ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。
それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。
そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。
***
西荻窪駅北口目の前にしばらく前にできた「大衆酒場 麺屋ほっちゃん」という店が気になっていた。
「大衆酒場 麺屋ほっちゃん」
ただ、大衆酒場とラーメンを合わせたコンセプト、ド派手ながらも昔ながらの町中華を意識した店舗デザイン、午前11時から翌朝4時までという営業時間、なにより、店頭メニューの驚異的なまでのリーズナブルさから、なんとなく、大手資本がテスト的に始めた新店であろう、と考えてしまっていた。
酒もつまみも安い
西荻は、個人経営の大好きな酒場がたくさんある街。飲みにきてもつい「次回でいいか」と足が向かないでいたんだけど、先日、移動の途中で小一時間の空きがあり、しかもわりと空腹で遅めの昼食が食べたいタイミングがあったので、入ってみることにした。
「生ビール」
店内はぴかぴかで、注文はQRコード方式。しかも「生ビール」が税込329円という安さ。やはり僕の読みは間違いなさそうだ。このテスト店の経営がうまくゆけば、数年後には数えきれないほどあちこちに店舗が増えているかもしれない。これだけ気軽に飲めるならばそれもいいか。などと考えつつ、まずは軽くおつまみを頼んでみる。「漬物盛り合わせ」(219円)と「大判チャーシューエッグ」(439円)。
「漬物盛り合わせ」
すぐにやってきた漬けものは、自家製ではなさそうだけど、たくあん、しば漬け、白菜漬けの3種類で彩りも盛りもよく、つまみにはばっちりだ。続いてチャーシューエッグも到着。
「大判チャーシューエッグ」
ロールタイプの豚ばらチャーシュー2枚の上に、絶妙な焼き上がりの目玉焼き。下にはたっぷりのキャベツ。上からチャーシューのたれとコショウがたっぷり。これはテンションが上がるひと皿だ。
いったん玉子を端に寄せてみる。大判というだけあってチャーシューが巨大。かぶりつくと、濃いめの甘じょっぱい味つけと、とろける豚の旨味と、炙りの香ばしさが口いっぱいに広がり、ビールがぐいぐいすすんでしまう。当然、玉子の黄身を崩してそのまろやかさをチャーシューにまとわせるのも至福だ。
おのずと酒がすすみ、「強炭酸ハイボール」(219円)をおかわり。
うまいに決まってる
ハイボールもいい!
続く布陣決めにしばらく悩む。一品つまみはまだまだ豊富にあるから、あと2品くらい頼めばだいぶ満足できるだろう。また、6個384円、3個219円という破格の「餃子」に、219円の「白飯」を合わせるという手もある。定食類や、「五目炒飯」「トロ豚コロチャー丼」などのごはんものも魅力的。が、初訪問だし、せっかくだからやっぱりラーメンを攻めてみたい。
麺類メニュー
「当店自慢」とある「極上中華そば」「野菜たっぷりタンメン」「宍道湖しじみの旨塩ラーメン」の3種をはじめ、これまたバリエーションが多彩。多くのメニューに、酒飲みに嬉しい「ハーフ」があるのも嬉しい。まずはいちばんシンプルな「極上中華そば」(659円)かな。
「極上中華そば」
やがて中華そばが到着した瞬間、いい意味で予想を大きく裏切られた。これまでほっちゃんに感じてきた要素から、僕は勝手に、老若男女誰にでも食べやすい、ごくシンプルな透き通った東京醤油ラーメンがやってくるものとばかり思っていた。ところが目の前のラーメンのスープは、1cm先が見えないほどに濁り、脂もたっぷりと浮いている。
さっそくひと口すすってみると、うわ!やっぱりとろりと濃厚。鶏ガラベースと思われる旨味を極限まで煮詰めたようなインパクトがすごい。印象的なのは強めの甘みで、これが醤油の味と合わさってクセになる味わいだ。かといってしつこいわけではなく、とにかくバランスの良いスープ。値段からはとても信じられない手の込みように思える。
麺は色白のストレートで、具材はメンマ、なると、ねぎ、それから、食べるのが今日3枚目となるチャーシューと、シンプル。スープにじゅわりと浸ったチャーシューが、先ほどよりもさらに官能的なとろけっぷりを魅せてくれてうまい。
何枚あっても困らないチャーシュー
そして麺。これまたいい!ぷりぷり、ぱつぱつとした歯切れのいい食感で、噛むと小麦の風味がふわりと広がる。とろりとしたスープをたっぷりと絡めてすすればすするほどに、全身が幸福感で満たされてゆく。
総じてクオリティの高い1杯
実は数年前、ある週刊誌で、毎週1軒のラーメン店を取材して紹介するという連載記事の取材執筆を担当させてもらっていたことがある。酒場ライターの僕としては珍しい酒以外の仕事で、だからこそ、それまであまり日常的に食べるものではなかったラーメンの奥深さを知り、大好きにもなった。
そのシリーズでは、都内の名店と言われる店を50数軒はめぐっただろうか。もちろんどこのラーメンも個性的でうまかったが、個人的に特別その味に感動し、今でも記憶に強く残っている店がふたつある。そのひとつが、北千住にある「麺屋音」。毎回撮影を担当してくれていたカメラマンさんとも、後々まで「あそこ美味しかったですよね?」と語り継いだくらいなので、ハマるひとにはハマる店で間違いないだろう。濃厚なのにえぐみがまったくない煮干しラーメンで、当時の記事を見返してみると、僕はその味を「丼一杯のフルコース」とまで評していた。
なぜそんな思い出話を始めたかといえば、今回ほっちゃんのラーメンを気に入り、あとからWEBで情報を確認してみたところ、なんとここ、あの麺屋音と同じ、株式会社天翔という会社が運営していたのだ。天翔は現在、麺屋音を東京と埼玉に合わせて6店舗、それから新業態として、北千住に「純とんこつラーメン天翔」と、ここほっちゃんを運営する、小規模チェーンらしい。
味のタイプこそ違うものの、あの店のグループ店ならばそりゃあうまいだろうと、勝手に納得。点と点がつながったような感覚で、よけいにほっちゃんのことが大好きになってしまった。
加えて麺屋音は、なんと僕の行動範囲から近い練馬駅近くにも店舗ができているらしい。これは近々、必ず食べにいかなくては。その際は、またこちらでご報告いたします。
取材・文・撮影/パリッコ
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