みで訪れたり、普段のデートでも彼女に喜んでもらうため努力した。しかし、そうした中で川久保さんの悪い癖が出てしまうことがあったという。
「自分は元から物事が計画通りに進まない状況が苦手で、計画を妨害するものがあるとイライラしてしまうタイプでした。デートでそうしたことが起きると、露骨に態度に出てしまっていたんです」
飲食店で料理が出てくるのが遅かったり、タクシーが道を間違えたり、旅行先のホテルの料理がイメージと違っていたり。そうしたことがどうしても許せなかった。
「料理が出てくるのが遅い時は、なぜ遅いのか説明を求め、タクシーが道を間違えた時には運転手に執拗な値引きを求め、料理のイメージが違うと思ったら、スマホの画面を突きつけて出し直させたりしていました。当時の自分は、そうした行動が彼女に『自分のために戦ってくれている』と思ってもらえると思い込んでしまっていたんです」
だが、デートを重ねるにつれ、彼女との仲は深まるどころか、溝ができていく感じがした。
勘違いした男が3年後に知った「無惨な真相」
「結局、彼女から『今は仕事に集中したい』と言われ、別れることになりました。当時は勘違いも甚だしいですが、『自分が出来過ぎてしまうため、彼女は居心地が悪かったんだろう』なんて考えていました……」
その後、川久保さんは最悪な形で、自分の非を突きつけられることになった。
「自分はその後に転職し、3年ぐらい経った頃に前職の同期たちと飲み会をすることになったんです。その席で、『あの頃は若気の至りで、恥ずかしいこともしたよな』という話で盛り上がったんですが、その中で『一番ヤバかった』と名指しされたのが自分でした」
ヤバいとされたのは、彼女が別れを切り出した本当の理由に関することだった。
「自分が店で店員に執拗に文句を言っていたことが、彼女が別れを決意した本当の理由だったんです。その話は部署内に知れ渡っていたそうでした。当時の自分は後輩や一部の同期たちにも成績が悪いときつく当たっていたことがあり、それもマウントと捉えられ、裏で『イキリマン』という不名誉なあだ名で呼ばれていたというんです」
反省してもしきれない、当時の愚行
同期会の席でその話が一番盛り上がったが、それは川久保さんにとって苦痛極まりない時間だったという。
「前職時代、営業成績は同期の中でもトップクラスに良かったので、自分は羨ましがられる存在だと認識していました。ですが、同期たちが語るイキリ散らしていた自分は、あまりにも愚かでダサくて、自己像との乖離が大き過ぎて、本当にショックでした……」
その場は「若気の至り」としてなんとか話を合わせたが、みんなと別れた後で嘔吐するほどショックだった。
「それ以来、カスハラ的な行動は一切しなくなりましたね……。お店のスタッフの年齢に関わらず、丁寧語で接するようになりました」
自分の非を認めるのは難しいものだが、自己嫌悪に陥るほどのショックな経験は、自分を変えるきっかけになるのかもしれない。
<TEXT/和泉太郎>
【和泉太郎】
込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め
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