2月18日(水) 2:30
まず確認したいのは、通帳レスであること自体が相続手続きの可否に直接影響するわけではないという点です。預金は被相続人の財産に含まれ、金融機関所定の手続きに従えば、払い戻しや名義変更は可能とされています。これは紙の通帳がある場合と基本的に変わりません。
もっとも、通帳レスの場合に問題となりやすいのは「口座の発見」です。従来は自宅に保管された通帳を手がかりに金融機関名や支店名を把握できましたが、通帳が存在しない場合、遺族が口座の所在を把握しにくくなります。
特にネット銀行やアプリ専用口座では、ログイン情報が分からなければ残高や取引履歴を確認できません。このため、相続人が口座の存在自体に気づかない可能性が高まる点が、実務上の大きな論点といえます。
通帳がなくても、金融機関に対して相続人であることを証明したうえで照会を行えば、残高証明書や取引履歴証明書の発行を受けることは可能です。
ただし、どの金融機関に口座があるのかを特定できなければ、個別に問い合わせることになります。したがって、故人の郵便物やメール履歴、スマートフォン内のアプリ情報などから金融機関名を確認する作業が必要になる場合があります。
なお、預貯金口座付番制度では、預貯金口座にマイナンバーを紐付ける仕組みが設けられています。これは任意の制度ですが、被相続人があらかじめマイナンバーに口座を紐付けていれば、相続時に一定の手続きを経て複数金融機関に対する照会を行いやすくなるとされています。
ただし、すべての口座が自動的に把握できるわけではなく、紐付けの有無や手続きの方法によって結果は異なります。このため、制度があるから安心と断定することはできません。
通帳レス口座が増えるなかで重要となるのは、生前の情報整理です。どの金融機関に口座があるのか、少なくとも金融機関名や支店名を家族が把握できる状態にしておくことは、相続手続きの円滑化につながります。
例えば、財産目録を作成して主要な預金口座を一覧にまとめたり、遺言書に財産の概要を記載したりする方法が挙げられます。ログインパスワードそのものを共有することは情報管理上の問題がありますが、口座の存在を示す情報を残しておくことは実務上有効と考えられます。
また、預金は相続税の課税対象財産となるため、申告が必要な場合には漏れなく把握することが求められます。口座の存在に気づかず申告から漏れた場合、結果として修正申告や追徴課税の対象となる可能性もあります。したがって、通帳レス化を選択する場合でも、相続を見据えた財産管理という視点が重要になります。
通帳レス口座であっても、制度上は通常の預金口座と同様に相続手続きを行うことが可能です。したがって、通帳がないこと自体が法的な障害になるわけではありません。
一方で、遺族が口座の存在を把握しにくいという実務上の課題は否定できません。とりわけネット銀行やアプリ専用口座では、情報がデジタル上に限定されるため、発見の難易度が高まる傾向があります。
預貯金口座付番制度といった仕組みは整備されつつありますが、任意である点や手続きの必要性を踏まえると、現時点では万能な解決策とはいえません。
このため、通帳レス化の利便性を享受しつつも、金融機関名など最低限の情報を整理しておくことが、相続時の混乱を避ける現実的な対応策といえるでしょう。制度を踏まえた事前の備えが、結果として相続手続きの負担軽減につながると考えられます。
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー
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