東野圭吾氏のファンタジー小説を劇場アニメ化する「クスノキの番人」(公開中)。同作は“東野圭吾作品初のアニメ化”プロジェクトだが、TVシリーズではなく、あえて“映画”にした理由とはなんなのだろうか。本記事では「アニメーション映画」という結論に至るまでの秘話を紹介する。
「その木に祈れば願いがかなう」と伝えられるミステリアスなクスノキと、その番人となった青年の運命を描く。「少年と犬」「ブルーピリオド」の高橋文哉が主人公の直井玲斗役を演じ、物語のカギを握る伯母・柳澤千舟役を天海祐希が務めている。1月30日に公開を迎えると、SNSでは「心震える作品」「最後のシーンはもう…涙腺崩壊」「想像を遥かに超えて心が温かくなった」といった感想が飛び出していた。
本作は、製作プロデューサーから放たれた「東野圭吾作品で映画をやりたい。まだ成し遂げられていない『初のアニメ化』に挑みたい」という一言をきっかけに動き出した。監督として白羽の矢が立ったのは、「HELLO WORLD」や「僕だけがいない街」で知られる伊藤智彦。東野作品のアニメ化において不可欠なのは、緻密なストーリーを支える「人物描写」のリアリティ。日常の機微や人間ドラマを丁寧に描き出す伊藤監督の手腕こそが最適であると考え、打診に至った。この呼びかけに伊藤監督も共鳴し、精鋭たちが一堂に会したことで、前例のない挑戦が幕を開けた。
当初、どの作品をアニメ化するかについては慎重な議論が重ねられた。東野作品の代名詞であるミステリーは実写向きとの声も上がり、「アニメでやる意味」が厳しく問われた。既実写化の作品も含めいくつかの別候補も上がっていたが、決め手に悩んでいた。そんな折、原作者側から「今書いている作品がアニメ向きだと思うが、この作品をアニメ化できないか?」と提案があった。
それが、「クスノキの番人」だった。
東野作品といえば、キャラクターの造形とストーリー構成が緻密かつ均一に計算された、圧倒的な構築美が真骨頂。本作でもその高い計算性に基づいた設計図が、アニメならではの自由な演出で具現化されている。
シナリオ制作においても、アニメ独自の解釈を東野氏が快諾。例えば、物語の鍵となる優美(CV:齋藤飛鳥)のピアノ演奏シーン。原作ではピアノの先生が弾く場面を、アニメでは優美自身が弾くという構成に変更した際も、東野氏から「いいと思います」と太鼓判を押されたという。常に映像をイメージしながら筆を執る東野氏の流儀と、アニメーションという表現手段が、ここで確かな「最適解」として結実したのだ。
また、本作があえてTVシリーズではなく「映画」という形を取ったことにも明確な意図がある。主人公・玲斗の、決して完璧とは言えない未熟な青年からの成長を、一気呵成に描き切るには映画という尺が最適だったからだ。毎話の引きを求められるシリーズものよりも、1本の映画として密度とクオリティを極限まで高めることで、玲斗の心の変化をより深く、鮮烈に観客へ届ける選択をしたのである。
実写では物理的な制約に縛られてしまうクスノキの神秘的な輝きや、目に見えない“思い”の可視化。それらを脳内のイメージ通り、寸分狂わずに表現できる手段こそが、色彩と光を自在に操れるアニメーションだった。
制作が進んだのは、誰もが困難に直面していたコロナ禍。会いたい人に会えない、伝えたい言葉を閉じ込めざるを得なかった人々の姿に、伊藤監督は「実際にクスノキのような存在があったらいいのに」という思いを抱いた。漫画原作やアクション作品のアニメが流行する中、伊藤監督が、あえて挑んだ重厚なヒューマンドラマ。「伝えたかったけど伝えられなかった思いが世界中にあふれている。クスノキみたいなものが本当にあったらいいのに」という切実な願いが、映像美の中に凝縮されている。
【作品情報】
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クスノキの番人
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(C)東野圭吾/アニメ「クスノキの番人」製作委員会