聖地が迎えた、半世紀という名の静かな熱狂|特集:レトロモビル2026 Part 1

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聖地が迎えた、半世紀という名の静かな熱狂|特集:レトロモビル2026 Part 1

2月16日(月) 13:30

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文化としての「50年」
パリ、ポルト・ド・ヴェルサイユ。冬の曇天の下、世界中のクラシックカー・フリークが吸い寄せられるように集まるこの場所で、ひとつの大きな節目が祝われた。1976年に始まった「レトロモビル」が、今年で開催50周年を迎えたのだ。

【画像】レトロモビルの会場を彩った数々の名車や希少車。戦前車から最新コンセプトモデルまで(写真25点)

黎明期、数社のクラブと愛好家が集った小さなサロンは、いまや18万人を超える観客を集める世界最高峰のヘリテージの祭典へと育った。だが会場を歩いて肌で感じるのは、商業的な喧噪よりも、もっと根源的な「内燃機関文化への敬意」だ。規模が拡大しても、その根底にある「個人の情熱を公の記憶に昇華させる」というフランス特有の精神は、半世紀前から一点の曇りもなく貫かれている。

走る「現代アート」と、泥の記憶
今回の公式ポスターを飾ったのは、1975年のアレクサンダー・カルダーによるBMW 3.0 CSL。これは偶然ではない。BMWのアートカー・コレクションもまた、誕生50周年を超え、レトロモビルと同じ時代を歩んできた盟友なのだから。パビリオン7.2には、ル・マンを戦った「走る彫刻」たちが集結し、速度という抽象概念を色彩で表現した当時の衝撃を現代に伝えていた。

その対極にあるのが、「ラリーの黄金時代」をテーマにした企画展だ。ランチア、トヨタ、ミニ、フィアット。泥とオイルにまみれ、機能美のみを追求したグループ4からグループA時代のモンスターたち。現代のSUVブームとは似て非なる、純粋な闘争の歴史がそこにはあった。

そしてオフィシャル展示の白眉が、ブガッティの「オトライユ(高速気動車)」である。全長23メートル、重量40トン。ミュルーズの国立鉄道博物館からパリへ陸送されたこの巨人は、かつて世界恐慌下のブガッティ社を救った救世主だ。屋根の中央に突き出した孤独な運転席(キオスク)から、ジャン・ブガッティは時速196kmで流れる景色を見下ろしていた。その足元には、空力実験車「タンク」や未完の遺作「タイプ64」が寄り添い、陸上のあらゆる速度を支配しようとしたモルスハイムの執念が、真空パックされたように保存されていた。

メーカーたちが問う「ヘリテージの現在地」
レトロモビルの主役は、主催者展示だけではない。自らの歴史を現代のブランディングに巧みに取り込む自動車メーカーたちのブースも見逃せない。

今年、最も誇らしげな空気に包まれていたのは、DSオートモビルだ。シトロエンDSの誕生から70周年。会場にはドゴール大統領の専用車が持ち込まれ、そのレストアに関わった職人や関係者が、フランスという国家の「守護神」であった時代を回顧する。単なる工業製品を超え、文化記号となったDSの威光は、70年経っても色褪せることがない。

対照的に「現場の熱気」を再現したのはプジョーとルノーだ。プジョーは「GTI」の血統をテーマに、伝説の205 GTIと最新の208を並べ、ホットハッチの精神が不変であることを強調する。一方のルノーは、アルピーヌと共に「内燃機関への惜別」と「純粋な走り」を表現した。NAスポーツの傑作クリオ・ウィリアムズや、ガソリンエンジン最後のアルピーヌとなるA110 R ULTIME(ウルティム)。去りゆく時代への敬意と、次世代へのバトンタッチが交錯する、痛切なほどに美しい展示だった。

また、シトロエンは戦前の2CVプロトタイプと最新コンセプト「ELO」を対比させ、いつの時代も変わらぬ「アヴァンギャルド(前衛)」と「ミニマリズム」の哲学を提示してみせた。

東洋からの共鳴
フランス勢の独壇場かと思いきや、日本からのゲストも負けてはいない。ホンダは、新型プレリュードのコンセプトと共に、歴代モデルが世界に先駆けて採用した技術(サンルーフや4WS)を紹介し、「技術屋」としての変わらぬ魂をアピール。そしてマツダは、1991年のル・マン優勝車の姉妹車(リザーブシャシー)である787Bを展示。あの甲高いロータリーサウンドの記憶は、フランス人の心にも深く刻まれているようで、ブースは常に黒山の人だかりだった。

50周年を迎えたレトロモビルが見せたのは、単なる懐古趣味の展示会ではない。過去への敬意を払い、それを未来へのエネルギーに変えようとする力強い意志だ。

さて、第1回では会場を彩った展示車両を中心にレポートしたが、レトロモビルの深淵は「市場」にこそある。次回Part 2では、コレクターたちが熱い視線を注ぐオークションの結果と、会場で見つけた掘り出し物から、クラシックカー市場の「現在地」を読み解いていこう。

・・・Part 2へ続く


写真・文:櫻井朋成Photography and Words: Tomonari SAKURAI
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