移動に欠かせない交通手段のひとつである電車。しかし、通勤や通学の時間帯は混雑するため、殺伐とした雰囲気がある。車内では譲り合いの精神を持って、お互い気持ちよく過ごしたいものだ。
今回は、電車で経験したトラブルに関するエピソードを紹介する。
「この電車が先に着く」そのひと言を信じたのに
数年前、都市部に寒波が直撃し、雪の影響で交通機関が乱れた日のことだった。佐々木健一さん(仮名・30代)は、どうしても外せない用事があり、仕事帰りに電車移動を続けていた。
「いつもなら移動は諦めるような状況でした。でも、その日はどうしても“間に合わないと困る”予定があったんです」
スマートフォンで“乗換案内”を何度も更新したが、表示される情報と現実がかみ合っていなかった。駅の電光掲示板には遅延や運休の表示が並び、判断するのに困っていたという。
「結局、頼りにしたのは“駅員さんのアナウンス”でした」
乗換駅のホームで流れたのは、「次に到着する各駅停車が、終点まで先に到着します」というアナウンスだった。
「私は“その言葉”を信じて、後から来る急行を見送って、目の前の各駅停車に乗り込みました」
先に走り去った急行電車を見送ることに
しかし数分後、状況は一変した。佐々木さんが乗った電車が発車を待ったまま停車している横を、急行電車が走り出したのだ。
すると、車内ではすぐにざわめきが起こった。
「え、どういうこと?」
「こっちが先じゃないの?」
「話が違うよね」
疲れ切った乗客たちの声が、あちこちから漏れていた。
「案内ミスなのか、急な変更なのか……。それすら説明がなかったのが一番納得できませんでしたね」
その後も、発車の順序が入れ替わった理由や謝罪はなく、佐々木さんの乗った電車は“後回し”にされたままだった。
「大幅なダイヤ乱れで、現場が混乱しているのは重々分かっていましたけど、アナウンスを信じて選択した結果が“これか”と思うと、ガッカリです。置き去りにされた感じがして、気持ちの整理がつきませんでした」
あの夜の違和感は、雪が降るたびに今でも思い出すそうだ。
「肩が当たった」で止まった電車
大手鉄道会社に勤めていた山本直樹さん(仮名・20代)。冬のある夜、都内某駅での夜勤に向かう途中だった。
「終電間際の埼京線ホームは、仕事帰りの乗客で混雑していました」
電車のドアが開いた瞬間、降りる中年男性と、乗り込もうとしていた若い男性の肩が軽くぶつかったという。
「よくあるレベルの接触だったと思います」
しかし、お酒が入っていたのか、若い男性が突然声を荒げたのだ。
「肩が当たっただろ!」
中年男性も「当たっていない!」と言い返し、口論は一気にヒートアップした。
二人を引き離さないと危ないと思った
電車は止まり、周囲の乗客は関わらないように視線を逸らしていた。一方、二人は睨み合い、今にも手が出そうな空気だったようだ。
「これは放っておいたら、殴り合いになると思いました」
山本さんは迷わず二人の間に入り、「落ち着いてください」と声をかけながら、距離を取らせた。鉄道会社の社員として、「まず、安全を確保する必要がある」と判断したという。
「何があったのか、順番に聞かせてください」
そう伝えると、お互いに言い分を話し始め、次第に語気が落ち着いていった。数分後、「ここで終わりにしませんか」と促すと、若い男性が先に謝り、中年男性もそれを受け入れたそうだ。
「電車が動き出したときは、車内の様子が明らかに“安堵した空気”に変わっていたので、安心しました」
電車の遅延は、10分ほどで済んだようだ。
その後、駅員に状況を伝えると、「山手線内で人身事故があり手が回らなかった。本当に助かりました」と感謝された。
「すぐに止めなかったら、傷害事件に発展していた可能性はあったと思います。そうなっていたら、電車はもっと長く止まっていたでしょうし、誰かが怪我をしていたかもしれません」
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。
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